お爺様とお婆様
昨日は更新できず、すみません。
今日と明日で三つ更新出来たらと思っているので、どうかお待ちください。
サンティス家とファウスト家の人達は、人間とは比べ物にならないくらい長寿だ。その為人間の社会に与える影響も大きく、あくまで第三陣として国に直接関わり過ぎないように生活できる時間を制限しているらしい。
「そう言うわけで、私達夫婦はベルトリアがまだ三歳くらいの時に引退してこの地に戻って来たんだ。まだまだこの土地じゃ若造だし、精霊と妖精と一緒に生活するのはとても楽しい」
お爺様の今の自宅に案内された後、家族でお茶を飲みながら団欒の時を過ごす。この街は国の屋敷に比べて、家々の大きさは小さいけども皆満たされたような顔をして生活している。堅苦しい壁のようなものが消えて、活き活きとしているのが伝わってくる。
「お父様たちも引退したらここに来るの?」
私がそう聞くと、お父様は首を傾げながら考え込む。
「どうしようかと迷っているんだ。ここの他にもこのような場所はあって、少し前にマルガレットとトリアが行った場所もその一つなんだ。僕達はどこに住むかはまだ決めていないからね」
お父様は優しくそう言って、私の頭を撫でる。ここに来るまでの道のりの疲れからか、その手の優しさからか少し眠気が出てくる。
「おっと、トリアが眠そうだ。寝てしまう前に大事な話を進めよう」
お父様が少し慌てた様子で、私の頬を摘まんで眠気を覚まそうとしてくる。痛みと驚きで確かに目が覚めたけど、起こし方が非常に雑ではないですか。
「そうだ、急に来ると連絡が来たから驚いていたんだ。妖精や精霊も最近、落ち着きなく動き回っているし、それと関係があるのか?」
お爺様がそう言えばと話を進める。お父様が小さく頷き、話を始めた。
「実は、ベルトリアが白の乙女になってしまったようで」
「白の乙女!?」
「まあ、そんなことが…」
お爺様とお婆様が驚きで声を上げる。そこから成り行きを離し始めているが、何だか自分の話をされているのがどうも居心地が悪い。だって白の乙女が自分とか、まだ自覚ないし。というよりも白の乙女の役割とか知らないもん。旗印になる、としかゲームでは言われていなかった。それにあまりメインの登場人物として描かれていなかった。
まあ、それもそうか。悪役として退場した令嬢が、実は白の乙女で大役を担っているとか扱い辛くてしょうがない。ああ、だから退場するまでもない事で人間の社会を退場して、ゲームの私はこちら側にの社会に戻っていた可能性もあるな…。でも旗印として生きるのはきっと、幸せな展開ではないのだろうから見えた未来は不幸な色をしていたんだ。
「大体の流れは分かった。既に闇の妖精達に知られているというなら、こちらも行動を急ごう。下手したら戦争になる可能性もあるのだから」
お爺様はそれだけ言うと席を立ち、お婆様に小声で何かを呟くと部屋から出ていった。残された私達は、訪れた沈黙に一瞬のまれた。
「ええっと…。そうね、まずは白の乙女について説明をしましょうか。イアンもよくは分かっていないでしょうし」
お婆様が気を取り直して、私達を見回した。お兄様が新しいお茶を皆に淹れてくれた後に、話が始まった。
「闇の精霊っていうのは、元々月夜の精霊だったのよ。とても悪戯が好きで、だからこそ魔の影響をよく受けていたわ。月夜の妖精王もその一人だった。段々と自分での統制が取れなくなっていって、気が付いた時には魔に魅入られていた」
ここまでは知っている話だ。魔に魅入られた時に光と闇に分かれて、闇が今では魔と呼ばれるようになった。あれ、それじゃあ最初に魔と呼ばれたのは何だったのかな。
「魔というのが何なのか、それはよく分かってはいないわ。でもいつの時代にも必ず存在し、獣を魔獣へ変えたり何らかの影響を及ぼしている。私達の事を善だと言うつもりはないけど、彼らの事を例えるのなら悪という事なのかもしれないわ。きっと魔というのは悪意そのものなのでしょう」
お婆様がそこまで話したときに、お爺様が部屋に戻って来た。
「ただいま、今はどこまで話したかな?」
「お帰りなさい貴方、今丁度魔について話したところよ」
「そうか、なら私から白の乙女について話をしよう」
お爺様がさっと席について、お婆様が新しくお茶を淹れて渡す。さっきから思っていたけど、使用人のような人は居ないみたいだ。
「それじゃあ話を続けよう。さて魔が悪のようなモノだというのは、聞いたと思う。白の乙女とはその対極にある存在だ」
お爺様が私を見つめながらそう言う。
「対極?反対って事?」
私がそう聞くと、お爺様は小さく頷く。
「魔の囁きに負けると、彼らは黒く染まる。そして白の乙女は、魔となった彼らを元に戻すことが出来ると言われているんだ」
魔を在るべき姿に…。元に戻すことが出来るって、私そんな事できるの!?
「ベルトリアはまだ、その素質を見出されただけに過ぎないようだ。妖精王達に確認してきたら、継承はまだされていないということだった」
お爺様はそう言うと、お茶を一口飲んでお父様に視線をやる。お父様は訝し気に視線を合わせ、お母様は考え込むように視線を落としている。そしてお兄様は古代魔法の気配を感じたのか、キラキラした視線をお爺様に向けている。
「継承っていうことは、前にも白の乙女がいたの?」
私が質問するとお爺様は頷く。
「白の乙女は魔の働きが活発になった時に、妖精王達が指名して世界に現れることになっていて、まだベルトリアは緑の妖精王にしか言質をもらっていないらしい。だから今から彼らの元に行こうと思う」
「彼ら…?」
「そう彼ら」
私は恐る恐るお爺様を見上げる。彼の悪戯を多く含んだ微笑みは身に覚えがあり過ぎるもので。ああ、この血筋に産まれたからかしら。皆ドッキリが好きなのね。でも今回は内容が予想できる。予想が当たると私はとんでもない所に、引きずられていくことになる。どうか外れますように、という私の期待は悉く散ってしまうのだろう。
「今から、妖精王達が会合をするからそこに参加しよう」
ああ、やっぱりそうなった。
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