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いよいよ夏季休暇も終わりに差し掛かる。私達は昨日ようやく水の郷から、領地へと戻った。領地に戻ると闇に狙われると騒ぐ私に、光の精霊王と妖精王が加護を付けたアクセサリーをプレゼントしてくれた。小さなクリスタルを散りばめた髪飾りと、可愛らしい大小様々なクリスタルの指輪を重ねて円形にしたネックレスだった。

これを付けていると、魔が寄ってきにくいらしい。見付けにくくもなると言っていた。それでも家族が狙われないとは限らないので、今度精霊王と妖精王に教わって自作するつもりである。


「おはようございます、お嬢様」

目を開けるとアニーがカーテンを開けながら、優しく微笑んでいた。

「おはよう、アニー。今日も平和かしら」

「ええ、平和に始まりましたよ。何も起きていません」

私は被害がなかったかどうか、それを確認するのが日課になりつつある。目が覚めた時に大切な人たちが事切れている、そんな夢を何度か見てしまったのが切っ掛けだった。やっぱり図太いと言っても、私まだ七歳なのよ、うら若き乙女よ。

「明日には王都に戻るのですから、レポートを仕上げねばなりませんよ」

私が思考を明後日に飛ばしていると、アニーによる現実への引き戻しが行われた。そうだ、課題のレポートを用意したが、これが秘匿事項に触れないかの確認もしなくては!

「妖精の習性についてレポートにしたの…。でも秘密にしなくてはいけない事に、触れていないか不安だわ」

私はアニーに簡素なドレスに着替えさせられながら、レポートについて考えを巡らせる。アニーは私の顔を塗れたタオルで優しく拭うと、そっと化粧水と乳液を馴染ませてくれた。あっと言う間に支度が終わり、朝食の席へと連れていかれる。

「なんだか今日、忙しないね」

「そうですか?今日はお客様が来ていますから!」

アニーはそれだけ言うと食堂の戸を叩き、私を案内してさっと外に出てしまう。私は諦めて顔を上げ、そして驚きの声を上げる。

「え、ちょ…シリウス!?」

私の視線の先にはお兄様と談笑する、シリウスと緑の精霊王の姿があった。




「おはよう、トリア!母様に連れられて、さっきここに来たんだ」

シリウスは嬉しそうにそう言うと、私に駆け寄って挨拶のハグをしてくる。私も呆然としたままハグを返し、むっとした表情でこちらを見るお兄様にもハグをした。

「ああ、可愛い妹のハグで朝を迎えるのって幸せだね…。これから毎日したいくらいだ」

「変なお兄様、ほとんど毎日しているじゃない」

「学校ではしていないじゃないか」

「会えば抱きしめてくるクセに」

私達がテンポ良く話をしていると、シリウスは少し離れたところで苦笑いを浮かべている。そういえば人との関わるのが苦手だった。

「シリウス、もう話していたと思うけどお兄様のルーファス。学校で先生もしているの」

「改めて、よろしく頼むね」

「は、はい!」

シリウスは青みがかった髪を揺らして、勢いよく返事を返した。ふわりと揺れる柔らかな髪が、なんだか子犬の様に見えて微笑ましかった。





バタバタした朝食の時間も終わり、精霊王に連れられて屋敷の庭をシリウスと三人で歩く。色とりどりの花々が風に揺れ、ふわりと暑い日差しに熱された風が頬を撫でる。なんて、風流な表現をしてみようかと思ったけど、無理暑い溶けちゃう…。ああ、氷の粒を体の周りに散らせばいいのかな…。気分はダイアモンドダストよ…。

そんな風に思いながらふわっと魔法を使ってみる。一気に自分の周囲が涼しくなって、快適空間が広がる。すぐ隣にいたシリウスがギョッとした顔でこっちを見て、すぐにキラキラした顔で自分にもしてと目線で訴える。そうか、君も暑かったのね。

「なあに、二人で涼んでるの。私にもしなさいよ」

「精霊王様は自分で出来そう…」

「私は緑の精霊王よ?水属性は扱えないわ」

精霊王も不機嫌な顔で私に頼んでくるので、噴水の傍のベンチの木陰で魔法を使って涼んでしまう。


「それで、何か話が合って連れ出したんですよね」

「ええ、そうよ。シリウス、大切なことだからよく聞きなさい」

私が精霊王に問いかけると、キリっとした顔で精霊王は答える。こうやって親子並ぶと顔がそっくりである。

「母上、どうしたの?」

シリウスが不安げな顔でこちらを窺っている。

「休暇が明けると貴方も学校に行く。それは以前説明したと思うけど状況が変わったわ」

「状況…?」

「ええ、悪いほうに。ベルトリアが白の乙女に選ばれ、数年後には闇との戦いが始まると思っていて」

精霊王の言葉にシリウスは目を見開く。彼も何か知っているのだろう、口をパクパクとして私と母親を交互に見つめている。そして段々と顔を赤らめて、ぐっと唇を噛んだ。

何だ、百面相か。エルフの里では彼も無表情で通っていたけども、何が起きたの?私が不思議に思い精霊王を見上げる。

その時、シリウスが突然「あの!」と声を張り上げる。

「ぼ、僕がベルトリアを守るよ!」

私はポカンと口を開け、精霊王はニヤリと口角を上げる。

「それでこそ男よ!!流石私の息子!」

「母上、任せてください。僕頑張ります!」

ちょいちょいちょい、そこの親子。急にどうしたの、置いて行かないで!その急に始まった熱い空気に私、弾き出されていますけど!

私が目を白黒させ、慌てていると精霊王が私を見つめる。そして私の両手をぐっと掴むと、顔を眼前に運び目力で黙らせられる。


「この戦いに息子を巻き込みたくはない。けどどうせ巻き込まれるなら、好いた女の一人くらいは守れないとね」

彼女はそれだけを真顔で私に飲み聞こえる声で言うと、にっこりと微笑んだ。

「貴方の婚約者レース、私は不本意ながら息子と夫は喜び勇んで参加するの。どうかよろしくね?」

「ベルトリアに選んでもらえるように、僕も頑張るからよろしくね!」

私は悪魔の微笑みの精霊王と、天使のようなシリウスを見比べ乾いた笑いしか出てこなかった。

どうしてこうなったんだ…。





我が家の猫自慢をこっそり投稿しています。こちらは完璧日記のようなものなので、興味のある方は見てみて下さい。

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