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薬学を楽しもう



学校の授業は有意義なものだ。魔法の行使に関しては妖精の血が、勝手にチートとして働いてくれるので簡単だ。でもそのお陰で私は魔法の制御が難しくも感じている。この膨大な魔力量を、他の人達に基準を合わせるのが針に糸を通すように難しい。繊細な作業である。手芸みたいに細かい作業は苦手です!

私の魔力は他の人の何十倍という濃度を誇っているらしく、使う時はかなり細く弱く魔力を込めるように意識している。


今日の授業は薬学の授業だ。不思議な薬が沢山あるのだから、楽しみで仕方がない。今日作るのは全ての薬の基本となる傷薬だとか。どんな薬草を使うのだろうと、胸の高鳴りが止まらない。お母様が以前私に妖精から貰った薬草たちを煎じて薬を用意してくれた時から、私の薬学に関する興味はメーター振り切ってしまっている。

「いつか私も妖精たちに手伝ってもらって、薬を作ることが出来たらいいなあ」

私がそう呟くと横にいたアリアが驚いた顔をする。

「妖精が手伝ってくれることなんてあるの?」

「ええ、お母様が魔法で妖精たちを呼んで傷薬を作ってくれたの。それが嬉しくて、私も作りたくなったの」

私が勢いよく話すのをアリアが呆然と聞いている。そしてその後ろでロイスとアル、そしてマークがギョッとした顔でそれを見ている。


「みんなどうしたの、そんな顔して。私可笑しいこと言った?」

私が首を傾げながらそう問うと、ロイスが深いため息を吐いた。

「妖精を呼ぶ魔法何て、人間族には伝わっていないのさ。それこそエルフの血の濃いサンティス夫人だからできたことだ」

ロイスが言うその横でアルもコクコクと頷く。しかしその横で一人だけぶつぶつ何かを考え込むマークがいた。

「もし本当に呼び出せたら、魔法の研究の糧になる…。そうなると研究が進む!?」

何やら不穏な事を考えているのだけは確かなようで、妖精の血を引く者として背筋が寒くなる。あ、アルも同じような顔でマークを見てる。

あ、悪戯思いついた。

「…妖精を魔法の実験に使うなんて、絶対にやめてね?」

私はマークに向かって、青白い顔色を作って目を潤ませて必死にそれを願う。私の言葉にマークは一瞬驚いた顔をして、すぐさま私が妖精の血を引いている事を思い出したようだ。

「ごごご、ごめんなさい!!!」

顔を真っ青にして焦る彼は、やはり揶揄い甲斐のある人物だ。彼の横でアルが小さく笑っているのが見えた。

「マーク、気にするな。ベルトリアの悪い癖が出ただけ、揶揄われてるぞお前」

アルがそう言いながらマークの肩に手を置く。ロイスがクスクス笑いながらも頷いてる。

「まあ、妖精で実験は本当にやめてほしいけど。俺も妖精付きだし」

マークの肩をポンポンと叩きながらアルが笑うと、マークは小さく頷いて、何かに気付いて固まり、アルの顔を目を見開いて見つめた。

「えええええ!?」

彼の悲鳴に近い大声は、授業の始まる先生の入室と共に鳴りを潜めた。私とアルは目を合わせて、ニヤリと笑い合う。実はアルも結構悪戯好きだったりする。やっぱり妖精の性ってあるんだね。




薬学の授業は面白かった。といよりも先生がローブのフードを被っていて、誰なのか全くわからないまま授業は始まった。声からして男性のようだけど、何故か自己紹介もなかった。

「授業を始める」とだけ言われて始まった薬学の授業は、先生の説明も分かりやすくいいテンポで流れていく。

先生に言われたように薬草を手に取って刻もうとした時、何故か薬草が温かみを持っている気がした。私はふと何気なしに精眼を使ってみることにした。目にのみ聖なる力を込め、コントロールできるようになった精眼でそっと薬草を見る。すると薬草には精霊の印がついていた。つまり聖なる力が宿っている事を指している。

「うわぁ…」私が思わず感嘆の声を上げ薬草を見ていると、こちらをじっと見る視線を感じた。とっさに顔を上げると、視線の主である先生と目が合った。その顔には何だか見覚えがある。知人の誰かに似ているのだろうか。思い出せない…。


しかし一向に先生の視線は外れない。なんでだろう、私が精眼を使っているからかな?精眼をそっと閉じると先生はハッとした顔になり、私の方へとつかつかと歩いて来る。周囲の視線がこちらへと集まって、私の元に辿り着いた先生と私を見つめる。

「今のは、精眼かな?」

先生の問いかけに私はこくんと頷く。先生は何やらぶつぶつと呟きながら考え込む。私は隣のアルと目を合わせて、不審に感じながらも先生の出方を待つ。

先生は再び私に視線を向けると、そっとローブのフードを外した。薄緑の髪に、深緑のような深い色の瞳、そして恐ろしく整った顔がそこにあった。やはり顔は見た事があるもので、私は不思議な既視感に首を傾げた。

「やはり人の世に降りてくるのも悪くない」

先生はそう言うとニヤリと笑って、私に目を向ける。

「お前はファウストか?」

「いいえ、サンティスです。お母様はファウストの者ですが」

私の答えに彼はまた目を見開き、「なるほど」と頷いている。

「だからファウストの特徴を外見に持つのに、妖精の力が使えるわけだ」

先生はふふっと小さく笑うと、一人で何かを納得して教卓の方へと戻る。私は再び首を傾げて、先生が何をしたかったのか考える。ファウスト家の外見的特徴、それはエルフの特徴と合致する。そしてサンティス家の特徴は妖精の能力だ。何故彼が私にそれを問いに来たのか。ふとお兄様とお父様が前言っていたことを思い出す。


『精眼は使う時、瞳がキラキラと輝くから欲しがるものもいる』


その言葉を思い出し一瞬ギョッとしたが、きっと彼はそんなことはしない筈だ。むしろ妖精とか精霊に近い何かを感じた。一体彼は何者なのだろう。

「あのじいさん、どうしたのかな」

ロイスが後ろから私にそう言ってくる。じいさん?え、どう見ても壮年の見掛けでしたよね?

「じいさん?」

アルが私の疑問を代弁するように聞く。

「おじいさんだったよ?」

アリアも私に首を傾げながらそう言うが、一体どういう事だろう。私とアルは目を見合わせた。

「若く見えた?」

アルが私にしか聞こえない声でそう聞いて来る。私は頷いて肯定する。そして二人で揃って教卓の方を見ると、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる先生が見えた。ああこの感じ間違いない。


彼は妖精の関係者だ。







2月1日は投稿休みます…

日曜日に2話投稿します!

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