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新しい朝

いつも誤字報告、感想有難うございます。

パソコンの調子が悪いようでクリックすると、英語入力とローマ字入力が入れ替わるようになっています。できるだけ修正をしていますが、可笑しな点ありましたら指摘いただけると幸いです。


爽やかな風を感じ目を開ける。柔らかな陽の光と共にアニーの声が降ってくる。

「お嬢様、朝ですよ。今日からご友人がお迎えに来てくださるのでしょう」

眠気を誘うベッドの温もりを引き剥がされながら、私は目覚める。布団を引き剥がしたのもアニーで、私の手を引き立たせたのもアニー。この子は私を起こす方法を熟知しているようだ。

「アニーもう少し優しく…」

「お嬢様を優しく起こしては一生起きてくださりません」

断言されつつも、否定の言葉が浮かばずに今日も着せられるがままに制服に腕を通す。今日は少し髪を結いあげるようで、鏡台に座らされる。

「今日は髪を結うの?」

「そうです、お嬢様。ルーファス様より授業の邪魔になるから軽く結うようにと言われております」

アニーは嬉しそうに私の髪をハーフアップにまとめ上げる。髪の一部を三つ編みにして絡ませるようにして、華美過ぎない金細工の小さな髪留めでまとめる。ストレートでさらりと流すだけだった髪が、利発そうな明るい印象へと様変わりする。

髪型だけで大幅なイメージチェンジになるのだと思うのだが、如何せん顔が前よりもよく見えるようになっている。ベルトリアの顔は自分で言うのもなんだが、整った方である。自分の顔を始めてみた時はあまりの驚きに、内心小躍りしたほどだ。その自信も両親の顔を見て萎んでいったのだが…。

髪を上げることで昨日より、確実に美少女レベルが上がっている。スッキリとした印象へ様変わりし、儚げな目元が利発そうなイメージを含ませているのに無表情なのが玉に瑕である。


「お嬢様、今日も大変お可愛らしい」

アニーのうっとりした視線を適当に流しながら、食堂へと急ぐ。今日からロイスとアリアが私を迎えに来るのだから、急いで準備をしなければならないのだ。階段をはしたなくない程度で、競歩のように駆けていく。荷物は既にアニーに預けて準備は万端だ。


「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」

食堂の戸を開くと私以外が全員揃っており、もう食事の配膳を待つばかりとなっている。

「おはようトリア。今日も可愛いね」

お兄様が私に声を掛ける。いつの間にか呼び方が愛称となっているのが何だかこそばゆいが、嬉しく感じるのでにっこりと微笑みかける。

「おはよう、お兄様。お兄様の言う通り少し結い上げたのだけど、どうかな」

肩に下がる毛先を軽く弄り、家族を見上げる。何故だか全員がうっとりとした表情で私を見つめている。

「大変可愛らしいわ、トリアちゃん。」

お母様ににこやかに迎えられ、そちらに向かうと抱きしめられる。優しい温もりに思わず幸せから笑みが零れる。

「お母様、私髪を結うの初めてな気がするからドキドキするの」

「そうね、未婚女性は髪を結い上げないようにするのがマナーだからね。でもこの髪型で貴女の顔がよく見えてしまうのが不安だわ」

お母様は私から少し離れて、そっと頬を撫でてくれる。純粋に心配してくれる母の腕に、嬉しくてその手に自分の手も添える。

「大丈夫よ、お母様。私お母様程綺麗ではないもの。」


深いため息が食堂に響く。顔を上げると複雑な顔のお母さんがいて、その奥でお父様とお兄様が頭に手を添え、真剣に悩んでいるようである。

「どうされたの?」

お父様に声を掛けるがお父様は首を横に振って笑いかけるだけである。

「お兄様?」

お兄様も私に目を向けると、自分の横を差し座れと指示してくる。大人しく従いイスに座ると、お兄様に両頬をぐいっとつままれる。


「いひゃいれす、おひいさは」

上手く言葉にならない口で懸命に抗議する。お兄さんは満面の黒い笑みで私を見ている。非常に恐怖である。

「ベルトリア、昨日言ったよね?君は気を付けなければいけないの」

言い聞かせるようにお兄様は私の目を見つめる。確かに昨夜、自分たちの苦労話と共に私に気を付けるよう言い聞かせてきた。家族は私の事を絶世の美女のように扱う。だがそれを真に受けてはいない謙虚な私は、否定の視線をお兄様に向ける。

お兄様は私の視線を受けると、ため息をつく。


「今ここで言っても君は信じないと思うけど、自分の魅力を見誤らない事だよ。只でさえ美しいエルフと、妖精の血を引いているんだ。君は尋常ならざる域で美しい存在なんだよ。」

そう言ってお兄様は私の頬から手を外す。若干赤くなっているであろう頬を、自分の両手でさすりながら反論する。

「それを言いうならお兄様もよ。私、お兄様ほど綺麗な男性見たことないわ。お父様を除いて」

お兄様は再び深いため息をつく。何でこうも朝からため息をつかれなければならないのだ。納得がいかない。


「そんなことより朝食だ、配膳が終わっているよ」

お父様の一言を合図に私達は朝食に向き合う。祈りの言葉の後、お腹に優しい朝食を楽しむ。メニューはミルクリゾットと、サラダ、コンソメスープだ。スープは薄めの味付けで、朝の寝起きに優しく胃を温めてくれる。ミルクリゾットはチーズの香りをさせつつも、柔らかな味付けがなされている。だが少しチーズのせいか胃に重く感じる。サラダも丁度良い量で食べやすく、リゾットのしつこさを軽減している。なるほど、全て考えられているのだな。


食事後、身支度を終えると迎えが付いた知らせがあった。

「あれ、友達が迎えに来たのかい?」

お兄様が目を見開くと私に声を掛ける。

「ええ、そうなの。通り道だから乗せていってくれるそうなの」

私はアニーから荷物を受け取りつつ、お兄様に返事をする。お兄様は少し嬉しそうに微笑む。

「その友達を一生大事にしなさい。媚びを売るような子たちではないのだろう?」

「勿論よ、キャンベル侯爵家の双子の兄妹なの」

「キャンベル侯爵のところか。仲良くするんだよ」


お兄様は私の頭を嬉しそうに撫でると、自分の準備をしに部屋に戻るという。私は玄関に集まっている家族に手を振りながら玄関を飛び出す。

「行ってきます」

「またあとでね、トリア」

「行ってらっしゃい」

「気を付けるのよ」


庭先でロイス達が私を待っているのが見えた。学校二日目、本格的な授業の始まりに胸を躍らせながら二人に駆け寄った。








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