表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/154

秘密の共有

リョウカ視点、ベルトリア視点です。




「ああ、今日は何とかなった…。皆ありがとう!」

場所はサンティス家のサロン、私達はお茶会後の打ち上げのようなものをしていた。

「本当だよ、突然呼び出されたと思ったら王族を手玉に取るような事して…」

ロイスが肝が冷えたとばかりに溜息をつく。アリアもその横で物凄い速さで首を縦に振っている。どうやらこの作戦は不敬罪ギリギリだったようですね、てへ。


「今回の事は付き人が何かとは深く分かっていない、七歳の子供だから使えた手段だよ。高位貴族だから、苦し紛れの言い訳にしかならないけどね」

お兄様が私達を苦笑いを浮かべながら、優しく見つめている。私達が高位貴族である事を盾に取ったように、鉾に取られる場合もあった。今回は勢いだけで乗り切った感が否めない。

私は視線を手元のグラスに注いだ。お茶は王城で飲んできたからか、今はフルーツジュースが私達に出されている。氷がカラリと音を立てグラスの中で揺れる。しばしの沈黙の後、アリアが口を開いた。

「でもまさか、王子殿下との間を取り持つお願いじゃなくて、上手くいかないように頼むなんて驚いたわ」

彼女のその一言でお兄様がジトっと私を見る。お兄様は彼らを巻き込むことに最後まで、反対されていたからだ。でもここまで巻き込んだら、話さない訳にはいかない。

「これには、えっと、まあ理由があるんだけど…」

私はしどろもどろになりながら、そっとお兄様を見つめる。そっとお兄様は視線を逸らすから、そのままアルへ視線をずらす。あ、こっちも目を反らした。

でもこれって、目を瞑ってあげるってことか。よし、じゃあ話そう。


「二人には話してないことがあるの。私の家族やアルは知っている事なんだけど…」

私はロイスとアリアにそう切り出すと、自分の事について話始めた。私が古代魔法でこの世界に呼ばれた存在である事、この身体に二つの魂がある事、未来に希望がない事。二人は信じられないものを見るような目で、私の事を見ていたけど存在がチートの私では何が起きても不思議ではないという認識だったから受け入れてくれた。


「じゃあ、ベルトリアの中にもう一人ベルトリアがいるの?」

アリアが首を傾げながら私に、そう聞いてきた。これはそうでありそうではない。私の中にいるのはベルトリアなのだ。主人格が私で私もベルトリアで…。あれ?何かを忘れている気がする。思い出せないし、思い出したくないし、なんだかすごく眠い。

「それは違うんだけど…」

私はやっとの思いで口からその言葉を言うと、その後に何を言えばいいか分からなくて黙ってしまう。すると久しぶりに中から声がした。

『変わるよ、少し疲れているみたいだから寝てて』

「ありがとう…」

私は自分にそう返事をすると、ゆっくり微睡の中に沈んだ。



◇◇◇◇



「ベルトリア?」

ロイスが私に声を掛けてきた。突然かくんと頭を落としたから、お驚かせたかな。

「大丈夫よ。お兄様、お久しぶりですわ。皆様、ごきげんよう」

私は自分の白銀の髪を少し手で梳いて、いつもは赤みを帯びているはずの青みがかった髪を跳ね上げる。私の突然変わった口調にロイスは驚いていたけど、髪の色の変化に気が付いたのか目を見開いていた。

「どうぞ、楽になさって。私がもう一人のベルトリアです。いえ、ベルトリア本人と言うべきかしら」

私の悪戯を含んだ言い回しにお兄様以外が、目を瞬かせてキョトンとしている。わざとらしい言葉遣いに、自分でも吐き気がするけどいつもの私との区別をつけるためにそれを貫く。お兄様は私の行動の意味を分かってか、小さく息をつく。

「やあ、ベルトリア。彼女はどうだい?」

お兄様が私ににこやかに笑いかけてくれる。演技が混じったものではあるけど、妹を気遣う優しさが嬉しい。

「彼女は、今は眠っています。必要なことを早く話さないと、私も寝てしまうからお早めに」

私がそう答えるとお兄様は頷いて、友人ら三人を見渡した。

「改めて、妹のベルトリアだ。ちなみにいつも引っ込んでいるけど、今ここにいる方が元々のベルトリアだったほうだ。今は二人で一人になっている」

アルは概要を知っていたけど、実際を見せるのは初めてだったからか驚いた顔をしている。ロイスとアリアは目が零れそうなほどに見開いて驚いているわ。

「二人とも目が取れてしまいますわ」

私はニヤリと意地悪な笑顔を作り、二人をじとっと見つめてみる。その表情に既視感があったのか、二人は一つ息を吐くと笑ってくれた。

「…君もベルトリアなんだね」

ロイスがそう聞いて来るので、そのまま頷いて肯定した。


「元々、私がベルトリアだったの。そして古代魔法で彼女の魂を取り込んで、二人で一つの身体を共有しています。最近私達は一人の魂として、一つになり始めています。魔力の混ぜ合わせの訓練を始めてから、彼女はどんどん私に取り込まれて行っている。そして私も、彼女に取り込まれて行ってる」


中等部に入る前からもう一人の私は、自分の名前を失くしてしまっている。彼女は忘れたくなかったはずだ。でも私は覚えている。彼女の名前も、生まれ育った世界の事も。

「私達は一つの魂になろうとしているから、ここで水を差したくないの。だから遠回しな言い方になるけど、私達は生き残るために幸せになる為に運命を変えたい」

彼女の無くした記憶も、大切なものも。私が失くさないまま持っていたら、一つになった時にまた思い出せるよね。私はそっと自分の胸に手を当てる。

「本来の未来では、私達は友人ですらなかったわ。でもこうして今は親友となって、ずっと一緒に居る。皆が大好きよ。この今を壊したくないの…、私達の事手伝ってくれるかな」



最後の方は声が震えてしまっていた。意味不明だと自分勝手だと言われたらどうしよう。色んな不安が押し寄せ、顔を上げられない。そんな私の肩を小さなてがポンと叩いた。

「当たり前だ、俺はこの家の騎士になるんだから守って当たり前だろ」

強く優しいその手はアルのもので、その言葉が嬉しく目が潤んでくる。

「妖精で、エルフで、違う世界の人間で。僕らの友達って本当に退屈しないね。」

「本当、友達になってよかったわ」

ロイスとアリアも笑って私の頭を撫でてくれた。顔を上げるとそこには、驚きと困惑と、優しい微笑を浮かべたそっくりな双子がいた。

「正直混乱しているし、分からないことだらけだけど。ベルトリアはベルトリアだろ、なら大丈夫なはずさ」

ロイスはそう言うと私の手を取って、照れ臭そうに笑ってくれた。






中等部に入ってからリョウカは、ベルトリアのことを「もう一人の私」と表現しています。そして自分が涼香である認識がほぼ消え、ベルトリアであるという認識になっています。

ちょっとずつ融合していますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ