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類は友を呼ぶ


食堂の食事は貴族の慣れ親しんだ物から、庶民的な物まで幅広くあった。すでに用意されたものから選ぶバイキング形式で、お皿に刻まれた保温魔法で温かさを保っているのだ。

私達は各々が食べたいものを取り、食事を終えた。次は魔法理論応用の授業があるのし、私はお兄様の準備に呼ばれているので手伝うためにも急がなければいけなかった。


「今日は私、お兄様のお手伝いに呼ばれているから先に行くわね!」

そう声を掛け私はそっと席を立つ。まだ他のメンバーは食事をしていて、マーク何て初めて見る料理に目を白黒させて勢いよく食べている。

「ああ、この後の授業の準備か」

アルが私に視線を向けて笑いかける。

「ええそうよ」

私もにこやかに返事をすると、マークが不思議そうに顔を上げる。

「何故貴女がお手伝いを?」

彼のその問いは初等部にこの学校にいなかったからであるが、久しぶりに聞かれたそれに思わず笑ってしまった。

「お兄様と呼んだでしょう?次の授業の先生は私のお兄様なのよ」

彼はようやく理解したようで、目を見開いて驚いている。その顔がまた面白くて、私達はこらえきれず笑顔になる。


「お兄様って…。次の授業って先生はルーファス・サンティス様でしたよね!?」

マークは少し戸惑ったように声を上げる。その様子が何だか詰め寄るようで、あたしは頷きながら一歩後ろに下がる。

「ああ!古代魔法研究の第一人者の、あのサンティス卿の授業が受けれるだけでも感激なのに!まさかその妹君までご学友になれるなんて!」

彼は嬉しそうに天を仰いで、目尻に涙まで浮かべている。なるほど、きっと彼は魔法ヲタクだ、そうに違いない。お兄様は確かに古代魔法の研究でここ一年でかなり名を上げた。主に私を対象に研究しているだけだが。彼には研究対象であることは言わないほうが良い気がした。

「う、うん。それじゃあお兄様のところに行く――」

「ぜひ僕も一緒に!!」

逃げようとした私にマークは食い気味にお願いをしてくる。その気迫に負けて思わず頷いてしまったのが間違いだった。彼は流し込むように食事を平らげると、私の横に来て輝かんばかりの笑顔で「行こう」と促すのだった。






「ああ、僕のトリア!今日はありがとう」

お兄様の研究室になっている部屋へ着くと、勢いよく扉が開き私はお兄様の腕の中に抱え上げられた。

「お兄様、恥ずかしいわ!」

私が抗議しても聞く耳を持たず、爽やかにスルーするのだから困ったものだ。蕩けそうなその笑顔に私は弱い。

「お兄様、今日はクラスメイトもお手伝いに来てくれたのよ。いつまでも抱え上げていないで、挨拶をして下さいな!」

私は精一杯の抗議でお兄様の頬をつねると、そう言ってその顔をマークの方へ向けた。お兄様と目の合ったマークはポカンとして表情から、一気に紅潮して破顔する。


「はは、は、初めまして!!マーク・ウィオと申します!」

マークはきっちり腰を直角に折る挨拶をする。その姿勢に若干お兄様が引きながらも、柔らかな微笑みを浮かべる。

「初めましてマーク君。僕は教師で魔法省職員でベルトリアの兄のルーファス・サンティスだ。もしかして君は僕に論文の感想を送ってくれたマーク君かな?」

お兄様がそう問うと、弾かれたようにマークが顔を上げて何度も頷く。お兄様は何か合点がいった顔で「ああ」と言うと私を降ろす。

「貴方の定義した魔法理論の構成の無駄の無さに、心底感激してファンになりました」

マークはまるで目の前に神様でもいるかのように、お兄様へその視線を向けている。見ていてちょっと引く。

「僕も君の手紙に書かれていたあの仮説は、一考の余地がある素晴らしい仮説だと思う。君は研究の素質があるのかもしれないね」

お兄様も仲間を見つけたような、ギラギラした視線を彼に送るのは止めて下さいませ。私が餌になる未来しか見えません。私は二人に見つからないように溜息をつき、研究室の中に勝手に入る。お兄様は整理整頓が少し苦手で、雑多なものが積み重なっている。その中でもまとめられている授業の教材を、魔法で浮かばせて廊下へと運び出す。廊下ではさっきの魔法馬鹿二人が、魔法論議に花を咲かせている。私は迷わず二人の間を視線を遮るように通り抜け、話を中断させる。


「運ぶのも魔法があればすぐ終わるわ、お兄様。お手伝いっているのかしら?」

私が冷たい微笑みを浮かべると、目を泳がせるお兄様と呆気にとられるマークが目に入った。

「いやあ、それはまあ、僕には必要…かな」

お兄様のうろうろ泳ぐ視線に、さらに微笑みに冷ややかさを込めてみる。お兄様は溜息をつくと、俯いたまま手で顔を覆った。

「僕のトリアが意地悪だ…」

マークは私達に交互に視線を向けながら、何とも困ったような顔をする。私が彼に視線を向けると、彼は首を傾げていた。

「先生は…シスコン?いやそんなことより、まだ中等部に入ったばかりであの量を浮遊させるなんて…」

何やらぶつぶつ言っているようですが、お兄様は間違いなくシスコンですね。

「私達兄妹は妖精とエルフの血を引くのよ、これくらいは簡単にできるわ」

私はマークに向かって、少し胸を張って自慢して見せる。マークは感心したように、目をキラキラさせている。それに少しいい気になっていると、横からお兄様がニヤリと笑ってこっちを見てきた。

「魔力コントロールが苦手で、小さなものを扱うのは出来ない代わりに、大きい物なら得意だからね」

ああ、カチンときた。もうそんなに苦手じゃないもん、八割くらい成功してるもん。そう言う視線を向けても、いやらしい笑顔は変わらない。あああ、お兄様の嫌味が今日も尖っていますわ、後で見てやがれよ。絶対その髪燃やしてやる!!







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