新しい日々 2
誤字報告ありがとうございます!
なかなか気が付かないものですね…
中等部から入った編入生はヒロイン含めて三人。それぞれが一人ずつ各クラスに分けられたらしく、ちなみにヒロインはナーガ。ハリス王子達と同じクラスになっている。そしてサラマンダーにも男の子が新しいクラスメイトになった。
「マーク・ウィオと言います。よろしくお願いします」
ホームルームの時間にガッチガチに緊張した様子で教室に来た彼は、引き続き担任のターニャ先生に促されて挨拶をしている。
この国では平民に姓はあったり、なかったりだ。彼にはないらしく、魔力の素質が高い以上今後は必要となってくる為、姓が学校から下賜された。それを今後は名乗っていくことになる。
彼は温かくクラスに歓迎され、空いている席へと座るように指示される。空いている席、それは私、ベルトリアの隣である。席は三人掛けになっていて、ベルトリアの左隣にはアルベルト、その後ろの席にロイスとアリアが座っている。この二列が空いている席であり、彼は私の隣を選んだ。
「よろしくお願いします」
彼は勢いよくお辞儀すると顔を上げ、今度はポカンとした表情で私を見つめる。どうやら緊張のあまり人の顔が見えていなかったようで、私の顔を見て驚いている様子だった。
「よろしくお願いしますね」
私が少し微笑んでそう返すと、茹で上がったように顔が真っ赤に染まってしまった。あまりに初心な反応で少し笑ってしまう。
「座りませんの?」
私がそう声を掛けると、彼は弾かれたように席に着いた。その様子に周囲からクスクスと笑い声が聞こえた。彼は今度は別の意味で顔を赤く染めている。
「マーク君、僕はロイス、こっちは双子の妹のアリアーナ。よろしく頼むよ」
ロイスが気さくにマークに声を掛け、隣でアリアも笑っている。私の反対の隣からはアルが声を掛ける。
「俺はアルベルトだ。よろしく」
貴族主義の彼が平民のマークに声を掛けるとは思わなかったが、考え方が変わってきた良い兆候だろう。私も彼の後に続いて挨拶をする。
「ベルトリアです、よろしくね」
彼は私達が名前だけ名乗ったことで、気を遣って高位貴族である事を伏せたことに気が付いたようだ。今度は顔を少し青くして、慌ててまた頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
今日は軽くカリキュラムの説明があり、昼休みを挟んで魔法基礎理論の続きである魔法理論応用の授業が始まる。担当は変わらずルーファスお兄様が行う事になっていて、それが私達の楽しみでもある。
無属性魔法は初等部で実習も行ったから、簡単なものは全員が使えるようになっている。だけど生活魔法として活かせるほどには、まだ使えていない人も多い。中等部の始めでは応用的な魔法の使い方を練習することになっている。
「今日から初めての食堂だな」
アルが少し嬉しそうに私に声を掛けてくる。昼食時になって皆で食堂へと向かっている時だった。私達はいつものメンバーに、マークを加えた五人で行動している。だけど私達がずっと一緒ではクラスには、なかなか馴染めないだろうから今日は案内を含めて一緒に行動している。
「皆様も中等部から寮でしたよね」
マークがおずおずと尋ねてくる。クラス全員が貴族というのもやり難いだろう。学校の中で身分なく平等と謳われているが、所詮は建前的な物になってしまう。
「ええ、だから学校で寝食を共にするのは楽しみだったのよ」
そんな彼にアリアが優しく声を掛ける。
「まあ、殆ど貴族だから食事も豪華だし。期待しておけよ」
アルが意地悪い笑みを浮かべ、マークを見つめる。彼も豪華な食事を想像したのか、表情が明るくなる。
それにしても感情が顔によく出る人だな。コロコロ色が変わってなかなか面白い。
「トリア、悪戯しそうな顔になってるよ」
ロイスが私のほっぺを摘まみながら、苦笑いでそう言う。
「いひゃいれふ」
私は上目遣いで小さくロイスに抗議するが、彼も私の顔に慣れてしまっているのであまり効果がない。ロイスが摘まんだ頬を擦りながら、頬を膨らませ拗ねて見せる。
「可愛い顔しても誤魔化せないよ?」
ロイスはそう言いながら笑った。アリアもアルも頷きながら笑っている。何の事だか分かっていないマークだけが挙動不審だ。
「マーク君、ベルトリアは妖精の血が流れているの」
「ああ、だからとんでもなく綺麗なんですね!」
アリアが気を利かせて説明を始めたのに、マークは被せるように声を出し納得の表情を浮かべていた。何なのこの子、天然なの!?
今度は私が驚く番で、目を白黒させてしまう。私そんなに綺麗じゃないよ!お兄様の方がよっぽど綺麗だよ!私は表情の少ない不気味な子だよ!
その私達の様子にアルが笑いを堪えられず、大きく吹き出してしまった。
「それを言いたかった訳ではないけど、君。面白いね」
ロイスも笑いを堪えた様子で、小さく肩を震わせている。アリアに至っては溜息をついている。
「トリアもそろそろ自分の容姿を自覚しなさいよ」
「私は分かっているつもりだよ?あの超絶美人な両親の子供なんだから」
「いや、分かってないわ。貴女はそこそこ美人じゃなくて下手したら傾国の美女よ」
「そんな大袈裟なぁ。それならルーファスお兄様のほうがよっぽど美人だわ」
私とアリアはテンポよく会話をする。それをキョトンとした顔のマークが見ている。どうやら彼は本当に天然なところがあるようだ。
「ねえ、マーク君」
私とアリアが話をしている後ろで、何やらロイスがマークに話しかけ、彼はそちらに目をやる。
「トリアって可愛いでしょ?」
彼の問いに一瞬目を開いて彼は頷く。
「綺麗すぎて近寄りがたかったですが、気さくな方のようで安心しました」
ロイスは頷くとにっこりと笑って話を続ける。
「そう、そして無防備だ。だからこっちも安心しちゃうんだけど油断は禁物だ」
ロイスは言葉を一旦切り、アルの方を見つめる。アルは大きく溜息をつくと天を仰ぐ。
「あれはとんだじゃじゃ馬だ。妖精の悪戯好きに振り回されるなよ」
アルはそう言うと、意味ありげにマークを見つめてニヤリと笑った。マークはその視線の意味を考え、こてんと首を傾げた。
私はその話に耳を傾けながら、いつ悪戯を始めようかと計画を練り始めた。