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お茶会





手紙に書かれていたのは形式的な招待状の文面だった。只こちらの警戒を解くためだろう、付き人は何人付けても良いとされていた。つまり腹を探られても構わないのでお好きに連れてきていいですよと宣言されたも同然であり、どうぞ探ってくださいと頼まれているみたいなものだった。

私はお兄様の研究室へ足を運び、消灯前に二人で話し合いをする事にした。



「つまり、ハリス王子の茶会に参加するのは避けられないから裏をかきたいと、いう事だよね?」

「ええ、お兄様」

「それならこの文面にある通り、付き人を付けよう。それがいいよね」

「勿論、私もそう思います」

私達は話し合いながら、対策を練るというよりも意地悪な笑顔を浮かべている。それこそ悪役のような、無邪気な妖精のような。

「我々に対して送る書状にしては、警戒心が無さすぎる。妖精を舐めているのかな」

お兄様は笑顔を隠さずに、そう言って手紙をトントンと指先で叩く。私はそんなお兄様を宥め、苦笑いのような顔を作って見せる。

「国王陛下からだし、敢えて付け入る隙をくれているのかもしれないわ」

実際にその通りなのだ。国王は私達一族と国の関係を理解している。きっと国王にのみ伝達される秘密に当たるのだろう。それでも敢えて隙だらけの文をこちらに届けたのだ。きっと国王の望みは『息子を黙らせてくれ』の一言に尽きるのだろう。


「王様の望み通り、ぜひ参加して差し上げなければいけないわね」

私が笑顔を深めてそう言うと、お兄様も私と同じような笑顔を浮かべた。その顔はあまりに悪戯なもので、そっくりな笑顔だった。

だって、使用人を付き人として連れてこいとも、身内を連れてこいとも指定されていないんだもの。誰を連れて行っても…いいよね?






と、言うわけでお茶会当日です。

会場は王城の薔薇園にある東屋になっていますね、ロマンチックですね!

さあ面倒なお茶会に付き人としてこちらが用意させていただいたのは、アルベルト、アリアーナ、ロイス、そしてお兄様。付き人というか、身分が高いので必然的に参加させない訳にはいかない人物を集めました。本当はお父様やお爺様を呼ぶつもりだったのだけれど、それでは姑息すぎると怒られてしまった。

本当はこれも呼び過ぎだと言われたのだけれど、我が家で預かっているアルは騎士を志しているので、護衛の練習の場として連れていくのは当然だ。危険性のほぼ無い王都内での行動だし、公爵家の人間として王城の出入りもままあるから馴染みも深い。また表情の乏しい私の為に間に入ってくれる人員が必要なので、アリアを呼ばせてもらい、その護衛としてロイスが来ることになった。そしてお兄様は純粋に保護者として参加する。

二人きりのお茶会だと思っている王子の裏をかく為に、今回連れていく人の事は国王にのみ報告としている。お父様がそれはもう輝かんばかりの笑顔で、国王陛下に殿下に話さないという約束を取り付けてきた。陛下はこうなる事が分かっていたのか、苦笑の後に快諾されたと聞いている。


そうこうしているうちに東屋に案内され、私達が辿り着いた頃合いを見計らって殿下が現れる。これも殿下に付き人がバレない為の工作だ。殿下の視界からは椅子に座っている私しか見えていない事だろう。

「ベルトリア嬢、ようこそ城へ」

殿下に臣下の礼をする私に向かって歩きながら、ハリス王子は声を掛けてきた。私はその姿勢のまま意識して無表情に「お呼びいただき感謝いたします」とだけ返事する。

ハリス王子が東屋の手前に辿り着いた時、戸惑ったような空気が流れた。入り口にいるアルに気が付いたのでしょう。さあ、作戦開始!


「な、なぜアルベルトがここに?」

ハリス王子が戸惑いを隠せないように、彼へと視線を向けている。私はまだ頭を上げるのを許されていないので、そのままの姿勢で「護衛見習いです」とだけ答えた。ハリス王子はそこでやっと私に顔を向け、慌てて顔を上げるように促してくれた。そろそろ筋肉の限界でした。

「ありがとうございます。彼は今サンティス家で預かっていまして、騎士を志しているので護衛を経験する良い機会と思いまして」

私の言葉にハリス王子は少し納得した顔で頷いた。そして私の隣にいるアリアを見て、首を傾げる。

「さて、そちらの方は…キャンベル嬢かな」

「はい、殿下。生憎私、表情が乏しいものでアリアを間に挟んだほうがよろしいかと存じまして」

殿下は私の言葉にさらに首を傾げながら、曖昧にそんなものかと頷く。

「お久しゅうございます、殿下。キャンベル侯爵が娘のアリアーナでございます。ベルトリアは人見知りがございますので、仲の良い私に声が掛かりましたの。よろしくお願いします」

アリアはダメ押しとばかりに有無を言わせぬように、殿下に深々と挨拶をした。殿下は「分かった」とこわばった微笑みのまま顔を上げ、再び固まった。

「キャンベル侯爵が長男のロイスと申します。お久しぶりです、殿下。この度は妹の護衛見習いとして私も参加しております。どうぞお気になさらず」

ロイスが固まってしまった殿下に、にこやかに挨拶をする。流石双子と言うべきか、言葉選びや運び方がそっくりすぎて思わず口元がほころぶ。

殿下はそれには気が付かなかった様子で、少し引き攣った笑顔を浮かべながらお茶会を始めた。


高位貴族であるアルやロイスを何度テーブルに誘っても、護衛を理由に断られてしまうし、私は敢えて会話を続かせにくいように、かつ失礼のない返答しかしない。油断すると私とアリアで話題に花が咲くのだから、彼は気が気じゃなかったようだ。私との交友を深めようとしても、会話のキャッチボールが表面上でしか続かないのだから。あまりにもあからさま過ぎると角が立つので、人見知りを発揮しているように長く会話を続けない。そしてわざと会話に詰まって、アリアに助けを求める視線を送ることを忘れない。アリアも私と殿下に助け舟を出すように会話を広げ、最終的に私とアリアの世界に辿り着くように誘導していた。

ここまでの流れを見ると、私達本当に七歳か分からないよね。皆かなり頭のいい人達だし、アルとロイスは誘っても断るようにお願いしていたし、アリアが助け舟を出す話題は最初から台本を用意していたから何とかなった。



いざ帰るとなった時、殿下が私を家まで送ると申してくださったけど、控えの間からお兄様が迎えに来たのを見て項垂れて諦めてしまった。ちょっとこれはやり過ぎたかもしれない。だけど家までの送迎が一番、避けなければならないことだったので後悔していない!

私達は殿下に別れを告げ、帰路についた。全員勿論、サンティス家の屋敷に。







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