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大人



いつの間にか立ち聞きしていたお兄様が、現在の状況を打開するべく面白おかしく考えた対策は、お父様に笑顔で受け入れられた。そう言うわけで私は今サンティス家の談話室に座っている。床にはお父様が正座をしていて、お母様はあらあらと椅子に座ってお茶を飲んでいる。


「ベルトリア、ゆ、許して?決して悪乗りではないんだ」

「悪乗りだったら質が悪いわ、お父様」


お父様が必死の形相で私に謝罪をしているのを横目に、私は現在の自分の状況に溜息を禁じ得ない。なんと、国王に対して婚約者候補を直々に降りる直談判をして、アルベルトかロイスを婚約者にすると断言してきたのだ。それだけ聞くと何一人で暴走してんだってなるけど、何とそれぞれの親に許可を得て実行してきたから質が悪い。

二人は私にとって親友で、他には代えがたい失いたくない存在だ。なのに上手くいかなくなったら、それで関係が疎遠になてしまう。男女の仲は友人関係に持ち込みたくない。私はそれが怖いのだ。


「それにしても先を急ぎ過ぎたわね、イアン」

お母様がお父様に鋭い視線を向ける。お父様もその視線を受けながら、ただ首を垂れることを選んだようだ。

「申し訳ない」

「この子達はまだ七歳なのよ。まだルーファスにも婚約者はいないのに、何を急いでいるのかしら」

「そのルーからの提案だったんだ」

「言い訳はおよしなさい、情けない」

取り付く島の無いお母様の言い分に、私は思わずにやっと笑ってしまう。私が殿下の婚約者になる事はない。これは最初から決めていたことだし、ヒロインのリズベットに恨まれたくもない。じゃあ、婚約者決めちゃえばいいじゃんとばかりに動いたのがお兄様とお父様。そして私の婚約者候補に、アルベルトとロイスが名を連ねた。


「でもマルガレット。慣例に倣うとこの子は将来あの地へ赴くことになる。その前に自分の意志で決めることも必要ではないか?」

「それであっても、その場での出会いも必要な選択肢ではないですか。自分を置いて先に逝く相手を思い続けるのはつらいものです」


何やら両親は二人で話し込み始める。二人の話を統合すると、どうやら私達長命の一族はある程度の年齢までをこの国で過ごし、その後は別の場所へと移住するようだ。どうやら私の親戚たちはそうやって、この国を脱しているらしい。さもなくばこの国を私達の一族が牛耳ることになってしまうからだそうだ。


「お父様、お母様。この家はお兄様が継ぐわ。その場合私は他家には嫁げないのでしょ?その場合何処に行くという話をしているの?」

私が言い合いをしている両親に声を掛けると、二人は水を打ったように静かになった。どちらからもなく視線を合わせ、私を見つめる。

「将来、お前が伴侶を決めたのち、もしくは決まらなかったとしても世界樹へと向かってもらうことになる」

お父様が重い口を開きながら私にそう言った。世界樹ってあれだよね、ゲームとかファンタジー小説でよく上げられる木の名前。

「せかいじゅ?」

私が分からないふりをすると、お母様が説明を引き継ぐ。

「世界樹っていうのは精霊の樹の成長した姿の事よ。精霊の樹は世界樹の苗木なの。かの木はファウスト家の管轄領にあるエルフの里に隠されているわ。そこはエルフと妖精、精霊の暮らす里があるからそこへ行くのよ」

「それはいつ行くの?」

「貴女がある程度の年齢になってからよ。この地での伴侶を連れて行ってもいいし、向こうで見つけてもいいわ。お母様とお父様もルーファスに後を継いだら行く予定ではあるわ」


つまり私達がこの国へと影響を残し過ぎないようにする対処法の一つというわけか。私は小さく息を吐き、今回の問題へと頭を働かせる。

ハリス王子が婚約者になる場合、私の血は国に残せないから苦しむ道しか残らない。ロイスも侯爵家の跡取りだ。女侯爵としてアリアが立つという手もあるから、まだそこは寛容的なのかもしれない。そしてアルベルトだ。彼は妖精憑きだから寿命は人間より長いし、公爵家を継ぐことからは外れてしまっている。この中で一番選択肢としてあり得るのは、アルベルトなのかもしれない。

そこまで考えたところで、ばっと頭に血が上るのを感じた。何故か気恥ずかしい気がして、自分の顔が真っ赤に染まっているのが自分でよくわかる。

「あらあら、貴女にはまだ早い話だったかしら」

お母様が揶揄うように私に笑いかけてくる。この人本当に妖精の血がないの?何でこんなに悪戯してくるのさ。お父様に助けを求める視線を向けると、こちらもまた何か揶揄いたそうな顔をしている。視線をウィルに向けても、いつもの笑顔に怪しさが少し滲んでいる顔をしている。

何だか腹が立ってきた。私達は貴族だ。あくまで私もお兄様も国の為の駒でもあり、国を超えた範囲の駒でもある。だからきっと私たち子どもに選択肢をくれるのは、ある意味親の優しさなのだろう。でもまだ子供なんだ。大人の考えの中に放り込まれて、自分の人生を決める選択肢の中で更に突き詰められる。バタフライエフェクトなのだ、もっとゆっくり考えたい。

あああ、もおおおおお!!嫌だ、寮に帰ろう。


「まだ、わっかんないよ!!」

私は両親に向かってそれだけ怒鳴ると、勢いよく扉を開け待機していたアニーを連れて学校へと戻った。









寮の自室ではアニーが私にカモミールティーを用意してくれてけど、何だか飲む気にもなれず窓から空を見る。今日は食欲もなく夕飯は取らずに、お茶と軽いお菓子で空腹を紛らわせるつもりだった。

空には三日月が浮かび、星と共に瞬いているのが眩しく感じる。私は少し窓を開けると、夜風を頬に感じる。夏が近づいてきたけど、夜は少し冷えるのかその風はまだ少し冷たい。

「私はどうするんだろう…」

この世界はどこかゲームのモノだという意識が正直あった。でもそれを否定するようにたくさんの出来事が起こる。まだこの世界に産まれて七年だというのに、すでに波乱万丈に片足突っ込んでるのだから。この今が自分のかつて選んできた選択肢の先の未来だという事は分かっている。でもまだ、彼らの中から婚約者を選ぶことが私にはできない。友人だと思っていたのだ。

私は外に見える木々に向かって、小さく溜息を吐いた。すると窓のすぐ下の木からクスクスと笑い声がして、そちらにゆっくりと視線をむけると薬学の先生がその気に腰掛けていた。

「何か悩んでるのか」

ニヤニヤと意地悪な笑顔を浮かべ私を見るその視線は、やはり妖精のものなのだと強く感じる。

「いいえ、妖精王様。貴女には関係の無い事です」

「おや、もう正体がバレているのか。さてはマルガレットの仕業か」

「ええ、教えてもらいましたの」

彼はまた面白そうにクスクスと笑うと、ふわりと宙に浮き優しい笑顔を浮かべ私の目線へと昇ってくる。

「お前は面白い魂をしているし、なにより我が愛しい子の娘だ。辛い顔をするのは見たくはない。これは本心だ。面白いのもあるがな」

妖精王は慈愛に満ちた目で私を見つめる。愛しい子とはきっとお父様の事だろう。

「最後の一言余計です」

私はそれに嫌味で対抗する。この妖精王は目的が分からないから、一応警戒をしている人物でもある。私のその視線に気が付いているのだろう彼は、少し寂しげに笑うと手を振って風に紛れて消えた。







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