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片割れ

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ありがとうございます。


私の自覚。それは私がベルトリアと違う存在の魂だと分かっているのか、ということ。私は生まれ変わってベルトリアになったと思っていたが、本当はベルトリアの中に産まれた時から私が居たというように考えた方がいいみたいだ。

私の中にベルトリアがいる。自分の中の魔力を感じてみる。ずっとそこにある私の魔力。でもその奥の隠れたところにもう一つ、何かがあるのだろうか。


「トリアちゃんには言ってなかったんだけど」とお母様が話始める。


お母様によると、私の両親共に魔力感知に優れているとのこと。これは各家系に血で伝わる魔力の属性に大きく起因するものらしい。お母様は私を身籠った時に二つの魂を感じた為、双子を身籠ったのだと感じたらしい。だがいざ産まれてみれば、一人の人間に二つの魂が混じり合っている状態だった。この時にお父様も違和感を覚えたようで、私の成長を時に注意深く観察し、警戒しつつも見守ってきたらしい。


「貴女達の魂がどんなふうに変化していくのか分からなかったの。」

お母様は小さくため息を零す。

私のような状態で産まれてくることは珍しいが、無いわけではないらしい。だがその状態で無事成長することも少ない。魔力がうまく融合できずに魔力暴走を起こし、命を失うこともあるという。


「トリアには、たまに人格が二つあるのではと感じる時があった。きっと君にはその自覚はないのだろうけど、僕たちが見ていたトリアはそれぞれの魂の持つ面の、どちらかが表に出てきている状態だったんだね」

お父様は私の瞳を見つめる。

そんな時あったっけ?自覚が全くない。私の持つ二面性。魂の二面性というべきものだろうか。


「表情が豊かな快活でイタズラばかりする時、ほとんど表情もなくじっと何かを見つめ動かない時。流石にここまで言うと少しわかるかな」

お父様が苦笑いで私に問う。

確かに私の表情筋お仕事しないから、表情が乏しいのは自覚あるよ!でも小さい頃の私に、表情が豊かな場面があったのかは想像がつかない。


「君が成長していくにつれて、君の表情は段々と以前の快活な時より乏しくなっていった。きっと二つの性格の中央で落ち着いてきたんだろう。」

お父様が少し寂しそうに微笑む。

「これは君たちが混ざり合っていっている証拠だよ。いい兆候だ。

 ただ、私たちは少し寂しく思うよ。大切な子供が一人減るように感じる」


「そうなの。だから貴女達が一人に完全になる前に、今表にいる貴女のことについて知りたいと思ったの」

お母様は小さく微笑んだ。


その時馬車の速度が緩やかになり始めた。どうやら家についたらしい。


「続きは夕食の後にでも話すとしよう。うちの家系の属性魔力のことも話さなくてはいけないからね」

お父様は話を切り上げ、開かれた馬車の戸から外に出ていく。そのままお母様をエスコートし、そのあと私を抱え上げる。

荷物は迎えに出てきていたお父様の侍従が運んでくれている。


タウンハウスといっても侯爵家だ。庭園を含めかなりの広さを持っている。白亜の三階建ての屋敷を見上げ、改めて大きいなと感じる。屋敷はコの字型をしており、玄関ホールは吹き抜けとなっている。

「さあ、まずはゆっくり着替えてきなさい」

ホールで私を下ろしたお父様は、私を侍女に預けそのまま自室の方へと向かっていった。

「またあとでね、トリアちゃん」お母様もその背中を追う。

私は侍女に手を引かれ、二階の自室へと連れていかれた。



私の部屋は二階の階段を昇ってすぐの場所にある。屋敷の部屋は中庭か、表の庭園を見下ろせる作りになっており、私の部屋は中庭を見渡せる。

私付きの侍女のアニーに部屋へと連れられ、着ていたドレスを手際よく着替えさせられていく。簡素な水色のワンピースに着替えた私は夕食に呼ばれるまで、一人になりたいとアニーを下がらせた。


「私の中のベルトリア、ベルトリアの中の私。」

私はずっと一人だと思っていた。けど両親は人格が二つあると思っていた。何だろう、この違和感。

小さい頃に思いを馳せる。確かに私はイタズラが好きで、何をしたら面白いのか―――と計画を練っていた。あれ、誰と計画を練っていたんだっけ。いや、私一人なはずだ。

昔、庭の噴水で遊んでいるのを危険視したお父様が慌てて走ってきたことがあった。私は前々から計画していたそのイタズラを実行した。私が落ちると先走ったお父様は慌てて走ってきて、ひらりと私が避けるのを横目に、ドボンと豪快に落水した。

あの時は声を上げて笑ったなあ。あの子も珍しく笑ってて。


あれ、あの子って誰。


記憶の中の存在を認識した瞬間に、何だか胸の中にストンと落ちていくものがある。

そうか、そうだった。ずっと一人だと思っていたけど、ずっと二人だと感じていた。寂しい時は、あの子を感じて寂しくなかった。


『思い出しちゃったね、私たち』

頭の中で声がする。

『別々のモノだと思っちゃうと離れちゃうみたいだね』

頭の中の声がそう言って寂しそうに笑っているのが分かる。


「違うよ、忘れていた私の片割れを感じていて嬉しいの。そんなこと言わないで」

私は小さく零す。


お願い、そんなこと言わないで。ベルトリア。






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