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家族団欒


「いやあ、君たちにはお互いの存在を話すことを忘れていたよ」

平然と言い張った両親は昼食の席にいち早くつくと、私達にも座るように促す。

ルーファス――いや、お兄様と呼ばせてもらおう。

お兄様も非常に残念なものを見るような顔で両親を見つめている。

きっと両親は昔からマイペースなのだろう。


「料理が冷めてしまうよ」

お父様に急かされ、私もいつもの自分の席へ向かう。私のイスは座面にクッションが一つ敷いてあり、背の高いテーブルでも食事がとりやすいようになっている。まあそれがあるから座りにくいのだけども。

えっちらおっちらイスによじ登っていると私の脇の下から優しく抱え上げられ、そっとイスに座らされた。後ろを振り返るとお兄様が私を抱えてくださったようだ。

「ありがとうございます、お兄様!」

「どういたしまして」


あっと言う間に打ち解けた私達を、両親は嬉しそうに見つめる。お兄様は私の隣に腰かけると、さっとテーブルナプキンを膝に広げる。その仕草一つ一つが洗練されたもので、美しいとすら感じる。

私もお兄様の真似をするようにテーブルナプキンを広げたけど、非常に残念な雑な感じにしかならない。美しい所作ってどうやって身に着けるのだろう。

自分の所作を思い返し、テーブルマナーをもっと確実な美しいものにしなければならないと確信する。

思考を彼方に飛ばしている間に、食事の配膳が終わったようだ。お父様の一声で食事が始まった。


食事はにこやかに始まった。

まだ対面して数分の私達兄妹に思いやってか、主に会話の中心は私たちの事だった。

小さい頃のエピソードから始まり、今どこで何をしているのか。いつもより一人増えただけの食卓が、別の風景のようでなんだかとても楽しい。

「トリアが学校に通う年になっただろう?前回というかルーファスの時は私達両親から、それぞれの家系魔法を教わったと思う」

お父様がそう話し始めると、私の方をちらりと見る。

「だがあれは大変だった。妖精もエルフも入り混じったような魔法ばかりで、それぞれが教えるのに限界を感じたくらいだ。」

「ああ、確かに教わるのも大変だった」

お兄様とお父様が遠い目をする。

「私は楽しかったけど、魔力の体内での感覚がこうも違うのかと思ったわ」

お母様も少し顔をしかめる。

「ということで、だ。妖精とエルフが混ざったルーファスだからこそベルトリアに魔法を教えることができると踏んだんだが、どうだろう」

「そういうことなら、喜んで受けるよ」


話が見えないが、どうやらお兄様が私に魔法を教えてくれるらしい。

「トリア、魔法の家庭教師を兄のルーファスに頼むことにしたから頑張るんだぞ」

お父様が私にウインクして笑いかける。そうか、午後の習い事の時間の事か。

「よろしくお願いします、お兄様」

「こちらこそよろしくね」

お兄様と私も笑顔を交わしあう。

「他のレッスンはそれぞれでもう先生を頼んであるから、予定はまた今度教えるわね」

お母様は私達を見守りながら、嬉しそうに現実を突き付けてくる。

「うっ、他のレッスン…。」

「そうよ、マナー然り勉強然り。」

「うううぅぅ…。お母様ぁ、たまに遊ぶ時間もくれる?」

「仕方ないわねぇ。可愛いトリアちゃんが頑張ったら、お兄様がきっとたくさん遊んでくれるわ」

お母様、笑顔が黒いですわ。

でもせっかく魔法が使える世界。この世界での知識学ばなくて何とする!

前世での勉強嫌いが顔を出したけど、楽しいことに違いないと気を取り直して目の前の食事にフォークを向けた。


「ルーファス、研究は順調かい?」

お父様がお兄様に尋ねる。お兄様は今魔法省で何かを研究しているようだ。

「ううん、少し行き詰っているんだ。どうも実例が少ないからね」

お兄様は少し困った顔で返答する。どうやら研究は上手くいっていないらしい。

「それはそうだ。だからこのテーマは難しい。研究を深めすぎるのも禁忌とされているくらいだ」

「でも、必要な研究ではある。そうだろ、父さま」

「うむ、それが厄介なところなんだよ」

どうやら少し難しい話になってしまいそうだ。

だがここは、子供らしく空気は読まない。


「お兄様は何を研究しているの?」

私は上目遣いを意識して、お兄様を見上げる。お兄様は一瞬目を見開いて、柔らかく微笑む。

「僕は古い魔法について研究しているんだ」

「それって古代魔法の事!?」

「おおっと、よく知っているね」

私は驚きのあまり大きな声で反応してしまった。そのままの勢いで両親の方に視線を向けると、にやりと意味深に笑っていらっしゃるのが分かった。


ほおん、なるほど?

私には「魔法を教える」という口実、お兄様には「古代魔法使っちゃってる妹」という餌で互いに利のあるお付き合いを狙ったわけですね。


「ルーファス、ベルトリアの魔力に目を凝らしてごらん」

お父様がイタズラを始めた子供のような顔で、お兄様を見つめる。お兄様は訝しげな顔で私を見つめ、ハッと何かに気付き獲物を見つめる表情に変わる。

「父さま、これはどういうこと?」

お兄様、何だか怖いです。

「それはまた食事の後にでも話そう。そろそろデザートだ」



お父様による餌付けとお預けを食らったお兄様は、興味が隠せないといった表情で私を見つめている。肉食獣のいる檻に入れられた小動物の気分よ。

楽しかった食事が一瞬にして、緊張感あふれる(私にだけ)ものに変わってしまった。






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