魔法
昨日の文章が混ぜこぜになっていたので、後半かなり修正しています。
疑問に思われた方申し訳ありません…
クラス全体が、光でカオスなことになっています。
ぜひ、サングラスが欲しいですね。目が焼けてしまいそうです。
お兄様が手を二回叩くと、それまで教室を照らしていた数々の光が消えた。お兄様の嫌らしい悪戯好きな笑顔は、今は紳士な笑みに鳴りを潜めている。
そもそもクラスがこんな状況になったのも、お兄様の説明を最後まで聞かずに私が好奇心で先走って魔法を使ってしまったせいだ。そしてお兄様もそれをきっと分かって、生徒たちが魔法を試したくなるように事を運んでいた。全て掌の上である。
「ああ、眩しかった…」
アリアが隣で小さく零す。全くの同意である。ロイスはいまだに目がチカチカしているようで、しきりに瞬きをしている。
「さて、僕は先程説明したはずだよ。自分の属性に合った掛け声が必要だと。」
お兄様は全体を見渡して、さも楽しそうにクツクツと笑う。まるで悪役ですね。流石、お兄様です。
「各々の魔法属性、家系魔法もそうだけど行使するには言葉が必要だ。そして自分の魔力と相性のいい言葉がある。このクラスはサラマンダーのみだ。つまり皆の魔力の質は似通った部分があり、赤い質を持つ人たちに好まれて使われる言葉ももちろんある」
お兄様が黒板に向かい、何やら書き込んでいく。というよりも今説明されている事って、最初に話すべきことじゃないかしら。失敗するって分かっていて実施させるなんて、妖精の血が騒いでいたのがついさっきではなく、授業の開始からなのだろう。
お父様の言っていたことが身に染みて理解ができた。あまりこの事を責めていると、ブーメランで自分に大きく帰ってくるから程々のところでやめておこう。
黒板を見上げると、お兄様がこちらを丁度振り返るところだった。
「サラマンダーの皆に教える言葉はこの三つ。ちなみに僕はリンドブルムだったから、君達とは違う言葉を使うけどね。」
そう言うお兄様の指の先を見ると、黒板に大きく何かが書かれていた。
『力』、『灯』、『義』
決して漢字が書かれていたわけではない。これを意味する言葉が書かれているのだ。
「力に、灯、そして義…」
思わず呟いたそれを、お兄様は目ざとく拾ってくる。
「必ずしもこの言葉じゃなくてもいい。でもこの言葉に類する近い意味を持つ言葉が良いだろう。他にも言葉はあるが、追々自分たちで使いやすい言葉を身に着けると良い」
クラスの人たちは少し、騒めくも各々の言葉を考えているらしい。私も考えよう。
今から使うのは光明の魔法。光の玉が浮かび上がる魔法。
魔法と相性のいい言葉は『灯』だから、これを一つ使ってみることにしよう。ああでもない、こうでもないと考えていると、ニコニコしたお兄様が視界の隅に見える。あれは悪戯ではなく、妹が初めて魔法を成功させるのを見ようっていう魂胆だ。
私は一つ息を吐くと、お兄様を見返してみる。ここは意地を張ったってしょうがないので、さっそく実践といこう。
「光よ、我を照らす灯となれ」
うん、無難な言葉しかできなかった。しかし何も考えずに光に呼び掛けたさっきと違って、体の魔力の流れがスムーズに感じる。掛け声を呟くと同時に私の掌の上に、蝋燭の明かりのような仄かな温かみのある光が灯った。
「サンティス嬢、成功だね」
名前を呼ばないように気を遣ってくれながら、お兄様が私を褒めてくれた。素直にうれしい。初めての魔法が、こんなにも感動するなんて思わなかった。周囲も続々と成功させているようで、小さく歓声が聞こえてくる。
「光よ、その力を指し示せ」
右横でロイスが何やら、少し物騒な掛け声を使っている。その言葉に反応してその手の上に、ハンドボールサイズの光の玉が浮かんでいる。なにやらにやけ顔で、自分の行使した魔法を見つめているロイスが可愛らしい。
「光よ、灯となり義を果たせ」
左横ではさらに物騒なセリフで、アリアが魔法を行使している。すると横からロイスの舌打ちが聞こえ、それを尻目にアリアがどや顔をしてロイスを見つめるという謎の構図が出来上がった。どうやらどちらが強そうな掛け声を言うのか、勝負をしていたみたいだ。それにより私を挟んで、喧嘩をしているのだろう。
「トリア、どっちの掛け声が好き?」
「私の方よね?」
両サイドから詰め寄られると非常に怖いですね。この喧嘩に巻き込まれる必要あったかしら。
「わ、私は自分のが好き…」
ここは一つ逃げることにしましょう。逃げるが勝ちと言うではないか。
「まあ、そうだよな。」
そう言うと大人しく離れていくロイスは、納得してくれたようで腑に落ちない顔もしている。アリアも自分の位置へすっと戻っていく。
その時終業の鐘が鳴り、お兄様が再び二回手を叩く。光がぱっと消え、注目がお兄様に向く。
「今日はここまでだ。魔法を使うのにどれだけ掛け声が大事なのか分かってくれたと思う。掛け声に選んだ言葉の意味でも多少効果が変わってくる。各々自分でも確かめておくといい。さあ、解散だよ。気をつけて帰ってね」
わっと蜘蛛の子を散らすように生徒が席を立つ。そして何故かお兄様と私のところに集まってくる。
「ど、どうされたの?」
私は驚いて集まってきたクラスメイトに声を掛ける。
「ねえ、ベルトリアさん。もしかして貴女が先生の妹さん!?」
どうしてバレている。私は戸惑ってお兄様を見ると、悪戯が成功した時の自分とそっくりな笑顔が浮かんでいるのが見えた。
ああ、嵌められた。お兄様はさっき、自分を「ルーファス・サンティス」と名乗り、私をサンティス嬢と呼んだのだ。してやられた!!