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始めまして

途中でルーファス視点になります。


「魔法省の職員が魔法基礎理論の授業を担当する」というのは今日の午前中に、担任から受けたオリエンテーションで説明された。誰が来るのかは説明されていなかったけど、そこはちゃんと分かるよ!

だって、攻略対象だからね!


臨時職員として学校で教鞭をとることになるのは、今現在進行形で私の目の前で大層驚いたお顔をしていらっしゃるルーファス。

うん、すんごいイケメンだね。現実逃避がしたくなってきたよ。お父様と並んでも遜色ない美丈夫だし、目元の柔らかな艶やかさはお母様そっくり。でも一番恐ろしいのは両親だ。

なんていったって、両親とルーファスの年齢に差があるように見えないのだ。私の中でベルトリアもひどく驚いているのが分かる。


「いやあ、君たちにはお互いの存在を話すことを忘れていたよ」

お父様とお母様は清々しい程の満面の笑みで私達に語り掛ける。

「本当、忘れていたわ。長く生きるものじゃないわね、貴方」

「そうだね、忘れっぽくてかなわないよ」


両親の白々しい演技はもう、放っておこう。多分本当に忘れていたのだろう。

それよりも気になるのは、この兄と言われたルーファス。成人しているのである。

「お父様、お母様。本当にこちら私のお兄様…?」

思わず口から不安げな声が出る。

「ええ、そうよ。トリアちゃん」

「…凄く年上?」

「そうだね、ざっと二十五歳上のお兄様になるよ」

「お父様とお母様の年齢を聞くのが怖い」


両親は含み笑いをしながら私を見つめる。もう諦めよう。この妖精とエルフの夫婦は年齢を超越してしまうのだ。

改めて目の前の“兄”を見上げる。今の私達の会話のうちに冷静になったのか、驚きの表情は鳴りを潜めている。

「初めまして、お兄様…?ベルトリアといいます」

私は小さく制服のスカートの裾を持ち、挨拶をする。


「…可愛い」

目の前のルーファスが何かを呟く。

「え?」うまく聞こえなくて聞き返すと、ルーファスは何でもないよと首を横に振る。

「初めまして、可愛い妹ちゃん。ルーファスです」

ルーファスは私に目線を合わせるようにしゃがむと、大きな手を私に差し出して握手を求めてきた。

「よろしくね?」

菫色の優しい瞳がふわりと緩む。周りにキラキラした何かが見えてきた気がする。ああ、イケメンの破壊力恐るべし。

「よろしくお願いします、お兄様!」

私はそんな兄に負けじと、精一杯にっこりと微笑むのだった。








◇◇◇◇◇◇







目の前に天使が現れた。

そう思ったのは間違いじゃないと思う。


僕は今日実に十年ぶりに実家の敷地に戻ってきた。今は王城の魔法省で副長官の父の元、日夜研究に明け暮れながら働いている。家という家には住んでなくて、魔法省にある寮や、仮眠室を根城に興味の赴くまま研究している。そんなもんだから同僚や上司には呆れられている。

たまに両親に王城で話すことぐらいしか、家族との関わりはない。


そんな僕に唐突に『実家に帰らなくてはいけない』という、謎の衝動が降って湧いてきた。この感覚はそうだな、どうせ父さまの妖精の血で何か願ったのだろう。これに乗るのも癪だが、これ実行しないと後で文句言われるもんな。

「仕方ない、帰るか」僕自身も妖精の血は引いているから、抗えなくもない。でもこればかりは父さまの力の方が強い。

今は夜更けだ。明日仕事終わりに帰るか?いや、明日は非番だ。どうせ父さまはうろうろしてすぐに領地経営のほうをしに、帰宅するだろうからついて行ってしまうか。

明日の計画を練って、頭の中で確定の未来として思い描く。父さまの馬車に乗せていってもらうことを強く意識して。

これで父さまにも僕が帰る気なのが伝わるだろう。



次の日出勤してきた父さまを副長官の執務室でとっ捕まえて、事情を聞こうとしたけど逆に捕まってしまった。

「非番なら、俺の仕事手伝えよ。昼食に間に合うように帰るぞ」

そんな悪魔の声に逆らえる事無く、大人しく言うことを聞いておいた。


実家に帰りつくと母さまが嬉しそうに出迎えてくれた。

「久しぶりね、ルー。会いたかったわ」

「久しぶり母さま、二年ぶりくらいかな」

家令のおじいさんも嬉しそうにこちらを見つめている。ああ、彼はとても年を取ってしまったように見える。

うちの一族は恐ろしく長寿だ。しかも僕は長寿の一族と長寿の一族の掛け合わせだから、どうなるか分からないときた。少なくともこの十年、僕の見掛けは変わっていない。だが彼の顔の皴は、確実に十年の時を刻んでいた。


――もう少し、実家に帰るようにしよう。


そんなことを考えながら、家族の談話室に案内される。メイドが温かいお茶とお菓子を用意しているようだ。

「あれ、昼食を一緒に――じゃなかったの?」

母さまに聞くと、イタズラな笑顔を向けられた。

「もう少し待ってね」

嫌な予感がするなあ。これは何か企んでいるときの顔だ。

「そう急くな。まずは頼みがあって呼んだんだ」

父さまが苦笑いをしながら説明をしてくれた。


簡単に言えば家庭教師を受け持ってほしい、ということだ。僕が知らない間に近しい親戚に子供が生まれていたのかもしれない。

「家庭教師って、家系魔法のでいいの?」

「そうだ、私達じゃ伝えきれない部分が多いからな」

父さまは肩をすくめてこちらを見る。

おかしい。少なくとも父さまは魔法省副長官になれるくらいには、実力も魔力も頭もいい人物のはずだ。そして母さまも非常に魔法に長けている。

「二人にはかなわないと思うけど…」

訝しげに僕が答えると、両親は揃ってクスクスと笑うのみだった。


「そろそろね」

母さまが立ち上がると、丁度侍女が声を掛けに来た。

「貴方達はゆっくりいらして」

そう言って軽やかに足を踏み出す母さま。


僕と父さまは残った紅茶をゆっくり飲み干すと、食堂に向かって歩き出す。

「今からその家庭教師を頼みたい子に会わせようと思うんだ」

「母さまはその子を迎えに行ったんだね」

「そんなもんだ」

父さまは意味深に話をされるから、掴み所がなくてたまに嫌になる。

「秘密ばっかりだ」

「その秘密も、今から秘密じゃなくなるのさ」

顔を上げた僕を、にやりと嫌らしく見つめるクソ親父め。美形が台無しだぞ。


父さまは遠慮なく食堂の戸を開く。

「やあお帰り、ベルトリア」

父さまが誰かに声を掛けている。

「ただいま、お父様」

可愛らしい鈴のような声で返事が返ってきた。

ん?オトウサマ?


「―え?」

思わず困惑した声が出てしまった。お父様って呼んだぞ今の声。父さまは僕の腕をひょいと引くと、部屋の中に引き込む。あまりの勢いにふらつきながらの入室となる。

赤みが掛かった白銀色で、父さまそっくりの暁色の瞳が大きく見開かれるのが見えた。


「紹介するわ、二人ともに。」母さまの笑いがこらえきれないと言わんばかりの声。

「ベルトリア、君の兄だよ。ルーファス、君の妹だよ」

父さまの雑な説明で目の前の可憐な女の子と僕は目を合わせる。


「「えええっ!?」」

僕達は二人揃って驚きの声を上げる。

いつの間に妹なんてこさえたのさ。いやそれよりもこの子家庭教師をって事は五歳でしょ?五年も秘密にされてたの?

いや、この両親の事だ。忘れていたに違いない。


それよりも目の前の女の子に注目する。

母さま譲りであろう綺麗な白銀の髪と暁色の零れそうなほど大きな瞳。何処か儚げで今にも手折れそうな印象を受ける。両親の良い所取りの顔立ちのこの子は既に美少女として完成している。こんなのが妹なんて、末恐ろしい。大人になったら化けるぞ。

そんな子が僕に向かって微笑んでいる。


天使がいる。

僕は知らない間に、天使の妹ができていたらしい。






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