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庭での出来事

少し遅くなりました…

申し訳ないです!


空が夕焼けにほんの少し染まり始めた頃、私は家の中庭に居た。柔らかな傾き始めた陽の光が、庭の花壇の花々を照らし出す。ここは月の光がよく当たるように設計されているため、夕日も非常によく当たる。勿論、朝日も眩しいくらいに庭に降り注ぐようになっている。


「相変わらず、この庭は綺麗ね」

『そうね、私達が始まった頃と何も変わらない』


私達は産まれた傍から互いを正確に認識していたわけではない。気付けばそこにあり、気付けば入れ替わり、お腹の中ではあった呼んだ呼ばれたの記憶は全く分からなくなっていた。互いの存在を正しく理解したのは一歳を迎えた頃だった。

庭で遊んでいる時にどちらかが、花に悪戯をしようとしてどちらかがそれを止めた。それが切っ掛けで自分の中で喧嘩を始めて、大泣きしたのだから大騒ぎだ。庭で花を弄っていた娘が突然大泣きし、両親は大慌てで医師を呼び虫刺されなどがないか探したものだった。

私達はその時互いの事をしっかりと思い出し、その後夜にベッドの中で二人で話し合い、自分たちの人生を変えようと動き始めた。花壇での喧嘩のお陰で、始めて互いを認識し、気づけば当たり前の存在になり、いつの間にか融合し始め、そして再び離れた。


「あの時ベルトリアが悪戯しようとしたのは、アネモネの花よね」

『言わないで、あの時は花を髪に飾りたかったの』

不貞腐れたような反応が体の内側から変えてくる。私は思わず笑う。

私達を主人格と副人格に分けるとするならば、主人格は私リョウカだ。副人格にベルトリアがなる。ベルトリアが表に出ていると、ゲームでの流れと同じようになってしまうのではないかと、二人で懸念した結果が今の私達の状態だ。

しょうもない小さな自尊心を守るために、みみっちい嫌がらせをしないためにも、イレギュラーな私が表になるべきと話し合ったのだ。でも今となってみれば、私達は混ざり合っていた頃の名残で表情が出にくい。基本の無表情の仮面を被ってしまうのだから笑えない。儚げ美人で周囲をいい様に振り回す令嬢にはなりたくないぞ!!


風が花びらをいくつか、舞い上げ散らしていく。

私達はそれを目線のみで追う。ベルトリアの視界を借りると、相も変わらず賑やかな色彩が主張をしている。

「やっぱり目がチカチカするね」

『どうにかならないかな』

私達は花が風に揺れるのを見ながら、ため息をつく。相変わらず視界には魔力の残滓がうようよと漂い、視界に薄く線を引いている。

『私の見えている物ってお父様たちも見えてるのかな』

ベルトリアが小さく零す。それは確かに疑問だ。妖精の血が見せているこの景色は、常にずっと見えていたら疲れてしまうものだろう。お父様やお兄様はどうやってこれを調整しているのか、もしくは慣れなのか。


「何か悩み事?ベルトリア」

背後から優しげな声がする。振り向くとそこにはお兄様が窓から顔を覗かせていた。

「お兄様、丁度よかった」

私はお兄様の元に駆け寄る。お兄様は少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑を向ける。

「どうしたんだい?」

窓枠の下に辿り着いた私の頭を愛おしげに撫でながら、お兄様は私に尋ねる。これはチャンスとばかりに私は勢いよく質問を始めた。

「お兄様、お兄様にはどんな景色が見えてるの?」

お兄様は目を大きく見開くと、とても怪しげにニヤリと笑った。





夕食の時間となった。庭で雑談していた私達兄妹をお兄様の侍従が呼びにきた。

「ルーファス様、ベルトリア様。ご夕食のようですよ」

お兄様の侍従のケイは灰色の髪にグリーンの瞳の青年だ。お兄様よりも年下に見えるけど、なんとお兄様より年上らしい。

この家に仕える者はメイドや料理人なら普通の人間でも構わないが、執事や侍従、専属侍女など長く仕えることが予想される役職にはエルフや妖精の血を引くものが選ばれる。この夫婦のように特別血が色濃いものは居ないが、屋敷の中にはそういった者達で溢れている。何故なら妖精の悪戯で結合してしまい突然に変異した者、先祖返りで特徴を強く引いた者をその血筋だからと、行儀見習いで預かることも多いからだ。預かった者の多くは、家族では扱いきれないと、そのまま託されてしまうのでこの家にそのまま仕えることになる。

お兄様の侍従のケイも、その一人でエルフの先祖返りらしい。


「すぐ行こう。」

お兄様はケイに返事をすると私の手を取って、食堂に向かってゆっくりと歩きだした。ケイはそれをにこやかに見つめると、小さく笑った。どうも私の手を引くお兄様の姿が、面白かったようだ。

「ルーファス様、陥落するのが早かったですね」

「うるさいよ、ケイ。この愛らしい姿を見ろ、まるで天使じゃないか」

さっそくシスコンを拗らせたような発言をかましつつ、お兄様はこぶしを握る。

「長年一人っ子だったルーファス様が、ついさっき知った存在の妹にここまでメロメロになるとは思わなかったもので…」

ケイはなんだか黒い笑みを浮かべながら、私とお兄様を交互に見つめる。

この人絶対腹黒いと思うの。弄られないように気を付けよう!!


「そういえば、挨拶をまだしていませんでした。」

私はふと気が付いてケイを見上げる。ケイの方も恭しく私の方にお辞儀をして、笑いかけてくる。子供扱いされているようだわ。よし、一泡吹かせてやる。


私はスカートの裾をキュッと持ち上げると、小さく膝を曲げて挨拶する。

「改めまして、ベルトリアと申します。お兄様をいつも支えていただき、ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いしますね」

私は最上の微笑を浮かべ、ケイの目を上目遣いに見上げて挨拶をした。伊達に儚げな顔をしている訳ではないのよ。ちゃんと武器として使わせていただきます!

ケイは小さく息を飲み、何かをぶつぶつ呟くと私に向き直り深々と頭を下げる。

「こちらこそ、改めましてお嬢様。ケイ・ロウと申します。気軽にケイとお呼びくださいませ。お二人に誠心誠意仕えさせていただく所存です」

私は小さく頷くと、ケイの手をそっと包み笑いかける。

「よろしくお願いしますね」

ケイは零れんばかりにグリーンの瞳を開き、嬉しそうに微笑んだ。視界の端でお兄様がやれやれと言わんばかりに、首を横に振っているの見えたが気にしない。この微笑みという技を使って、どれだけ使用人を誤魔化してきたと思っているのだ。

腹黒侍従も味方につけて、私が怒られてしまう危機を減らすのだ。幼い子供フィルターでこちらを見るなら、こちらはそれを最大限に利用して転がしてみせる!


ケイは少し頬を赤らめて、「反則だろ…」など呟いている。

よし、一人味方に付けた。





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― 新着の感想 ―
[一言]  裏切られた記憶と感情は、たぶん、死ぬまで消えない。  その一点でこの作品は過去を呼び戻してしまう。  それがなければ。。。
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