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皆の傷




「ねえ、お爺様。私闇以外の全属性使えるのだけれど、これが役に立つかしら」

私は頭の中で練った魔法の理論と、妖精の血に刻まれた魔法を使って新しい浄化魔法の構成を練った。そしてそれを魔法陣に起こし、お爺様と王達の前に提示する。魔法陣は魔法の公式みたいなものだ。その式通りに魔法が構成され、使われている。

魔法陣を使用するのは古代魔法として使われていたものがほとんどで、今現在使われているものは式には起こせるが、魔法陣は必要ないとされている。


お爺様は私の起こした魔法陣を見つめ、目を見開いて固まってしまった。他の王達も驚いたように、ブツブツ呟いて動かなくなってしまった。

「あれ、皆様?」

私がそう声を掛けると、緑の精霊王にガッと肩を掴まれた。

「どうやってこの理論を構築したのか、説明なさい!!」

彼女のあまりの剣幕に私は、小さな悲鳴をかみ殺す。精霊王は私の肩をそのままガタガタ揺らし、天を仰ぎながら大きな声で叫んだ。

「何で古代魔法から失われた魔法が、構築できているのよ!!!」

彼女の悲鳴は、会合の場に選ばれた王の間を震えさせ、屋敷を揺るがすほどの衝撃だった。


「失われた魔法…?これ、今作りましたけど」

私は首を傾げる。失われたも何も、今作りました。私の全知識をフル活用して作りました。浄化魔法で闇を払拭できるが、非常に効率が悪く時間が掛かる。そして浄化する前に闇が覆いつくしてしまう。これが私達が後れを取る原因の一つだ。じゃあ、魔法の構築の無駄を省けばいいのだ。

浄化魔法の対象となっているのは物体であり、生命体ではない。黒に染めるのは簡単でも、白に戻すのは難しい。色染めでは当たり前の事が、闇の魔力に染まった魔の者にも言えるのではなかろうかと、そう考えたのが切っ掛けだ。

でもこの魔法を古代魔法として、使っていたのなら。この魔法を作った人物は確実に異世界人だ。これ、だって漂白と洗濯機のイメージまんまで構築したもん。

今作った、という私に王達は驚愕の表情を浮かべる。その中で緑の妖精王だけは楽しそうに笑う。


「使ったのは前世の記憶とやらか?」

「ええ、勿論。使える知識は全部使いましょう」

妖精王の問いに私はそう答える。当たり前だよな…。死にたくないもん。


「何故、光の浄化魔法をベースに使った?」

火の妖精王が楽し気に聞いて来る。

「連れ去られた時、浄化魔法で闇の壁を砕けたので」

淡々とそう答えると、光の妖精王が何か考え込んでしまう。その後ろから光の精霊王が勢いよく質問をしてくる。

「それじゃあ、この追加されているこの式は何?」

「闇を指す文言です。闇魔法の行使とかの枕詞として使われてるけど、これを対象として起こしました」

「なるほど、使用する魔法の種類を指す言葉を対象へと変換するなんて…。考えてなかった、盲点だわ…」

光の精霊王は何やら興奮した面持ちで、魔法陣を熱心に見つめている。どうやら私の作った魔法陣は、彼らの前提条件を引っ繰り返す手法で作られているようだ。主語と述語と修飾語を、混ぜ込んで配置したみたいなものだろうか。

「素晴らしい…。この視点さえあれば、また新しい魔法を生み出せる!!」

水の妖精王が嬉しそうに笑っている。あれ、そこまで考えてなかったけども、彼らは魔法を生み出すことに情熱を捧げていたのだった。古代魔法を妖精と精霊が構築し、エルフが行使する。彼らが古代魔法としての、それらの創造魔法を捨てたのはきっと今までの争いに関わるのだろう。


「魔法を作るのは、とても楽しくて素晴らしいものだった」

ふと私の後ろから声がした。後ろにいたのは火の妖精王だ。私は彼を振り返ると、黙ってそのまま話を聞く。

「ある日、妖精が魔法で悪戯を始めた。風でスカートを捲るみたいな、可愛い魔法を作ったんだ。でもそれからが酷かった」

私はこちらの反応を見らずに、自分の話を続ける彼を見つめる。

「可愛い悪戯だった魔法は、いつしか邪道な魔法を生み出した。人の命を奪うような、尊厳を無視したもので、実験的素養を多く持った恐ろしい魔法だった。それでも彼らは楽しげに実験を続けた。たとえ何人死のうとも」

妖精王はそこまで言うと、悔しそうに唇を噛み部屋の隅に向かった。私はその後ろ姿を唯々見つめた。すると私の左肩を火の精霊王がそっと撫でた。

「あいつの大切な人は、その実験に使われたんだよ。それで跡形もなく消えてしまった…。彼はまだ大切な人を探しているんだ」

精霊王の感情を殺した声が、私の耳に苦し気に響く。苦しいのは、痛いのは私達だけでなかった。それよりも古くから、こんなにも苦しんで、耐えて、誤魔化して生きてきた王達がいるのだ。


「今度こそ、この無意味な争いを終わらせましょう」

私がそう呟くと、部屋の空気がピンと張った。どうやら私の言葉に全員が耳を傾けているらしい。

「終わらせましょう、私の代で」

私が改めてそう言うと、お爺様が苦虫を噛み潰した顔で首を振る。

「魔は心に潜む。無くならないよ」

「無くならなくていいのです。対処の方法を身に付ければ、こうして争いにまでなる事は減るはずよ」

お爺様のその言葉が悲しくて、食い気味に返事を返す。そうだ、心は無くならない。ならば己を律する方法を身に付ければいいんだ。魔に落ちても光の浄化をできるように伝えればいいんだ。

私の表情を見て、そして言葉を聞いて。王達は小さく笑って、改めて協力を惜しまない事を誓ってくれた。これで前準備は整った。さて、今からは準備を開始しよう。何年後かに起きる戦いに向けて、皆を守るために。





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