この血
昨日は変な文章になっていて申し訳ありません!
再編していますので、感想で教えてくださった方々ありがとうございました。
今日は少し短めですがよろしくお願いします。
精眼。
妖精や精霊の血をひく者の少数に出現する、家系魔法の一つで体質のような物。視界の中で魔力を輝きとして見ることができる程度のものであるが、使い道の可能性は予測がつかない。魔法を使った犯罪が起きた場合でも、後を付けることが可能となる程だ。
ちなみに精霊たちが精眼をどう使うのかというのは、精霊の樹を見付ける為だと言われている。
本には要約するとこのようなことが書かれていた。非常にざっくり。だって詳しくは分かっていないのだから。可能性を指し示す文章が多い分、事実とされている文章が少ない。
私は書斎の小部屋での話を思い出す。
◇◇◇◇
「精眼を説明する前に妖精の血が入った体について、説明をしておこう。」
お父様はそう言って昨日話した事の復習だよ、と笑う。
「一つ目。妖精の血を持つ者は、普通の人間より長命になる。エルフほどではないともされるし、エルフより長いとも言われる。また見掛けの年齢はなかなか増えない。年をとっても変化がない人もいる。」
お父様のご祖父様は見掛けは三十路を迎えた頃を保っていて、現在もご存命である。ちなみにお父様もお兄様とあまり変わらないように見える。そしてお兄様は十代の後半に見えるのだから、それぞれが何歳になるのか聞きたくもない。
「二つ目。妖精は魔力を感じることができる。魔力感知能力という風に呼称される。これに精眼も含まれているんだが、血をひく者は直感的に魔力の質、量を感じ取ることができる。温もりや圧を感じるといった感覚として現れる場合も多い。」
なるほど、魔力感知。この能力は多様性に富んでいる事だろう。私が今認識しているものが精眼のみだが、他にも自分ができることがあるかもしれない。
「三つ目だね。悪戯好きで陽気な性格をしていること。これは最早病気と呼んで差し支えないレベルだよ、ベルトリア。悪戯をしかけたくて毎日どこかしらで隙を探している。これは君も引き継いでいる性質だね」
大いに心当たりがございます。爽やかに軽やかに悪戯に嵌める事を、最上の喜びとしていた時期が私にもありました。
「ベルトリアの悪戯はまだ可愛いほうだ。だけどこの性質が強く出ていると善悪の境すら軽く飛び越えてしまう者もいる。誰かが死んでしまう程の悪戯を仕掛けても、その結果を見て成功した事だけを喜ぶんだ。だからこの性質を、上手にコントロールしなければならない。」
お父様の瞳は真剣そのものだ。善悪の境がない、まるで無邪気な子供のように成功か失敗かだけに興味を持つ。妖精ってただの歩くテロリストじゃないか。
私にもその危険な素質がある、という事なのだろ。
「大きく気を付けるのはこのくらいだよ、細かい性質はどの妖精の血を引いているかにもよる。サンティスはバンシーの血を引くため、未来視ができる。バンシーはあくまで予見ができるだけの妖精で、死や不幸を齎すものではないからね。」
お父様はそこまで言うとカップに口を付ける。ゆっくり味わうように紅茶を飲むと、小さく寂しそうに笑う。
「どの妖精の血を引くかで、苛烈さも変わってくる。バンシーは温厚で面倒見のいい、家に憑く妖精だ。その優しさ故に憑いた家の者が死ぬと、悲しみに叫び泣いてしまうんだ。その為死を呼ぶなんて、馬鹿にされてしまうこともあるが気にする事ではない。この血を誇りなさい」
きっとお父様に実体験なのかもしれない。お父様の暁色の瞳に影が差す。濃い紺色が緋色にグラデーションをしている瞳は、今は何を苦しんでいるのだろう。
「お父様、悲しいの?」
私は思わず声を掛ける。お父様は静かに首を横に振る。
「違うよ、あの叫び泣く声を思い出したんだ。とても恐ろしく、哀しい悲鳴だった。あの声を二度と聞きたくはない。近しい関係にあればあるほど、その叫びが強く聞こえてくる。」
お父様はきっと近しい人を亡くしたのだろう。
耳にこびり付いて剥がれない、悲壮な叫びを耳元で。
「私達はバンシーの血を引く。特に私は強く引く。きっとお前たちもいつか驚くだろうから先に言っておくが、身内が死ぬと私も叫び泣いてしまう瞬間がある。これは反射的のようで、予見があったりもする。だからその時はこの書斎に入ってきてはいけないよ。ここで私は過ごすからね」
お父様の言葉に私とお兄様は静かに頷く。
妖精の持つ性質。私達にはこのバンシーの優しさがどうか紡がれていることを願ってやまない。きっとお父様とお兄様の面倒見がいいのもこの性質なのだろう。
私はこの人たちを悲しませてはいけないわ。
やっぱり、悪役として処断される未来から離れようとしてよかった。ゲームの中で私はみみっちい嫌がらせの仕返しに大怪我をする描写もあった。そんな事して私が死んでしまったら、この人たちはどうなってしまうのだろうか。
そんな未来、絶対来させてはいけない。
私は手を握りしめる。先程は自分の未来のために、決意をしたが今度は家族の未来を守るために。
『ありがとう、リョウカ』
私の中でベルトリアの小さな呟きだけがやけに響いた。