試験は波乱
誤字報告ありがとうございます!
もう誤字は病気かもしれません…。何度見返しても見逃してしまうので、教えて頂けて助かってます。
飼い猫にデータを消されたので遅くなりましたが、何とか書き直したので楽しんでいただければ幸いです。
いよいよテストの日がやってきて、私達の実技の試験の日がやってきた。今日の課題は嫌になるくらい練習した、無属性魔法の複数行使だ。課題としてありふれたものではあるが、実は結構集中力が必要となってくる。
テストを行うのはグラウンドではなく、学内にある森の手前にある広場だ。寮のすぐ裏手にあるこの場所は、生徒たちの格好の練習場であり、他の学年がグラウンドを使用しているときに代用される場でもある。
試験監督の先生としてお兄様と、薬草学の先生である妖精王、そして初等部校長がいた。魔法に長けた人物がこれだけいれば、何か問題が起こることもないように思えて安心する。誰かが魔力暴走を起こす可能性も無きにしも非ずなのだ。
「では試験を開始する」
お兄様のその掛け声に合わせ、手元に手ごろな石と大きな葉が現れた。どうやら石を浮かして、葉を遠心力で振り回すようだ。お兄様はひとまずの説明を行うと、私達に注意喚起をする。
「この試験では周囲の人物に危害が加わっても、コントロール不良として減点させてもらう。既定の高さやスピードに満たなくても同じだ。これは誰だろうと贔屓なく、公正な視点で見させてもらう。また不正を行うことも禁じているが、万が一発覚した場合に罰則がある」
お兄様の今までに見た事ない厳しい視線を受け、背筋に力が入る。試されているようで、期待されている。そんな視線に感じた。
「でははじめ!」
初等部校長の合図を受け、私達は一斉に手を翳して魔法を始めた。
この試験では魔法の維持を、監督の先生が良しと言うまで続けなければならない。私は気合を入れ直して、お兄様の顔をぐっと睨みつける。
夏の生暖かい風が森から拭き、嫌な暑さが私達を包む。なんだか嫌な予感がする。私の視線の先で、お兄様も森を睨んでいた。何かが起きる、そんな予感と確信。
テスト開始から十分が経過した頃だった。
「あ!」
私の隣でマークの魔法が揺らいだ。風に煽られるようにぐらりと揺れた石は、落ちることはなく空にとどまる。マークの安心した溜息と共に、何やら嫌な叫び声が森から響いた。
女性の絶叫のようで、獣の遠吠えのようで、人成らざる者の雄叫びのような恐ろしい声だった。
「試験は終了とする!生徒は寮へと戻れ!」
校長の鶴の一声により、異常な雰囲気にのまれながらも私達は寮へと退避することにした。アリアが私の隣に駆け寄ってきて、そっと手を握ってくる。彼女も怖かったのだろうか。
そう思って私はアリアを安心させようと、彼女に向き直った。しかしそこにいたのは、アリアであり、違うモノだった。同じ顔をしているのに違う。
「え…?」
私が疑問の声を上げたその瞬間だった。
「トリア!!」
全く別の方向からアリアの声が聞こえて、そちらを向くと視線の先にロイスと手を繋いだアリアが見えた。そして私に手を伸ばしながら駆けてくるお兄様、風の魔法を駆使して近付こうとするアルもいた。
「お兄様!!!」
私もそっちに手を伸ばしたけど、さっき聞こえた恐ろしい叫び声と共に暗闇に飲まれてしまった。私の手は誰かの指先に触れながら、何も掴むことが出来なかった。
◇◇◇◇
暗闇の中を誘われるように歩く。私をこの空間に連れ去った何かは、今は影も形もいなくなってしまった。というよりも暗くて何も見えないのだ。
「光よ」
どれだけ魔法を使おうとしても、一瞬照らすだけですぐに闇に飲まれてしまう。魔力が通じない、そんな空間に囚われいるのだけは分かった。
「誰か!お兄様!みんな!」
私の届かないと分かっている叫びは、空しく目の前に響くだけでどこにも届かない。やまびこの様に響いた後に消えた私の声は、今の自分の虚しさを表しているようで耳をふさぎたくなった。この場の恐怖だけが私を支配していく。
『大丈夫』
「でも怖いわ」
『一人じゃない、私が居るもの』
「でも私達は私なのよ、結局一人なの」
私の中から励ます声がするけど、その声は私をここから出してくれるわけではない。
『ねえ、魔法がダメなら妖精の力を使いましょう』
私の中の彼女がそう言う。それには確かに一理あるが、聖なる力を私は使ったことがないのだ。
「できるかな」
『やるしかないのよ』
私は自分自身に励まされながらも、負けそうな心を奮い立たせた。聖なる力を使ったことはないけど、魔法と同じように使える属性ではある。そして光属性は聖なる力を使う。私はそれに思い至って、家でお兄様に習った光属性の魔法を使う事に決めた。
「やるわ…」
私はそう呟いて、手を前に差し出すと一つ息をついて力を放った。
魔に侵されたモノを浄化する魔法であり、心を浄化する魔法を。