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起こりうる未来

一部残酷描写があります。



「白の乙女、それはただの旗印の名称だ。これは魔と我らの旗取り合戦だ」

火の妖精王がニヤニヤと私に笑いかける。

「精々とられないように、頑張るこったな」

その言葉を受けて緑の精霊王がカッと目を見開く。

「信じられない!こんな子供の手助けもしないっていうの?」

「何故それをする必要がある。こいつ、魔法を使わせたら人間の中じゃ右に出る奴はいないだろう」

彼女の言葉を軽く流しながら、火の妖精王は指で私を指し示す。人を指差すなって教わらないもんかね。どうも、彼らのやり取りを遠い目をしながら聞き流しているベルトリアです。まさに自由人の集まり。それぞれ統べる立場の王なのに、勝手が過ぎませんか。

そんな事を考えて油断していた私は、後ろからひょいと抱え上げられて思わず小さな悲鳴を上げる。

「そんなことより、この子凄く可愛い」

そう言いながら私を抱えたのは光の精霊王だ。彼女は始めから面倒くさそうな顔をして、この会合に参加していた。性格は極度の面倒くさがりだと、記憶しておこう。

「白銀の艶やかな髪に、この瞳の色…。本当に綺麗。食べちゃいたい」

前言撤回。この人は危険人物です。女の人なはずなのに物凄く艶っぽく私を見ています。


「孫に手を出すな」

見かねたお爺様が、私を光の精霊王の魔の手から救出してくれた。ありがとうございます。三十代にしか見えない見掛けで、孫だと呼ばれるのも非常に落ち着きませんが助かりました。

光の精霊王は私に向かって、手をワキワキさせながら近づいて来る。思わずお爺様につかまる手に力が入る。その時光の精霊王が突然、水の球に弾き飛ばされてしまった。

「揶揄うのはそこまでさ。それよりも今後について、しっかり話そう」

私達のすぐ背後から、凍える程冷えた声が響いて来る。そこを見ると凛とした美しい顔に、静かに怒りを湛えた水の妖精王が居た。そのすぐ後ろで同じような顔をした水の精霊王もいて、この二人がこの烏合の衆と化した王達をまとめ上げているのだと思うと、心の中で思わず合掌した。




「それじゃ、今まで魔との争いについて話をしよう。以前白の乙女が現れたのは、二百年前だ。その時は精霊とエルフの間に産まれた子供が選ばれた。彼女は水の精霊の子だったから、自分を水に包み魔から身を守っていた」

水の妖精王が淡々と話しを進めていく。私とお爺様はその話を聞きもらすまいと、耳を傾けている。

「前回はたしか、引き分けのような形になったわ。魔と私達の消耗戦になったのよ。多くの命が失われて、サンティスとファウストの里から人がかなり減ってしまったのを覚えてる」

水の精霊王が話の後を引き継ぐように語る。私の横でお爺様が何か悔しそうな顔をして、「そういうことか」と呟いていた。

「お爺様?」

声を掛けると、お爺様は少し寂しそうな顔で私の頭を撫でた。

「私達の寿命は、血の濃さである程度決まるんだ。短い者でも百五十年、長い者で三百年程度だ。ちなみにお爺様は今百歳を超えたところだ。私の祖父母は居なくてね、というよりもほとんど先の争いで死んでしまっていたんだね。血の濃い者ならまだ生きていただろうに…」

お爺様はそう言うと、下を向いてしまった。顔を覗き込もうとすると、お爺様の目尻に涙が浮かぶのが見えた。

「…?」

「それに、以前イアンが魔に狙われた時期があっただろう。緑の妖精王の愛しい子と呼ばれた時、彼は狙われ襲われた。その時イアンの姉のイリーネが、弟を守って身代わりになって殺されてしまった」

お爺様は目の奥に深い闇を浮かべながら、そう呟いた。お父様にお姉さまがいて、自分を庇って殺されてしまった…。なんて、惨い。お爺様は娘、息子だけでなく、孫である私も魔に狙われてしまう事に怒りを覚えているのだろうか。

「またあの時の様に我が子を、魔に殺されるような痛みは負いたくない」

お爺様はそう言うと私を痛い程、強く抱きしめた。




「お前を失うわけにはいかない。お前を守ってイアンを失うわけにはいかない。ルーファスも同じだ。もう大事なものを奪わせはしない」

私はそっとお爺様の背中に手をやって、そっと抱きしめ返した。

「大丈夫、お爺様。私強いのよ、皆に守られるのでなく、皆を守るの」

私は自分自身に言い聞かせるように、お爺様に言葉を紡ぐ。そうだ、私は大丈夫だ。これ以上この人を傷付けちゃだめだ。逃げてはダメだ、向き合って幸せになるんだ。私の幸せには皆が必要なんだ。


そんな私達の様子を見ていた王達から、溜息が聞こえてきた。

「たしかに昔みたいに、同胞が死ぬのは見たくねえ。白の乙女、手を貸してやる」

乱暴な声が頭上に降ってきて、私の頭を乱雑に撫でられる。顔を上げると、火の妖精王がこちらを見ていた。

「ありがとう…」

私が小さく笑って彼を見つめると、少し頬を赤く染めてそっぽを向いて自分の椅子へと戻った。

「そうね、手を貸しましょう。白の乙女が選ばれてしまっている以上、争いは避けられない」

緑の精霊王も何かを決意した顔でそう言った。それに倣って次々と王達が頷いていく。

「全員の王達が白の乙女に手を貸すのは、初めてのことかもしれないわね」

水の精霊王がそう呟くと、光の妖精王が複雑な表情で笑う。

「そうかもしれない。まあ全員前回の負けが堪えてるんだよ、あの頃の痛みが燻っているんだ」

「あの時目の前で、エルフの青年が闇に引き裂かれるのを見たの。魔は笑っていたわ…。魔に負けるってことは、あれが日常の風景になるっていう事なのよ…」

彼らの会話に耳を澄ませ、何も対応をしなかった際に起こりうる未来を知る。そういえばそんな光景、ゲームの中のバッドエンドにあった気がする。アドベンチャーモードに突き進んで、失敗した時に辿り着く最悪の厄災エンディング。これは未プレイだけど、ネットで問題視されていたから覚えている。

あの厄災に辿り着かないためにも、やれることを見付けて対策をしていくんだ。

そういえば闇に連れ去られた時、光の浄化魔法でどうにかできたな。あれって突き詰めていけば何かが出来るかもしれない。私は不穏な会話をする大人達の中、一人でぶつぶつと魔法の構想を練っていた。





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