悪戯
所要が早めに終わって投稿間に合いました!
少し短めですが、よろしくお願いします。
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彼の正体が分かったのはその週末に、お母様のところにファウスト家の家系魔法について聞くときであった。
「薄緑の髪に深緑の瞳で年齢不詳の人によって違う年齢に見える男性…?何故貴女が妖精王に会っているの?」
何気なく薬学の先生が怪しいと話をした時だった。お母様がキョトンとした顔で私に言うのだから、私は情けなく口を広げて驚いてしまった。
「妖精王…?」
「ええ、妖精王。彼が薬学の授業の教師をしている理由は分からないけど、定期的にこの国に忍び込んでいるはずです。その手段の一つなのかもしれないわね」
お母様がどこか納得いかないような顔で、首を傾げながらそういう。私もそういうモノなのかと首を傾げ、それを受け入れ紅茶を嗜む。
「彼は普段年齢を隠蔽魔法で隠しているわ。だから自分が見せたい年齢に見せることが出来るの。でも妖精や精霊にはその誤魔化しを使っていないから、貴方達には正しい姿が見えたのでしょうね」
精霊や妖精は聖なる力を用いた魔法を使う。少なくとも妖精側からは、私やアルは妖精の一部だと思われているようだ。やっぱり私達は人間とは違う生き物なのだと突き付けられる気がした。
『先生は何が目的なのかな』
私の中から声が響いて来る。その言葉に私も分からないと首を振る。彼は何かが目的で私達に近寄った訳ではない。絶対違う。あれは絶対玩具を見付けた妖精の目だ。
私は一つ溜息をつくと、カップの中の波打つ紅茶を見つめる。
「どうしたの、そんな顔をして」
お母様が私の頬に触れる。私はお母様を見上げると、言葉を出す前に口から息が漏れるのを止められなかった。
「お母様、妖精王も悪戯が好きでしょう?」
私がそう聞くとお母様が石のようにピシッと固まり、一瞬言葉を失くしてしまう。しかしすぐに紅茶を口にして誤魔化す。その反応を見て分かった。
「私、玩具にされないように頑張るね」
私の呟きにお母様が視線をそっと反らし、アニーの気まずげな紅茶のおかわりを注ぐ動作を期に授業を始めた。
家から学園に戻る頃、お父様が眉間に皺を寄せたお顔で帰宅してきた。
「どうしたの?お父様」
玄関でお父様に抱き着くと、お父様は困ったような笑顔で私に声にかけてきた。
「ベルトリア、ハリス王子と何か言葉を交わしたかい?」
「ええ、一応。食堂で夕食を一緒にと頼まれたけど断って、しつこそうだったので魔法でちょいっと帰ってもらいました」
そう言うとお父様が深く暗い溜息をついた。そのまま左手で額を抑えてしまったので、私が魔法を使って殿下を追い払ったことが、処罰の対象になったのかと顔を白くする。
「ああ、処罰はないよ。学校内では平等に学び、権力を振りかざさないのが規則だ。でもその行動を殿下が気に入ってしまったようでね…」
え、いや…、まさか。違う違う違う。なんで、ゲームでは殿下に気に入られる事無く邪険にされていたのに。何で気に入られているの。
ゲームでは婚約者候補として主人公を虐めていたけど、あれはあくまでゲーム内で私が殿下に片想いをした結果だった。結ばれることはないと分かっていた。そして私は疎まれ嫌われていたのだ。
「なんで…」
思わず口から突いて出た言葉は、静かな玄関ホールに響くだけだった。お父様もお母様も、私がハリス王子と関わりを持ちたくない理由を知っている。思わず両親を見上げると訝しげな顔をしたお母様と、顔を顰めているお父様が目に入った。
「ハリス王子は陛下にお前を婚約者にと、打診をしたらしい。勿論陛下からは断られている。でも殿下は諦めずに、サンティス家を探っている。抜け道がないかを探すために」
お父様はそう言うと深く溜息をついた。そして胸元から手紙を取り出し、私の手元に差し出す。それを受け取り封に押された、威風堂々とした王家の紋章に目が行く。そして差出人はこの国の国王陛下だ。
「なにが、どうなって、こうなった…」
私は手紙を持つ手が震えるのを感じる。そんな私を見つめる、お父様とお母様の心配そうな視線を感じた。その場で失礼ながらも手紙を開くと、そこに書かれていたのはお茶会への招待であった。
「…お茶会?」
私が不安げな顔だったのだろう。お父様が私の頭をそっと優しく撫でてくれる。
「これは殿下の我儘だそうだ。国王は殿下に婚約者に選定することはできないと、改めて強く断言されている。けど抜け道としてあるのはお前たちが相思相愛になることだと、そう示したらしい」
なるほど、お父様の顔が顰められている理由は分かった。ゲームで私が殿下を慕うことが許されていた理由、それは私が自分で結ばれることを願ったからだ。まさにバンシーの能力、そしてある意味正しい抜け道なのだろう。でも私達の血は王家には入れない決まりだ。きっと二人が結ばれるには、殿下は皇太子候補から外れることになるだろう。
だからゲームの私は主人公を牽制して、ハリス王子の目に留まろう必死だったのだ。周りを自分の都合のいい様に動かして、何とかしようとしたのだろう。盛大にではなくみみっちい嫌がらせに行動を変えながらも。
私は深く溜息をつくと、手紙に目を落とす。参加しなくても咎めることはないと書かれているし、気負わず考えてみることにしよう。でも何だか自分勝手に我儘な行動だなあ。少し腹が立ってきたから、何かお礼をしてあげないといけないかな。
私が思わずニヤリと口角を上げると、それに気付いたお父様もニヤリと口角を上げた。