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カケヒキ

年の瀬ですね。皆様には読んでいただきありがとうございました。

今日が今年最後の更新となると思います。年明けは三日か四日に再開しようと思います。

それではよいお年をお迎えください。


ロイス達の馬車に合わせて準備をしたからか、昨日よりかなり余裕を持って登校することができた。彼らの馬車はサンティス家の馬車より色合い鮮やかで、街中では少し目立つ。今日は急ぐことなく教室に向かうことができ、一限目のマナーの授業へ望む。


マナーの授業といっても、貴族出身の生徒しかいない初等部ではほとんどの生徒が身につけているものだ。その為授業のほとんどが、その他大勢でのお茶会でのマナーや、貴族間での言い回しの確認に当てられる。

今まで家で教わってきたものの確認になるような授業形式でしていたが、実戦形式でクラスメイトで行われた為、非常に有意義な物であった。またそれぞれの家格に合わせた授業であったので、細かい声を掛ける順などの確認にもなった。


マナーの授業が終われば、今日から本格的な魔法基礎理論の始まりだ。

私達は教科書を持って、第二校舎へと急ぐ。今日は待ちに待った魔法を初めて学べる機会であり、お兄様の初授業だ。楽しみで、ドキドキが止まらない。緊張しているような気もするが、期待が膨らんでいることは間違いない。


「確か先生は魔法省の人だって言ってたね」

アリアが私達に声を掛ける。

「どんな人だろうね」

ロイスが期待に胸を膨らませ、キラキラした目で前を見据える。そろそろ第二校舎入り口の渡り廊下だ。予鈴がなるまでそう時間がない。その時間までに教室に入り準備をして起きたいものだ。

「先生はきっと、優しくて頼りがいのある人だわ」

私は二人に向かってにこやかに笑うと断言する。二人は驚いた顔をするが、すぐさま微笑みながら頷いた。

「トリアが言うなら、そうなのだろうね」


私は渡り廊下をせっせと歩きながら、ロイス達が素直に同意したことにじわじわと驚きが湧いてきた。

「…ねえ、二人とも。何で私が言ったことをすぐに同意したの?」

私は震える声を誤魔化しながら、二人に視線を向ける。ロイスとアリアは互いに視線を絡ませて、何やら考え込み同時に頷く。

「それは勘だね」

ロイスが私に向かってそう答える。アリアもその向こうで頷きながら笑っている。

「なんでその勘を信じることができるの?」

「それは私たちの家系魔法によるところだとしか言いようがないけど、トリアと似たようなものだよ」

アリアが苦笑いを浮かべながらこちらに応える。

「そしたらどうして、トリアは先生がどんな人か分かったの」

ロイスが意地悪気にこちらに問う。ここは正直に言うべきか、贔屓とかの問題になる事はないか、それが気になる。だけど二人に嘘は付きたくない。

私は二人を壁輪に手招きし、二人の肩を組む。


「どどど、どうしたのさ急に!!」

ロイスが顔を赤く染めながらこちらから視線を外す。淑女たるもの簡単に人に触れてはいけないものだと分かっているが、これは他人の耳にあまり入れないほうがいいかもしれない。だから私から話すのはこの二人だけにしよう。

「ロイス、落ち着いて。アリアとロイスにだけ秘密のお話ね」

二人を交互に見つめながら、上目遣いで話を持ち掛けると黙って二人は頷く。私は二人の手をそれぞれ握ると意を決して口を開く。

「あ、あのね…」


二人は静かに私の事を見つめる。黙って聞いてくれようとするその視線が痛くもあり、他刺しくも感じる。ゆっくり口を開こうとする私の耳にドサっと何かが崩れる音がする。私達は反射的にそちらを見る。

視線の先では教材の山を見事に床に零したルーファスお兄様がいた。


「お兄様!!」

私は反射的に声を掛け、そちらに駆け寄る。お兄様は驚いた顔でこちらを見て、キラキラした笑顔でこちらを見つめてくれる。

「ベルトリア!もう来ていたんだね。会えてうれしいよ」

床に広がった教材を丸っきり無視すると、お兄様は私を抱きしめて抱え上げる。その優しい腕に思わず笑顔がこぼれてしまうが、ここはその場面ではない。

「お兄様、たくさん持ち過ぎよ。言ってくれれば手伝ったのにつれないわ」

腕の中でふくれっ面をして、頬を膨らませて不機嫌をアピールしてみる。お兄様はとても嬉しそうに私の頬を撫でるとクスクスと笑う。

「ごめんね、今日の授業で係りを決めるつもりだったんだ。決まるまではベルトリアにお願いすればよかったね」

「そうですわ、せっかくの兄妹ですもの。持ちつ持たれつよお兄様」


私達兄妹の語らいを、壁際で置いてけぼりで見ていたロイス達は慌ててこちらへ駆けてくる。お兄様はそれに気付くと二人に向き直って小さく笑う。

「やあ、こんにちは。君たちがベルトリアの友達のキャンベル兄妹かな」

アリアは驚いた顔をしてお兄様を見上げて、ひゅっと息を飲み頬を赤らめる。そうだろう、お兄さんはイケメンだろう。妹として鼻高々である。ロイスも目を見開いたが視線をずらし誤魔化す。その後すぐにお兄様に向き直る。


「初めまして。ロイス・キャンベルです。こちらは双子の妹のアリアーナ。よろしくお願いします」

お兄様は私を降ろすことなく、片手でロイスと握手をしている。それを上から見下ろしている自分の状態に少し嫌な気持ちになる。私はお兄様の襟元を軽く引っ張る。

「お兄様、そろそろ降ろして?」

「こんなに可愛い妹を降ろして変な男の目にさらすのは嫌なんだけど」

お兄様は物凄く嫌そうに私を更に強く抱きしめる。いつの間にかアリアが床に散らばった教材をまとめあげ、抱えてこちらを微笑ましそうに見ている。照れくさくて仕方がないぞ。

ロイスはお兄様の言葉に苦笑いしながらも、視線を交えることに躊躇がない。

「大丈夫です、僕達兄妹が目を光らせていますので。」

お兄様は面白い物を見付けた目で二人を見る。ロイスとアリアは微笑を消さずに、動揺もせず強いまなざしでお兄様を見返している。

お兄様は満足げニヤリと笑うと、私をそっと降ろしてくれる。

「では、これからも。可愛い妹をよろしくね。それと、ぜひ今度家へ遊びにおいで」


お兄様の言葉に私達全員嬉しい気持ちを隠せず、大きく頷く。微笑ましく笑うお兄様はそのままアリアから教材を受け取ると、魔法で扉を開けて中に入っていった。


さあ、いよいよ魔法の始まりだ。








よいお年をお過ごしください。

新たな一年が幸せなものになりますように。

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