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私の話


恐怖のスーパー観察タイム、継続中です。

お兄様の目線が怖いです。ベルトリアに交代を願ったが却下され、矢面に立たされ続けてます。

美味しいはずのデザートが味のしないデザートへと変貌を遂げ、無心でそれを口に運ぶだけの機械にでもなった気分だった。お兄様は優雅に美しく、スプーンを口に運びながら視線はこちらを観察している。生きた心地がしません。


ようやく食事が終わり、息の詰まる地獄の時間が終了を告げた。今後の話をする為に談話室へ向かう廊下で、あまりの視線の怖さに私は着替えをすることを口実に一瞬離脱を図る。

だが階段に向かう途中でお兄様に軽々と抱え上げられ、失敗に終わったのですけどね。

お父様は私を一瞬哀れんだようで、目線で謝罪されました。許しません。今夜は口を利きません。

プイっと頬を膨らませて視線を逸らすと、視界の端でお父様が落ち込んでいるのが見える。自業自得だ、しばらく無視しよう。


談話室では両親と向かい合う形で座る。おかしいのは私がお兄様の膝の上だという事。

「お兄様、降ろしても私逃げないよ?」

「うん、僕が抱えていたいだけなんだ」

爽やかな笑顔で降ろす気がない宣言をいただき、小さくため息をつく。このままじゃ落ち着いて話せないし、何より怖い。私はお母様をじっと見つめて助けを求めることにした。お母様は私の視線を受け、一瞬キラリと目を光らせるとお兄様に声を掛ける。


「ルー、話が進まないからトリアちゃんを降ろしなさい」

お母様の柔らかな誰もが見惚れるような微笑みから、有無を言わせない冷えた声が響いてくる。お母様の無表情から微笑みに変わる瞬間は、魅惑的かつ恐ろしい。流石のお兄様も息を飲み、渋々私を隣に降ろす。

その隙に私はチャンスとばかりにお母様とお父様の間に逃げ込み、お兄様の向かい側で安心の空間を手に入れた。

「さて、本題を始めよう」

お父様が改まった様子で、私を一瞥し会話を始めた。どうやら私の事をお兄様にも話すようだ。それは別に構わない。両親だけ知っていて、お兄様が知らないのは魔法を教えてくれるにあたって不都合がありそうだ。

お母様が私の頭を軽く撫で、手を握ってくれた。


「ベルトリアのことだが、お前はこの子の魔力をどう感じた?」

お父様はお兄様に問いかける。

「簡潔に言うと、異質だね。この子はどうなっているの?」

お兄様は鋭い視線を私に向けつつ答える。お父様は何も答えず、お兄様が私を観察するに任せている。

「この子は魔力を二種類持っている、そう思ったけど…。これは違うね。魂が二つ、が正しいみたいだ」

お兄様、正解です。

お父様は昨日の夜私達が話した事を、お兄様にも要約しながら伝えていく。お兄様は真剣に聞いていたが、段々興味関心が勝ってきたのかキラキラした表情になっていく。

でもその話になったきっかけである、帰りの馬車での話を始めると、お兄様の表情が微笑みで固定されていった。どこかお母様を彷彿とさせる、冷たい微笑みに寒気がする。


「つまり、ベルトリアが産まれる前に古代魔法を行使。そしてリョウカという魂が混入、昨日父さま達が無遠慮に聞いちゃったから魂が離れて分離中。ってことでいいのかな」

お兄様の爽やかな笑顔が眩しいです。お父様が大きく頷くと、お兄様がにっこり笑う。


「あんたら、やっぱり馬鹿なの?」


お兄様がお父様に向かって非常に辛辣な言葉を発して、空気が凍る。痛い沈黙が空間を支配する。お父様は背筋を伸ばし、怒られている子供のような姿勢をとる。

え、お兄様?キャラが違いますが?

私は内心大慌てでお兄様へ視線を向けると、お兄様が痛ましいものを見るように私に視線を向ける。


「魂を扱う古代魔法が結構不安定で、危険な状態であることは知っているよね?」

お兄様の問いにお父様が小さく息を飲む。

「不安定な結合を何とかしようと頑張っている状態で、魂が二つあることを当人に通告するなんて…。自覚を与えて分離させるなんて、どれだけ危険な真似しているのさ。あんた副長官でしょ?妖精でしょ?分かっているはずなのに、何をしているの?」

お父様の顔がどんどん引き攣っていく。

「母さまも母さまだ。どうせ貴女の事だから、からかい半分で煽ったんでしょう?無表情を誤魔化す微笑みを浮かべて、煽ったんでしょう絶対」

お母様は扇で口元を隠す。あ、怒られるのを楽しんでる。少し口角上がってる。

「心配したり嫌われるのを不安になるのは分かりますが、大仰な演技でもしたんでしょう。それで嫌われたかもと不安になりつつも、愛情を演技で煽るのは貴女の悪い癖だ」


お兄様は大きくため息をつく。

「でもいづれは自覚が必要なことだったかもしれない。魂が混ざりかけていても魔力は混ざっていなかった。という事は結合が上手くいっていなかった。そのままでも魂が体を奪い合い、魔力が暴走していたはずだ」

お兄様は私を見つめ直す。

「ベルトリア、君は今どっち?」

「私は今リョウカ。普段は私が表に出るようにしているの。」

「じゃあ、ベルトリアと交代してもらってもいい?」

「うん」

私はベルトリアに交代を進言する。ベルトリアは嫌だと人見知りを発揮しているようで、無理矢理交代した。


「……。」ベルトリアはお兄様を無表情に睨みつけるような、怯えたようなそんな雰囲気で見つめる。

「ありゃ、警戒されてるね。ごめんね、怖がらせて。」

お兄様は身を乗り出してベルトリアの頭を撫でる。

「なるほど、これは別人だね。本当に嘘じゃなく、主に動く魂が入れ替わるんだね」

ベルトリアが驚いているのが伝わってくる。魔力が不安定な精神に引っ張られるように揺れ動くのが分かる。

「魔力も二人で動かしているのではなくて、個々の魔力を自分の分だけ操作しているようだね」

お兄様は少し真剣な顔をして悩んでいる。

「…何でしょう」

ベルトリアが勇気を出してお兄様に声を掛ける。

「君達は本当はそれぞれの魔力を一つにして、お互いがお互いの魔力を扱えるようにならなくちゃいけない。自分の魔力だけじゃダメなんだ。リョウカの魔力をベルトリアが操れなくちゃいけない、その逆も然りさ。実際にそれが互いを別々の個として見つめるのではなく、一つになる為の切っ掛けになるかもしれない。」

お兄様は優しい顔をして、私達を見つめる。

「…私、またリョウカと一つになりたいの。二人で一人なの。悲しい未来にならないために、二人で一人になって生きていくの」

意を決したようにベルトリアがお兄様を見つめて、そう語った。その言葉が内側にいる私にも真摯に伝わってくる。


一つになることは個を滅する事ではないと思う。

これは私達が散々語り合ったことでもあった。一つになった時どちらかが消えるのではない。二人が混ざり合い、新しい個人になる。そう結論付けて一緒に生きてきた。

でも私達は一つになることに失敗した。それの原因はきっと、個人を失うことに対しての未練なのだろう。

でもきっとベルトリアにはその未練というものは、殆ど無いだろう。だって一人で居たことの方が少ないのだから。

「リョウカ、私は何も心配してないよ。あとは、貴女だけ。」

ベルトリアの私を見透かした呟きがやけに心に刺さる。


『…わかってるわ』


私はそう返事をすると、今まで心の中に仕舞い込んでいた前世の記憶に思いを馳せた。




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