授業の始まり
変なところがあったので書き換えてます…
授業開始の鐘が鳴る。リンゴンと高らかに響き渡る音が、私達の自由時間の終わりを告げた。鐘が鳴り始めると同時にお兄様に促され、私達は一番前の席に着いた。
お兄様はそれを見届けると、ざわざわとまだ賑やかな教室を見回し、手を二回叩く。その音に驚いた生徒たちは驚いて慌てて席に着く。バタバタと落ち着かない様子で生徒が席に着くのを見届け、お兄様は教壇に立ち、挨拶を始めた。
「それでは授業を始めましょう。私はルーファス。ルーファス・サンティスという。君たちの魔法基礎理論の担当をする魔法省で古代魔法を研究している者だ。よろしくね」
ミドルネームを抜いた名前でお兄様は挨拶をする。生徒たちは戸惑いもせず、黙って話を聞いている。ちなみに私はクラスでの自己紹介でも家名を名乗らずやり過ごしている為、ばれる心配はいしていない。
それでも私の顔と名前を知っている人の視線が軽く私に向けられるのを感じる。この人数はごく少数で、王太子殿下のお茶会で会った人物のみだ。それを軽くいなすと、お兄様を見上げる。お兄様はイタズラな視線をこちらに向け、高らかにこのクラスに宣言を始めた。
「このクラスには私の妹がいる。この妹に手を出すのは僕の目が黒いうちは許さないよ」
お兄様は誰ともなくクラス全員に目を配る。決してそれは私に向くこともなく、全員に満遍なく冷たい視線が向かう。息を飲む生徒もいたが、流石貴族の子息というべきか堪える者も多くいた。
どうやら今、怯まなかった人物を記憶しておきたいようだったので名簿と席から人物を割り出しておくことにする。私の意図を感じ取ったお兄様はにこやかに視線を広げる。
「それでは授業を始めよう」
お兄様の授業は、大変分かりやすく身に染みて伝わってくるものであった。
魔法の礎となるものは“魔力”と呼ばれ、量や質に個人差はあるも生活に困らない程度には全員が保持しているものである。貴族はそれに加え、各家庭の血族から受け継いだ家系魔法を保持している。
既に知っている事柄ではあるが、個人で魔法のもたらす効果が違うなど初耳の事も多い。
魔法とは各個人の中に巡る生命力であり、能力といっても過言ではない。家系魔法は血が混じり合ったとしても、貴族間では遺伝が出てくるが庶民では遺伝があってないようなものだ。
「魔法基礎理論の礎となる部分の説明をする。」
お兄様が教室を見渡すと、皆真剣にお兄様を見つめる。お兄様は右手を軽く掲げると、机の上に並べている教材が宙を舞い、各々の資料へと溶け込んでいく。
「前置きの5ページを開け」
お兄様の号令に従い、配られた資料がそのページを開いていくのが分かる。この項に記されているのは光の呪文であり、日常生活へ多大なる浸透と変化をもたらしている何とも便利かつ怖い呪文だ。
「……光明の呪文?」
クラスの誰かの呟きが酷く教室に響く。息を飲む音と視線がルーファスに集まるのが見て取れる。お兄様はその視線を受けて意地悪く笑うのをやめられないようだ。まあ、それでも大変色男である。
「その通り、光明の呪文だ。」
お兄様はニヤリと嫌らしく微笑むと、両手を胸の前で組んで深く息を吸う。
「光よ、我が道を照らせ」
お兄様は自分の手元から周囲へ視線を配る。その途端光が瞬き、視線より少し高めに舞い上がる。さながらこの光は、教室を優しく照らしている。
この呪文の良い所は、善良なる思考を感じ取れることにある。しかしベルトリアは真剣な表情で光を見据えるお兄様を見つめて、お兄様はどんな悪戯を起こそうとしているのか不安に駆られる。真剣な表情をしているが何か思い通りにいかないものがあったのだろうか。お兄様は私に一瞥くれると、爽やかに微笑み、改めて生徒を見回す。
「この国における魔法は、呪文は必要としない。だが、自分自身の属性に合わせた掛け声が必要となると思ってくれていい。」
お兄様は生徒に魔法について、魔力について説明を始める。
魔力とは各個人が誰しも持つ、個性のようなものであり、家系を示す導でもある。私は自分の掌に、蛍のような弱弱しい光をイメージして、手元を照らす。
「光よ…」
蛍をイメージしたはずの光は、目が眩まんばかりに周囲を照らし、授業どころではない。教室の中は全体的にそんな感じだ。お兄様は指導を行いながら、魔法という固定概念をかなぐり捨てているのが伝わってくる。新しい視線であるが、危なっかしいというのは、強ち間違ってはいないようだ。あまりクラスの皆は呪文を成功させていない。
ふとお兄様は私を見る。お兄様のその顔はイタズラが成功した時の子供のような、無邪気さに溢れていた。