僕らの友達
ロイスとアリア視点になります。
前半ロイス、後半アリアです。
僕達の友達、ベルトリアは昔絵本で見た花の精霊の様にとても可愛くて、月の精霊の様にキラキラと美しい。子供っぽい所はあまり無いけれど、それよりもどこか遠くを見ている瞬間の瞳が凛々しくて一番綺麗だと思う。
彼女が僕達の友達になってくれたのは本当に驚いた。皆が双子を嫌がる中で、彼女だけはそんな様子なく近づいてきてくれたからだ。その時は嬉しさで気にもしなかったけど、一緒に過ごすうちに段々周りが見えてきた。それは周囲の人達の彼女を見る視線のことだ。人形のように表情を変えない彼女を遠ざけるのを見て、彼女も僕達の仲間なんだと守らなくちゃ、と思った。
僕達のような双子はこの国ではあまり歓迎されないらしく、年の近い友達なんて一人もいなかった。双子は一人の魔力を分け合って産まれてくると言われているから、魔力で力を示す貴族にとって迷惑な存在とのだと思う。でも僕らは魔力がちゃんと一人分それぞれ持っている。何なら少し多いくらい持ってる。それもまた気味悪がられる原因になってしまったらしく、家族は僕らを愛してくれているけどいつも僕らは二人ぼっちだった。
でも双子であるからこうなったけど、双子であるから一人じゃなかった。アリアは大事な相棒で、可愛い妹で、絶対守らなくちゃいけない子なんだ。
僕らは初めての友達が嬉しくて、初登校の日に校門でベルトリアを待つ事にした。けれどワクワクして早めについた僕らと違って、彼女はマイペースにギリギリに着いた。三人で小走りに教室に向かうのも楽しかったけど、もうあんなにソワソワしたくないから彼女を迎えに行くことにした。そしてそれはすぐに正解だったと分かった。
彼女は良くも悪くも凄く目立ったからだ。
ベルトリアが教室にいない時、彼女の話題がひそひそと噂されている。
「ベルトリアさんって、いつも一緒の顔していて何だか怖い」
「ベルトリアって子、物凄く可愛いよね。大人しそうだけど、近寄りがたいよね」
ザワザワと騒がしい教室で耳を澄ませていると、色んな声が聞こえてくる。
仲良くなりたい子、怖がる子それぞれ居たけど、皆彼女に近付こうとはしなかった。それは僕等がいたせいでもあるかもしれない。
でもその中でひと際目立つ大きな声があった。それはイデア公爵家の時期当主の次男のアルベルトの声だった。
「俺が可愛がってやるよ。笑わないし不気味だから、笑うように躾けてやるさ」
彼の声は悪意が隠せてない嫌らしい響きだった。そして彼がベルトリアに目を付けたのがとても恐ろしい事だと思った。家の格で公爵家には敵わないし、イデア公爵は今一番力のある貴族だ。もし彼がベルトリアを虐めて、大人に伝えても助けてくれないかもしれないのだ。
僕は思わず隣のアリアの手を強く握ってしまった。
「ロイス、大丈夫よ。私達がトリアの傍にいればいいんだもの」
アリアの声を聞いて僕は小さく頷く。そうだ、僕らで彼女を守るんだ。決意を新たにする僕の横で、アリアは小さくため息をついて何かを呟く。
「気になるなら、そう動けばいいのに…」
アリアが何か言いながらアルベルトを睨みつける。何を言ったのかは分からなかったけど、僕の手を強く握ってきたからこっちからも握り返しておいた。
僕が、彼女を守るんだ。
◇◇◇◇
私達の友達のベルトリアは、可愛いなんて言葉じゃ足りないくらいに可愛い。この世界の綺麗なものを集めて全部綺麗なガラスに閉じ込めたら、きっと彼女になるんじゃないかって思ってる。
入学式の時私は後ろを歩いている綺麗な女の子と話したくて、わざとハンカチを落として声を掛けて貰えるか試した。ベルトリアは見た目の可憐さに違わず、心も優しい素敵な女の子だった。彼女の家はあまり仲のいい家ではなかったようだけど、これを機に縁ができるのは喜ばしい、とお父様にも褒められた。
彼女のあまりの綺麗さに気にしてはいなかったけど、彼女はあまり表情豊かではないようだ。それでも小さく口元や目元に気持ちが浮かんでくれるから、とても分かりやすいしまるで雪の精霊のようだった。
彼女の白銀の髪は風になびくとキラキラと輝いていて、少し赤い色が混ざっているのが夕日に透かしたみたいだ。かと言ったら実は結構自由な子で、無表情に悪戯を仕掛けてこようとするから毎日がワクワクドキドキだ。
私達双子だから、友達なんて出来ると思っていなかった。だけど彼女と出会えたことがあまりに嬉しくて「神様のプレゼントなの」だと、ロイスに言ったら笑われてしまった。
あの日、魔法基礎理論の教室の前で先生らしき人に飛びついたベルトリアを見て、私達は心臓が止まるかと思った。だって彼女見たこともないくらい笑顔だったんですもの。
あまりの綺麗さに気持ちを持っていかれそうになったけど、目の前に広がるたくさんの落とし物を前に正義感から拾う事を優先してしまった。
彼女の飛びついた男性は、これまた見たことないくらい美しい人だった。ベルトリアと持っている色は丸きり違うのに、どことなく似た雰囲気の持ち主で、なるほど兄妹かと感心するほどだった。
彼はこちらが驚く程に、ベルトリアの事を大事にしていた。可愛くて仕方がない様子だけど兄妹って、昨日知ったというのにこの溺愛には笑ってしまう。しかも五歳の集まりの私達に「妹に手を出すな」と言っちゃうのだから、呆れてしまったわ。だけどその視線が真っすぐに、アルベルトにしっかり向いていたことだけは評価するわ。彼、息を飲んで黙っていたもの。
授業後の兄妹喧嘩には少しハラハラしたけど、それよりもベルトリアが何かに追われるような必死な顔をしていたのが、なんだか気になった。
彼女は私達に何かを伝えたがっている、そんな風に見えた。そして家族は彼女の表情の原因が何なのか知っていて協力しているけど、私達に伝えるのを得策とは思っていない。
それでもいいわ。
いつか、彼女にとってなくてはならない人物になって見せるのだから。
目指せ、親友!
ロイスは自分の中にある気持ちを友情だと思っているし、その気持ちに気付かせないほうが今はいいと思うの。そんな事よりも色んな悪意から、ベルトリアを守らなくてはいけないのだから。