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初めての友達


ハンカチを落とした兄妹は私の探していた、キャンベル兄妹だった。

なんてラッキーなことだろう。冷静に考えれば家格ごとに呼ばれているので、近しい順になるのは当たり前だけど。

ロイスとアリアは2人揃って赤い髪に、黒に近いグレーの瞳をしている。

すっきりとした目鼻立ちが端正な顔をより光らせる。

切れ長のロイスの瞳と、アリアのおっとりした優しげな瞳。対照的な目元をしているが、顔立ちはそっくりだ。ロイスもアリアも同じくらいに伸ばした髪を、ロイスは襟足あたりで一つに、アリアはハーフアップで軽く結んでいた。

ロイスたち兄妹と言葉を交わしていると、私の後ろから両親が私に追いつく。


「キャンベル殿、娘が失礼した」

お父様がキャンベル侯爵に声を掛ける。


「いやいや、こちらこそ娘のハンカチを拾っていただき助かった。

何分、やんちゃとお転婆なのでご容赦願いたい」

キャンベル侯爵もお父様に応える。

ロイスとアリアはぷくっと頬を膨らませ父親を見上げている。この二人も中々家族を困らせているようだ。

なんだかじわじわと仲間意識が出てきた。


「お転婆なのはうちも同じだ。

 改めて、娘のベルトリアだ。どうか娘と仲良くしてくれると嬉しい」

お父様がロイスたちに微笑みかける。


「こちらこそ。子供たちは双子で息子のロイスと娘のアリアーナだ。」

キャンベル侯爵も双子の背を押しながら私に声を掛けてきた。


「ベルトリアなんて長いわ。お父様たちはトリアって呼ぶの。

2人ともぜひトリアって呼んで」

私はロイスとアリアの手をそれぞれ握って声を掛ける。

「僕のこともロイスと」

「私のことはアリアって呼んで」

二人ともにっこりと可憐に微笑んでくれる。なんて可愛い笑顔だろう。

私も二人に微笑みを返す。途端にアリアの表情がぱっとキラキラ輝き、ロイスが照れ臭そうに視線を逸らす。


「トリアの笑顔って、凄く綺麗なのね。まるで天使みたいだわ」

アリアが興奮した様子で、私の握る手をさらに包み返してくる。

「ええっ!?」

あまりの勢いに私は驚く。私は確かに手折ることができそうな儚い顔をしているが、そんな絶賛されるものなのか。それならこの双子の方が余ほど可愛いと私は思う。

「アリア、トリアが驚いてるよ。確かにすごく可愛かったけど」

ロイスも少し頬を赤らめながら、アリアを少し戒める。

「って、ロイスまで!二人揃って私をからかっているのね」

ロイスとアリアの目を見ながら少し拗ねてみる。

前世も含めたら私は成人を迎えた頃だろうか。大人をからかうのではありません。

「そんなことないよ、君は可愛いもの」

ロイスはなんてことないように私を褒める。余りにも自然に褒めるのでこっちが照れる。

さも当たり前のように女の子を褒めるとは、なんたる紳士。

ロイスが女たらしにならないことを願うばかりだ。


私がしどろもどろになっているとお父様からの救いの手が来た。

「さあ、ここで語らっていてもみんなの邪魔になってしまう。席へ急ごう」

その言葉を皮切りに再び席へ案内される。


案内された席は二列目の左寄り。キャンベル家も同じ列の隣のブロックに案内されたようだ。

「さっそく友達ができてよかったね、トリア」

お父様の嬉しそうな声を聞いて、私も第一目標を達成したことを実感する。

「ええ、お父様。これからたくさんお友達を作って、学校を楽しいものにするの」

お父様に向かって全力で笑顔を振りまく。

「トリアちゃんは美人さんだから、男の子に気を付けるのよ」

お母様が私の頭を撫でつつ注意を促す。


確かにゲームの中のベルトリアは儚げな美人で、神秘的な雰囲気を持っている。でも私はそこにお転婆をぶっこんでいるのだ。すぐに化けの皮が剥がれるぞ、お母様。

というよりも、この顔に見慣れてしまった。美人は三日で飽きるというけど本当かもしれない。

「まあ、それならお母様のほうがすごく綺麗だよ。私は全然だもの」

お母様を見上げながら首をかしげる。

それに私の表情筋は実はあまり仕事をしていないようだ。全力で笑ったつもりで儚げな笑顔を振りまく程度にしかならない。

それもこれも、私の全体的に薄い色彩がもたらした結果のような気もする。溌溂とした表情をすることは今の私には、なかなか難しい命題だ。

それに歯を見せて笑うなんて、淑女たるもの有り得ないと教えられてきているのだ。それはもう私は上品に笑うぞ。


「トリア、君は自分の表情がどうなっているのか自覚していこうね」

お父様の苦笑いとお母様の困ったような表情を見る。

お母様の白銀色の髪とお父様の薄金髪がふわりと風に揺れるのを見て、二人とも美人だなと改めて感じる。そうか、この二人の娘の私もそこそこ美人なのだろう。

「難しいけど頑張る。お父様とお母様の娘ですもの。」




その時自分の薄い表情がすでに、神秘的なものとして周囲に見られていると私は気付かなかった。これこそがゲームのベルトリアの武器であり隠れ蓑。

そのことを失念していた私はしばらく、自分の容姿に振り回されることになる。


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