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ゲームの中の私

ベルトリア視点に戻ります。

少し短めです。




キャンベル兄妹と離れ、校門で兄のルーファスと待ち合わせる。もう既に馬車は準備されていて、一人で馬車に乗り込むのが何となく嫌だった。それなのでこうして外で待っている。

今日の授業は平穏無事に終了したとは言えない。

私の手を捻り上げたアルベルトの顔を思い出すと、まだ身の竦む感覚がする。捻り上げられた右腕を見る為に、そっと袖を捲る。そこには赤黒い痣が出来腫れ始めている。見る限りでかなりの力で攻撃されたことが分かる。そっとその上に手を乗せるが、それだけでもじくじくと痛みがあるのだから堪らない。



「ゲームではこんな出来事無かったはずだよね…」

私は腕を擦りながらぼうっと前を見る。そして涼香自身の記憶へと集中して思い出そうとした。

ゲームの中でのアルベルトとベルトリアは、中等部から関わりを持つことになっていたはずだ。そこでも相変わらずサンティス家を分家と思っていたアルベルトが、ベルトリアを口説こうとするのだ。しかし逆に手玉に取られてしまって、ベルトリアの手駒へと早変わりするのだ。


「そう考えるとゲームでのベルトリアは不思議な行動をしているよね」

私は空を見上げる。青々とした高い空に、小さな雲がいくつか浮かんでいる。夏にはまだ遠く、澄み渡った色が少し目に染みる。

ゲームの中のベルトリアが本気を出せば、主人公なんて社会的に消されてしまうことも簡単だったはずなのに、そんな事はせずに可愛い悪戯程度の嫌がらせしかしていないのだ。



『ゲームの中の私は、未来を知っていたのかな』

ベルトリアが私の中で声を掛けてくる。確かに疑問に思う事だ。むしろ何故今までそこを考えなかったのか。

ゲームの中でのベルトリアのした行動といえば、しょうもないみみっちい嫌がらせ。しかも他人の手を使って、己の手はほぼ汚さない。その割には手酷いしっぺ返しを本人が食らっているのだ。しかしこの小さな嫌がらせこそが、そもそもの未来を変えようとしたベルトリアの行動だったらどうだろう。


あくまでこれは仮説だけど、私達が知っているストーリー自体がベルトリアによって修正されたものだったのかもしれない。

悪役令嬢が行う嫌がらせは、国家権力を笠に着て暗殺等の暴虐の限りを尽くすのが定説だ。それなのにこのゲームは違うのだ。

ゲームとしプログラミングされているのだから、キャラクターの意思なんてないと言われればそれまで。だが、ベルトリアが嫌がらせの程度を、未来を変える為にみみっちいものに自分で変えていたとしたら。彼女の行動は、持ったはずのコネや権力の一割程度でしか発揮されていないのだから有り得る話だ。

彼女に降りかかる仕返しのレベルは、行った嫌がらせに比べ重たすぎるモノだった。しかしベルトリアの行った嫌がらせを、俗にいう悪役令嬢のした行動にレベルアップさせてみるとその仕返しで納得のいくのも事実だ。



つまるところ、ベルトリアの行動は変わったが未来は変わらずにプログラミングされている仕返しは行われ、そのまま彼女に降りかかってきた。



有り得なくもない。

この説ではゲームというストーリーを否定する事になるが、この一見筋の通らないこの説が私達ベルトリアの前提条件となった。未来が分かる彼女が、そんな自分を追い詰める嫌がらせをするはずがないのだから。



私は改めて空を見上げる。相変わらず爽やかな青い空で、風が頬を優しく撫でてくれる。

「トリア」

少し離れたところから、聞き慣れつつある兄の声がする。

「お兄様!」

私はその方向へ大きく手を振って、小走りでこちらへやってくるお兄様を見つめる。


「お兄様、遅いよ」

私は頬を膨らませて、拗ねていることをアピールする。お兄様は柔らかく微笑むと、私の頭を軽く撫で目の前にしゃがみ込む。

「掴まれた手は痛くないかい?」

お兄様がそっと私の右腕の袖を捲ろうとするが、さっと腕を引いてそれを躱す。

「大丈夫よ、気にしないで。それよりもお腹すいたから早く帰ろう?」

私は左手でお兄様の手を握り、馬車の方へと引っ張っていく。お兄様も苦笑いしながら私に続いて、馬車に乗り込む。御者のおじさまが微笑ましげに私達を見つめていた。



ガタゴトと馬車が家に向かって進む。向かい側からのお兄様の視線が痛いが、私はその視線から逃げる為にお兄様の隣へと移動する。

「どうしたの?」

お兄様が優しく頭を撫でながら声を掛けてくる。

「なんだか眠いの」

私はそう嘘を吐いて、お兄様の膝に頭を乗せる。勿論右腕を下にすることを忘れない。こうすることで、腕を捲られることと、触られることを阻止するのだ。

想像以上に体と椅子の間に挟まれて、腕が痛いのが難点だが我慢するしかあるまい。


お兄様は少し笑うと、私の肩をポン、ポンとリズミカルに軽く叩いてあやしてくれる。なんだかそれが心地よくて、私は本当に眠ってしまった。







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