予想外2
いつもありがとうございます!
アルベルトの言葉に私は驚きすぎて、息を止めてしまった。そもそも彼は何故私の家の騎士になろうとしているのか。そしていつの間にお父様と話し合いをしているのだ。それよりも何よりも、妖精付き何て聞いてない!!
ダンスの授業はとりあえず乗り切った。無表情を張り付けて、「私に言われても困る」という言葉を盾にアルベルトから逃げ出すことに成功した。今日の授業は教養と王国歴の授業だったので、その後はアルベルトに関わることなく乗り越えることが出来た。
アルベルトからの熱烈な視線を気付かないふりをしつつ、大人気ない程に逃げ回ったのだ。やり遂げた感が半端じゃない。
今日もお兄様と一緒に帰宅するために馬車の前で待っている。お兄様は今日はナーガでの授業があったようで、ハリス王子とその側近の数人と共に校舎から出てきた。どうやら何か質問をされている様子で、話しながら歩いている。
私はその姿を遠目に見つめながら、我が家の馬車の前にある王宮の馬車を見た。ハリス王子とここで挨拶することになるだろうから、気合を入れて姿勢を正して待機することにした。さあ、私に死角はない!正直あの王子は苦手だけど、笑顔で応対して見せよう!
「トリア、待たせたね。」
お兄様が少し離れたところから、私に手を挙げて声を掛ける。私は表情を意識して用意して、満面の笑みを浮かべて見せる。この笑顔を作ってようやく微笑み程度になるのだからつらい。
「サンティス嬢、久しいな」
ハリス王子が私に向かって声を掛けてくる。実質この王子とは半年近く言葉を交わしていない。あの確信を持ったお茶会以来となるだろう。
「お久しぶりです、ハリス殿下」
私は淑女の礼をして、柔らかな笑顔を浮かべて見せた。幸せそうな笑顔を浮かべてこちらを見ているお兄様の横で、ハリス王子は目を見開いている。
「貴女は表情が豊かになったね」
思わずと言った様子で私にそう言ってきた。ひどく失礼である。お兄様も眉をピクリと動かし、表情は変えないまでも不快を感じた様子だった。
「意識しないと顔が動いてくれないのです。いつも愛想がない様をお見せして、大変申し訳ありません…」
私も嫌味を少し含ませながら、失礼には多少の失礼を返した。驚きで見開かれた目のついでに、口もポカンと開いている殿下の後ろでお兄様が口元を緩めている。よし、仕返し成功だ!
私が満足げに息を吐くと、ハリス王子が突然口元を抑え堪えられないかのように笑いだした。
「君はそんな性格をしていたのだね。」
一体どんな性格だというのだ、この王子は。私は自分で言うのもあれだけど、美人の部類だぞ。可愛い子を捕まえてその反応はないと思うの。
「いかがされました?」
私はあえて分からないといった風に笑いかけて見せる。それが尚の事面白かったようで、ひとしきり殿下は笑っていた。
「いやあ、失礼した。サンティス嬢…、いや、ベルトリアとお呼びしても?」
私はあまりに笑われるのでイラっとしつつも、「お好きに呼ばれてください」と返事を返す。ハリス王子はまた含み笑いをすると、咳払いをして私に向き合った。
「では、ベルトリア嬢。どうか私の友人となってくれないかい?」
その言葉に私は顔を上げ、真意は何なのかと考えを巡らせる。でもその顔に浮かぶのは、面白い玩具を見付けたというような表情であり、私を利用しようというものは感じなかった。
「友人であれば、喜んで」
私は意識してさらに濃い笑みを浮かべると、お兄様を見つめた。流石のお兄様、私の意図を理解して下さり殿下を馬車へと促す。殿下も頷くと、私へ向き直り挨拶をしてくれた。
「それでは、ベルトリア嬢。また」
「はい、ではまた」
彼は悠然と歩を進めて、優雅に馬車に乗り込むとゆっくりと城へ向かっていった。私達はその馬車に礼を取り、しばらく頭を下げた。
「お兄様、色々聞きたいことがあるの」
帰りの馬車の中、私は笑顔を浮かべてお兄様に問い掛ける。お兄様は逃げ腰のまま、「何の事かな」と笑って逃げようとするので質が悪い。
「嫌ですわ、色々ありますでしょう?」
私はわざとらしく、貴族言葉で語りかけて見せると息を飲んだお兄様が肩を竦めた。
「僕の負けだ、さあ質問をどうぞ」
お兄様のその様子に違和感を感じつつも、話に応えてくれるのならば、異論はない。私は自分の中でベルトリアと相談しつつ、質問を投げかけることにした。
「今日のダンスの授業で、アルベルトとペアを組みました」
お兄様は耳を少しピクリと動かし、こちらの話に興味を持ってくれた様子。
「彼はサンティス家の騎士になると私に傅いて、宣言なさいました。さらに妖精付きですって」
私はお兄様の目を見て、一時も反らすまいとその瞳の色を覗いた。でも杞憂だったようで、このことはお兄様も知らない事実だったようだ。
「アルベルトが妖精付き!?」
「ええ、お兄様。妖精付きって特徴とか出たりしないものなの?」
私の問いにお兄様が、首を傾げて否定を示す。
「特徴は能力に現れるから、身体的な特徴は分からないね。それに妖精は魔力をそう大して持っていない。魔法の知識は持っているけどね。人間と混じることで漸く少しの脅威となることが出来るのさ」
お兄様が背もたれに体を預け、足を組む様子を見つめる。妖精は魔力が少ないというのは聞いたことがある。
「妖精が持っているのは魔力でなく、聖なる能力のほうだ。だけど命あるものに魔力が宿る為か、魔力の知識は群を抜いてもっている。」
そう言うと、静かに何かを考え始めた。その後何度声を掛けてもお兄様が熟考から帰ってこない為、そっと馬車の外を眺め家までの道をたどった。
アルベルトがアルバイトになっている事がありますが、ゲシュタルト崩壊してきましたのでお許しください…