第一歩
さっそく原作要素一つ壊したね。
さあ、これが今後にどんな影響を及ぼすのか、今から不安を感じる。
バタフライエフェクト―――
どこかで蝶が羽ばたけばが、遠く離れた地で嵐になる。
カオス理論の一つの考えだ。非常に些細なことが様々な要因を引き起こし、結果に大きな差をもたらすことをいう。
たとえ小さな変化でも、それが人生の取捨選択。全てが自らを導くレールとなり、自分次第で舵を切れる。只、何が起こっても自己責任。嵐を呼ぶのか、幸せに繋がるのか。私は自分が幸せになるための選択をすると決めた。
この事が、私にどう作用するのか、周囲を巻き込むのか、予測がつかない。
まず最初の原作との相違点としては、私が私であることだと思う。
転生して、ベルトリアになり、きっと本来のベルトリアの生きてきた道筋とは違う今を既に歩いていることだろう。その結果が水晶に現れた。魔力の質はきっと本来のベルトリアが青色で、私が赤色なのだろう。
色々思慮に耽っている間にクラス分けが終わったようで、水晶が壇上の隅に戻されていく。
入れ替わりに中央に現れたのは先程、私に声を掛けてきた女性だった。
「無事にクラス分けが終了しましたね。私は初等部校長のアイリス・ノーティマといいます。どうぞ、今後もよろしくお願いします。」
なんと、初等部校長。偉い人。
白銀の髪が光を反射して、なんだか眩しい。そういえばお母様も私も髪色は白銀色。
この色って珍しいと思っていたけど違うのかな。
「私がこの初等部の校長になってから、そろそろ百年が経とうとしています。この国に住まうエルフとして長い時間、この国を見守ってきました。」
アイリスは席に座る私たちをぐるりと見渡す。
「貴方たちのご両親も私の元で学び、育ち、今の国を担う大人として歩んでいます。どうかみんなもこの歴史に恥じぬよう、己を磨き、共に歩んでいきましょう」
アイリスはゆっくりと礼をし、壇上から席へ戻る。
大人たちはなんてことないように拍手をし、子供たちは驚きを隠せない表情を浮かべていた。
本物のエルフだ。長寿って本当だったんだ。何歳なんだろう…
入学式が終わり、それぞれのクラスへ案内される。
そこでクラスごとにエンブレムの違う制服を渡され、教科書などが配布される予定だ。
講堂から出て長い回廊を担任の先生に引率されながら進む。時々廊下に飾られた絵が動いている気がするのは気のせいだろうか。
さて教室についたみたいだ。席は決まっていないようで各自、自由に座っている。付き添いの人たちは教室の後ろの方に案内されているので、席についているのは子供たちだけだ。
「ロイス、アリア」私は二人に声を掛ける。
私よりも先に教室に入って着席していたようで、私はその隣にそっと腰掛ける。
「やあ、トリア。さっきのはびっくりしたよ」
「そうよトリア。色が二つも浮かぶなんて驚いたわ」
二人はにこやかに私を受け入れ話しかけてくれる。
「私もびっくり。でもそのおかげで二人と一緒のクラスになれたから嬉しい」
微笑みを返しながら、先程の水晶を思い返す。
思い出す度に不思議な光景だったと改めて感じる。
「そうだね、これからもよろしく」ロイスが笑顔で答えてくれる。
「二人ともよろしくね」私もこの二人の目を見つめながら答えた。
そういえば、とアリアが声を上げる。
「校長先生はエルフだったのね。街の中ではあまりエルフは居ないから驚いたわ。」
「私もびっくりしたわ。本当に長生きなのね!」
「エルフは何百年って生きると言われているよね。不思議だなぁ」
私たちは小声で会話を楽しむ。私にとって今世初の友達である。
「校長の髪の毛って綺麗な白銀色だったけど、トリアもトリアのお母様も白銀色よね」
アリアが私に尋ねてくる。
「そうなの、お母様は綺麗な白銀で私は少し赤が滲んでいるけど」
ロイスが私に何かを尋ねようと口を開けた時、教室の戸が勢いよく開き担任の先生が入ってくる。
茶髪を高くまとめたスラリとした女性が、カツカツと靴音を響かせながら教壇へと向かう。身に纏ったローブは脛まで隠す大きなもので、胸元にはサラマンダーのエンブレムがついている。先生のエンブレムは生徒の物より大きく、胸元に左右で金のボタンがあり、それをチェーンで繋いだような形になっている。
「遅くなってすみません、担任となりましたターニャ・ウィヌです。」
はきはきと先生は自己紹介をされる。
「これからサラマンダーのクラス生、中等部高等部では寮にも入りますが、この皆さんが仲間であり、友となります。是非とも仲良く、問題等起こさないように楽しんで学びましょう」
その後学校の授業の流れや、教科書の配布等が行われる。教科書は実際にはリストの書かれた手紙が配られ、今日のうちに自宅に届けられるとのことだった。
制服はその場で一人一人に手渡され、入学した自覚を促すようだ。
「――以上が今後の流れです。では今日はこれで解散となります。保護者の方々、ご足労頂き有難うございます。ご子息たちは責任もって学校が預かりますのでご安心ください。では解散。」
先生の一言で教室にざわめきが戻る。それぞれ親が来たり、親元に駆け寄ったり賑やかな光景になる。胸に広がる大きな期待と、残る不安。
いよいよ私はゲームの舞台へと足を踏み出したのだ。
読んでくださりありがとうございます。
この話の中ではサラマンダーは精霊でなく、ドラゴンとして扱ってきますので違和感ありましたらごめんなさい!