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新しい友達




今日はアルベルトが家に来る。授業中に堂々とサンティス家の騎士になるなんて宣言するもんだから、こちらはクラスからの視線に耐える日々だった。親たちの話し合いで、放課後の時間の魔法の練習に、我が家の家令であるウィルが指導につくことが決まった。

ウィルは妖精付きで、アルベルトに融合した妖精と同じ種類の妖精付きらしく、その為に指導に当たることになっている。でもアルベルトもイデアの人間だから、おいそれと引き取りますとは言えない。学校にもイデアの名前で入学しているのだ。その為、サンティス家預かりというより、習いに来るような形をとることになった。



ということで、馬車の前である。

ロイスとアリアが心配そうに私の隣にいる。アルベルトはそれが不服のようで、つんっとそっぽを向いている。お兄様を待つまでのこの時間、これから毎日この光景になるなんて気が重いぜ。キャンベル兄妹はアルベルトとの関わりの始まり方が悪かったから、とても仲良くしようとは思えないのだろう。私もそんなに積極的ではないのだから、人の事は言えません。


「…アルベルト様、トリアを傷つけたら許しませんからね」

アリアが気まずい沈黙を破り、力を込めてアルベルトに声を掛ける。アルベルトもそちらに視線を向け、「ああ」と頷いてみせる。

「これから世話になるんだ。下手なことはしない」

あまりにも上からな物言いだけど、きっとこれが彼の標準仕様なのだろう。

ロイスは溜息を一つ吐くと、アルベルトに手を差し出した。その手に驚きながらアルベルトが顔を上げる。私とアリアも驚いてロイスを見るが、彼は迷いない視線でアルベルトを見据えている。私も小さく頷いて、彼らを見つめた。今後の為には必要な事だろう。


「君の当初の態度はとても受け入れることはできないけど、自分を変えたいと動いている事は見てれば分るし好感が持てる。トリアと過ごすなら僕らも一緒になる。これからよろしく」

アルベルトは戸惑いながらもその手を握り返す。

「ああ、よろしく…」

「よし。僕はロイスと呼んでくれ。こっちは双子の妹のアリアーナ」

「アリアでいいわ」

「俺は…、愛称で呼ばれたことがないんだ。好きに呼んでくれ」

「じゃあ、アルと呼ばせてもらうわ。私はトリアと」

ロイスに便乗する形となったけど、これが一番だと思った。アリアも私と同じ考えだと思う。アルベルトは驚きで固まっていたが、何だか照れ臭そうにもじもじとし始めた。

「対等な友達は初めてだ…。」

彼のその呟きに私達は苦笑する。その立場は私達も一緒なのだ。

高位貴族に産まれて、取り巻かれることが当たり前の中で対等な友人関係は難しい。きっと彼とも良い関係が結べると思う。


「そう言えば、あの時の怪我は…?」

アルが少し心配そうな表情で私を見る。私は意識して笑みを作り上げ、彼を安心させるように声を出す。

「もうすっかり大丈夫よ!お母様が妖精を呼んでくれて、薬を煎じてくれたの」

私の言葉に彼はほっと息をつき、小さく頷いた。しかしロイスとアリアは首を傾げている。

「トリアのお母様って妖精を呼べるの?」

アリアのその言葉に私は頷く。

「妖精とかかわりの深いエルフの魔法の一つなんですって。いつか私も教えてもらえるのかな」


イデア公爵家の来た日。

夜にお母様が妖精達を魔法で呼び出しては、怪我を治す軟膏の作り方を教わっていた。妖精達も私の怪我を痛まし気に見つめ、薬草を持ってきてくれたりしたお陰ですっかり腫れも引いた。

「あの日妖精に怒りの視線を向けられて、俺の中で何かが物凄く悲しんだんだ。それで父上に聞いたら妖精付きだって教えてくれた」

彼が妖精付きになったのは一歳。記憶にないのは当たり前である。きっとその悲しみの感情も彼が行動をとった切っ掛けの一つなのだろうと思う。

「すっかり仲良くなっているじゃないか」

少し離れたところから、優しい声がかかる。

「お兄様!」

お兄様は皆に挨拶をしたのちに、ロイスとアリアは自分たちの馬車へと向かい、アルベルトと馬車に乗り込んだ。



他愛無い会話で馬車を過ごし、アルベルトはお兄様にも今までの態度を謝った。お兄様も流石に五歳に目くじらを立てないのか、「今後に期待するよ」と言いつつ笑って許していた。

馬車はゆっくりと、家へと向かう。貴族のタウンハウスは割と密集しているが、我が家は庭がかなり広く、精霊の樹も目立つ。

「サンティス家に行った時、何だか凄く過ごしやすかったんだ。それってどうして?」

アルが私達にそう声を掛ける。その時丁度窓から精霊の樹が見えてきたので、お兄様がそれを指差しながら説明をする。

「妖精や精霊は“精霊の樹”が無いと生きていけないんだ。その木が今見えているあれだよ。うちにはもれなく妖精や精霊に縁がある人が沢山いるからね、我が家の庭に植えてあるのさ」

「なるほど、だからか」

「妖精や精霊は魔法を行使できるほどの魔力は持っていない。持っているのは生命を維持する分だけ。その魔力の安定を精霊の樹が助けているのさ。彼らが持っているのは聖なる力。これもあの木が助けてくれる」

お兄様の説明にアルは目を輝かせている。こういうところは男の子だ。やっぱり憧れがあるものなのかな。


そうこうしているうちに家に着き、アルも含めて食事をとる。その後精霊の樹の下で魔法の練習をするのかと思えば、顔合わせの後一緒に妖精付きについての授業となった。

「ええ、せっかく魔法の練習かと思ったのに」

私が頬を膨らませると、お兄様がくすくす笑いながら私の頬を摘まむ。アルも期待していたようで、当てが外れたような表情をしている。

「まずは基本だよ。魔法の前に自分の事を知らなくちゃ」

お兄様がそう言うと、アルはハッとした顔で口元を引き締め頷いた。私達はサロンへと移動し、勉強を始めることにする。そこで既にウィルが待っていて、紅茶の準備がされていた。


「お待ちしておりました、坊ちゃま方」

「今日からよろしくね、ウィル」

お兄様がそう声を掛けると、ウィルは恭しく一礼してアルへと向き直る。

「先日はどうも、イデアのアルベルト様。わたくし、サンティス家の家令を務めておりますウィルフレッドと申します。今後私が指導をさせて頂きますのでよろしくお願いいたします」

アルは小さく頷いて「よろしく頼む」と言った。そしてウィルが年を取っているからか、小馬鹿にしたような視線も含まれる。それに目敏く気が付いたのか、ウィルは失礼しますと言うと、瞬きする間にアルを組み伏してしまった。


「なっ!?」

驚きと痛みでアルが声を上げると、ウィルは高らかに笑い声をあげた。

「年寄りだと舐めてもらっては困りますぞ、このウィルめはこの家の家令です」

そこまで言うと、ウィルは彼を離し目の前にまた一瞬で移動する。

「伊達に長生きはしておらぬのです」

アルベルト様、と続けたウィルにアルは驚愕の視線を送る。そしてそのまま期待に溢れたキラキラとした視線に変わり、満面の笑顔に変わった。

「はい!師匠!」

その声にウィルはまた楽しげに笑うと、私達を席へと着くように勧めた。私達はそれに従い、紅茶を少し嗜む。今日は甘めのフルーツティーのようで、爽やかな香りと甘い香りが気分を落ち着けてくれる。しつこくない甘さで、男性陣も美味しそうに飲んでいる。



いやあ、現実逃避したけどウィルって何者なのさ。強すぎませんかね。

そんな強い妖精付きや精霊付きがいるこの屋敷って、実はこの国の中で一番強固な守りの場所なんじゃないのかな。

私は遠い目になりつつも、勉強に向けて気分を変えた。






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