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秘密はあって無いようなモノ


ガタゴトと馬車が揺れる。帰りはロイス達の馬車ではなく、お兄様が乗ってきたサンティス家の馬車に乗っている。勿論、忌々しいお兄様と一緒に。向かいに座るお兄様はこちらを苦笑を浮かべながら見ているが、私はそれを視界の端に捉えながら窓の外に目をやっている。


「トリアちゃん…?そろそろ機嫌治してくれない?」

「い、や、だ」


さっきから馬車の中で何度となく繰り返されたやり取りだ。お兄様の少し困ったような微笑が、いつまでも引き摺っている自分を情けなくさせ、余計に腹が立つ。これのループを繰り返している。

窓の外からは貴族のタウンハウスに近づいてきた景色が見えている。この中の奥まった区画に我が家はある。どこかの屋敷の屋根の後ろに、精霊の樹のてっぺんが見えている。


「本当にあれは申し訳なかったけど、ベルトリアに話してしまうと意味がなかったんだ」

私は向かい側に座るお兄様を恨みがましく睨みつける。お兄様は苦笑しつつも、あの時の状況を語る。

「確かにたくさん伏線を張って悪戯を仕掛けた。それは素直に申し訳なかった…。でもその先に君が僕に怒ることが必要だったんだ。」

お兄様は少し手を伸ばして、私の頭を撫でる。私も拗ねている状況が居た堪れなくなってきたので、その手を甘んじて受け入れることにする。少し嬉しそうにお兄様が笑っているのが癪に障るが、ここは話の続きを聞くために見逃すことにしよう。

「君は入学早々に無表情で近寄りがたくて、侯爵家の人間という事で少し遠巻きにされているのだけど、自分の兄には表情を見せるとあらば、人見知りの激しい子ぐらいの印象へと薄まる。」

お兄様の意見は一理ある。私は彼らがお近付きになりたい高位貴族の一員だ。それなのに同じ侯爵家のキャンベル兄妹としか、会話をしていない。これはある意味クラスの人に関わる気がないと、アピールしていることになってしまう。そしてお兄様はクラスの第一印象で、それに気付いて行動を起こしたのだろう。


「でもお兄様。それじゃ、私に注目が集まり過ぎてお兄様にとって面白くない状況になるんじゃない?」

私は窓の外に視線をやりつつ、ぶっきらぼうに問いかける。お兄様はそんな私をさらに愛おしそうに撫で繰り回し、仕舞には私の頬を摘まんで「うへへ」と気持ち悪い反応を見せている。

お兄様の手を払いつつ、もう一度睨みつける。お兄様は渋々といった体で手を離し、姿勢を正して座り直す。


「確かに、面白くはない展開になるだろうね。だから僕は釘を刺したはずだよ。妹に手を出すなと」

不敵に笑うその目元を、ため息交じりに見つめる。確かに言っていたよ、この馬鹿兄貴。一体どこまでが伏線で、どこからが思い付きなのか。未来視でどこからどこまでを思い通りに動かしたのか。

こんなに私達が必死に足掻いている事さえ、掌の上で上手い事転がしてしまいそうで嫌になる。

「これで、とりあえずの目先の危機は去ったはずだよ」

お兄様はそう言って悪戯な視線をこちらに向ける。


―――なるほど?

つまり、あのままだと面白くない未来が私に降りかかっていたと。それをお兄様は面白みのある未来に変えたと。


なるほど、意味が分からん。


「それがどういう事だか、説明してくれるよね?」

私はお母様の怒りの微笑みを再現するように、表情を作りながらお兄様を見つめてみた。お兄様は一瞬たじろいだが、小さく首を横に振る。

「今はまだ話せない。そうだね、明日の夜には話せると思うよ」

つまりは今話すと、私の予定されている行動が変わる可能性があり話せないと…。

これ私の未来だよね?なんでこの人が上手い事回してしまっているのさ。非常に納得がいかないが、ここは大人しく掌の上で踏ん反り返ってみよう。まだ魔法が上手く仕えない私より、お兄様に従う方がここは良いだろう。

本当に上手くいくかは分からないけれど、文句はまた後で。耳元で呪いのように囁きながら言うことに決めた。

「それじゃあ、明日の夜を楽しみにしているわ」


丁度その時馬車が止まり、屋敷へ着いたのだと分かった。お兄様にエスコートされて馬車から降り、私は家の中で待っているであろう家族の元に足を運んだ。





今日もお父様が家にいる。

この人は仕事をしているのだろうか、たまに心配になってしまう。


「あああ、お帰り!ベルトリア!!」

丁度何かの書類を確認しながら歩いていたお父様に、玄関ホールで出合い頭に抱え上げられる。お父様の放り出した書類は床に落ちる前にほとんど、ケイが魔法を駆使して集めてしまった。

すごいね、魔法の有効活用だね。


「ただいま、お父様」

お父様の腕の中で声を掛ける。お父様はお兄様に一瞥もくれず、私を食堂にそのまま連れて歩き出す。

「お、お父様。お兄様もいるよ?」

私は微妙に気まずくなり、お父様に声を掛ける。しかしお父様は力強い口調で否定する。

「妹を事情があれど傷つけるのは、兄としてどうかと思うのだよお父様は。」


私はぐっと口籠る。何故知っているのだこの人。私とお兄様が学校で喧嘩をしたことを知っているのは、あの場にいた生徒だけのはずだ。

つまり、お父様も未来視を使ったか遠見の魔法を使ったのだろう。私はこの家族の前では秘密なんてあって無いものだと悟る。私生活何てきっと筒抜けにしようと思えばできてしまうのだろう。

私はお父様の腕の中で遠い目をして後ろを振り返る。そこには同じく遠い目をしたお兄様がいて、目が合った私達は小さな仲間意識を抱くのであった。







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