入学式
入学式が始まった。
学校の理事長である、国王陛下が挨拶をされている。
この学校は王立であるため、理事としての地位には一応国王陛下がおさまっている。実際の運営は初等部、中等部、高等部それぞれの校長が担当されていると聞くけど。
「この国の勇敢な新しい魔法使いを育て、新たな風を吹き込みながらも伝統を愛する。この学校はそういう場として皆に提供したいと思っている。
この国は私たち人間だけでなく、エルフやドワーフといった別種族の者たちも暮らしている。お互いがお互いを尊重し、個々の才を活かし支えあえる次代を担っていただきたい」
陛下の挨拶が終わると参列席から拍手が起こる。
それぞれの人種。そこには細かい分類はないけど、大きく二つに分けられる。
それは『魔』であるのか、そうでないのか。
人種で分けられるほどの明瞭としたものではないけど、私たち人間でも魔に魅入られた者は魔族として認識される。
それでも一応魔に近いとされている人種もあり、それが妖精族だ。逆に聖に近いとされているのが精霊族。妖精と精霊は自然がないと生きていけない。精霊は自然を害されていても、害するものに明確に悪意を向けることができないが、妖精族はできる。全体的にイタズラが好きで、善意にはイタズラ、悪意には悪意を向ける。ただそれだけの違いだ。
便宜上、エルフやドワーフも聖魔に分けられた時代もあったが今は昔のこと。皆が手を取り生きている時代になっている。
いつの間にか拍手が鳴りやみ、第一王子であるハリス王子の挨拶が始まった。
「ここにいる新入生諸君、この度同じ学び舎で学べることを嬉しく思う。若輩者である私たちは、貪欲に知識を、実力を、仲間を、友を得る必要がある。共に切磋琢磨し、自らの未来を掴んでいこう」
こいつ、本当に5歳かよ。
なんだよこの挨拶、陛下よりしっかりしているのではないかと一瞬思ったわ。
その後先生たちの紹介も恙なく終わり、いよいよクラス分けの時間となった。
クラス分けに使われるのは魔力の質を判断する水晶。決して属性を示すものではなく、赤、青、黄色の三色を示す。魔力の質は割と本人の性格にも影響され、どのようなカリキュラムをベースにするべきかなどが大まかに見出される。そしてその魔力の質はこの国の三賢者として名高い者たちの、魔力の質に則った分類でもある。それぞれのクラスの名前をドラゴン達から貰い、赤のクラスを『サラマンダー』、青のクラスを『ナーガ』、黄色のクラスを『リンドブルム』としている。
まずはハリス王子の元に水晶が運ばれる。王子は水晶に軽く手を触れ、そこに魔力を流し込む。
触れた手の先から白い靄が水晶に流れ込んでいく。水晶の中央に靄がたどり着いた時に、靄の色がふわりと青みを帯びていく。
王子はどうやら『ナーガ』に組み分けされたらしい。
続いて水晶に触れたのはガーデル公爵家の子。彼が触れると黄色に変わる。
「我が家は代々、リンドブルムが多い。精進しなさい」
公爵が戻ってきた息子に声を掛けている。
続いて魔法大臣の息子が水晶に向かう。彼の家も公爵家である。壇上から大臣の視線が息子へ絡む。彼が触れると靄は青に変わる。
静かに大臣は頷きながら、小さく微笑む。
どうやらこのクラス編成は今後の派閥にも大きく関わっているみたいだ。
そうやって次々に組み分けがされていく。その中で私より先にキャンベル家の順が回ってきた。ロイスはアリアと目を合わせると、小さく頷いて水晶に触った。
手からあふれた白い靄は赤色へと染まっていく。
続いてアリアも触る。こちらも赤へと色が変わり、二人は嬉しそうに手をつなぐ。
「アリアと学校でも一緒だね、離れなくて良かった」
「ロイスと離れたら私寂しいわ」
流石双子だ。魔力の質も一緒で仲がいいようで羨ましい。
さて、ここで私の順が回ってきた。
実は私は自分のクラス編成を知っている。だってゲームで出ているし。
確か私は『ナーガ』に組み分けされていた。それは分かっていたけど、出来れば二人と一緒が良かったな…
「さあ、トリア。」お父様に促されて水晶に向き合う。
小さく息を吐いて水晶に触れる。魔力を掌から水晶に注ぎ込むイメージで流し込む。
其処から溢れた白い靄は水晶の中央へ進み、他の人たちとは違う反応を起こした。
「ほう、色が二色とな」
どこかで誰かの声が聞こえてくる。
その言葉の通り私の魔力は赤と青の、二色に瞬いていた。
え、なにこれこんなの知らないよ。私二種類の質があるとかどうしたのよ。
内心冷や汗だらだら、焦りが止まらない。こうなったら私はどっちになるのか。いや、どっちにもならないのか?わからない。
「これは珍しい。」
先程と同じ声が私に近づいてくる。顔を上げると足元まで隠す長いローブを羽織った女性が私を見下ろしていた。
白銀の色をした長い髪をサイドから垂らした、美しい女性だった。
「君はどちらのクラスがいい?」
女性は優しく私に微笑みかける。自然と気持ちが落ち着き、さっきまでの驚きが引いていく。
どちら、と言った。少なくとも私は選べるようだ。
「魔力の質を二種類持っているなんてすごく珍しい事なんだ。中々無いことだけど、君の心が求める方に進みなさい」
女性の言葉に私はゆっくり頷く。
そんなの勿論決まってる。私は未来を変えるために、原作改造しちゃう覚悟でここにいる。
そうなると私の選ぶ選択肢はたった一つ。
「私、『サラマンダー』がいいです」
女性はにっこりと微笑むと、私の頭を撫でて壇上へ戻っていった。