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秘密のお話



終わった…、何とかなった…。突然のテストは先生の満面の笑みで実施され、高笑いで終了した。

薬学のテストが何とかなったのはお母様から教わっていた、ファウスト家の血を引く者へ伝えられる技術のお陰だ。ファウスト家ではどうやらエルフの使用する魔法を中心に学ぶらしく、私にはその才があったようだ。ちなみにお兄様は少ししか使えないらしい。

エルフの使用する魔法は妖精や精霊に、力を貸してもらうことが多いため召喚魔法のようなものを使う。空に魔法陣で扉を開き、妖精や精霊を招くのだ。

魔法陣自体も古代魔法の一つで、限られた者しか使うことが出来ない。人間に使える者はほとんどいない。そこで妖精や精霊に手伝ってもらって、薬草の効能や混ぜ方のコツを教わったのだ。

「もう突然のテストは嫌よ…」

私が寮の談話室でソファに凭れ掛かり溜息をつくと、私の横でアリアも同じような顔をしていた。

「本当に大変だったわ」

昨日の苦労を皆で労い、私達はアニーの入れてくれたホットミルクを一口飲む。少しはちみつの入ったそれは、ほんのり甘くて優しい味がした。




他の教科でも小テストや抜き打ちテストが増えてきて、段々学校のテストの時期が近付いてきたのを感じさせた。このテストが終わったら夏休みに入る。それが本当に楽しみでいて、怖い時期でもある。休みに入ればロイスとアルに婚約者候補の話が伝わるのだ。

「どうしたの、そんな顔をして」

アリアが私の頬を撫でながら、少し寂しそうな顔をする。まだアリアには話せていないけど、これを黙っていても怒られそうではある。ロイスに通達される前にアリアにだけは話しておきたいな。

その時寮の窓から白い大きなフクロウが飛び込んで、私の目の前にゆっくりと降りてきた。驚いて凝視するとフクロウは足に握っていた手紙を、嘴で私に投げて寄越す。慌ててそれをキャッチした頃にはもう羽ばたいて、外に飛び去っていた。

手紙の筒を開くと、そこには見慣れたお母様の字が書かれている。


「あら、手紙?」

アリアはクスリと笑うと、私が手紙を読めるよう少し席を立った。私は彼女の気遣いに感謝しながら、手紙を開いて読み始めた。そして読み終わる頃には私は手紙を握りしめ、思わず立ち上がって声を上げそうになっていた。

シリウスが夏休み明けからこの学校へと編入してくる旨が、その手紙には書かれていた。

私のその様子に、少し離れていたアリアが驚いて寄ってくる。私は彼女が口を開く前に手を取って、自分の自室へと駆け込んだ。




「どうしたの?」

アリアはひどく驚いた様子で私に問いかける。

「どど、どうしよう!私の知らないところで話がどんどん進んでいくの!分からないわ!」

私はアリアの肩を掴んで揺さぶりながら、思わず取り乱してしまった。

「お嬢様」と呼ぶ、アニーの制止の声で我に返ってアリアに謝る。アリアは笑いながら許してくれて、ソファに一緒に腰掛けた。

「それで、ようやく話してくれるのね」

「ええ…」

私は意を決して彼女に成り行きを語った。



サンティス家とファウスト家はその血の為に、王家に連なることを許されていない事。ハリス王子の婚約者として望まれているけど、結婚するには彼の方が王籍から出るか、それなりの処置をされる必要がある事(勿論それなりの処置に関しては濁して言った)。そして私は彼と婚約する気は毛頭ない事。

その婚約を阻止する為に私に新たに婚約者候補として、アルベルトとロイスが挙げられている事。そしてそこに新しく、エルフの里で会ったシリウスが加わって、彼が休暇明けからこの学校へ編入してくることを伝えた。


慌てて話しをして、家系に連なる事を省いた説明のせいで分かりにくくはなったが彼女は理解してくれた。瞳を輝かせて嬉しそうに私の手を掴むと、その手を力強く握り締められる。

「それって、もしかしたら私達が姉妹になれるかもしれないって事よね!?」

アリアはそう言うと、輝かんばかりの表情になる。

「それは素晴らしい事だわ!!是非ともロイスに頑張ってもらわなくちゃ!!」

彼女はそのまま片割れの元へと駆けだそうとするが、出入り口をアニーがふさいでいる。ちなみに彼女は精霊憑きで、植物を操るのに長けている。案の定部屋の扉は蔦が張って、とても開ける状態ではない。

「アリアーナ様、この話はまだ御内密に」

足止めされたアリアは一瞬不服そうな顔をしたけど、彼女のその言葉に驚いたように私を見る。

「これ、言っちゃだめなの?」

彼女の困惑した表情に私は苦笑いで答える。

「夏休みに入れば通知が行くわ。でも今はまだ、本決まりではないの。それに私十歳までに婚約者が決まらなければ、ハリス王子の婚約者に内定してしまうのよ…」

「えっ!?」

「だから、まだ秘密ね」

私はそう言ってアリアの手をそっと握る。彼女は何かを決意した表情で、その手を握り返りてくれた。

「貴女が幸せになる為には、その選択は是非とも潰さなくちゃね!頑張りましょう」

彼女のその心強い言葉に、私は微笑んで頷いた。









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