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両親のイタズラ


馬車の窓からタウンハウスが見えてくる。目印になっている屋敷と同じくらいの背丈の大木が、ゆらゆらと風に葉を揺らす。

サンティス侯爵家のタウンハウスは、家の敷地の中にかなりの立派な大木という目印がある。小さい頃はその木に登ろうとして、かなり怒られたもの。その木は≪精霊の樹≫と呼ばれる木で、エルフの住む森や精霊、妖精の好む土地にあるものだ。

私達の血筋的にも切っても切り離せない大切な存在だ。妖精やエルフにとっては信仰のようなものの対象でもあったりする。

なんとこの木は魔力を糧に大きくなり、新しい精霊や妖精の為のヤドリギにもなりうる。所謂お母さんのようなもので、周囲の精霊や妖精達の魔力を安定させる役目を持っている。我が家に何でこの木があるのかと言いうと、お父様の家系が妖精の血を引く為、この木がないと体調が悪くなってしまうのだとか。


ガタゴトと車輪の回る音がゆっくりになっていく。馬車が屋敷の前についたようで、御者のおじさまが扉をノックする。私は一声かけおじさまのエスコートで馬車を降ろしてもらう。

家の前には我が家の馬車がもう一台止まっている。城へ向かう時、帰る時に使う一番格式高い立派な馬車だ。


「あら?」

今この時間は、お父様は王城へ仕事に言っているはずだから馬車は城にあるはずで、家にいるのはお母様だ。

だからこの状態はおかしい。お母様はこの馬車は使わないはず。お母様が普段使われるのはもっとすっきりした、シンプルで洗練されたデザインの馬車だ。だからこの馬車は違うのだ。

勿論私が乗っている馬車は一番格式張っていない、格の低い物になる。一番家族の中での身分が低いし子供だからね。

はい、というわけでこの馬車は何なんだ。お父様が訳あって早く帰ってこなくてはいけない事でも起きたのだろうか。まさか領地で何か事件でもあったのかな。


「どうしましたか、お嬢様」

御者のおじ様に声を掛けられる。

「いえ、あの馬車が気になって」

「ああ、お気になさらずとも大丈夫ですよ。さあ、中に入りましょう」

おじ様に背を軽く押され、なんとなく誤魔化されたなと感じない事もないけど家に向かう。玄関先では馬車の音を聞いてかアニーが私を待っていてくれた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま、アニー」

アニーが扉を開けて、私は中に入る。

家の中はいつも通りなのんびりとした空気が流れている。安心して一つ息を吐き、お母様を探してみる。

「お母様はどこに?」

アニーは談話室の方をちらりと見て、にっこり笑う。

「お呼びしてまいりますので、どうぞ先に食堂の方へ行きましょう」


ここでも何か誤魔化された気がする。

私何かやらかしましたかね。

『みんなどうしたんだろう』

「わかんない、何だか秘密にされているなと思うけど」

『まだ私達イタズラしてないよね』

「まだしてないわ」


私の中でベルトリアも不安になっているようだ。

そんな気持ちも関係なく、私のお腹が小さな悲鳴を上げる。

「でも、お腹がすいたのは事実よ」

私の中でベルトリアが笑っているのを感じる。失礼な。私が空腹ってことは貴女も空腹なのよ。文字通り一心同体なのだから。


食堂の扉がノックされ、屋敷のメイドが食事の配膳に入ってきた。いよいよ食事だと少しワクワクする。

この世界の食事は洋食とほとんど変わらないが、味付けは非常に繊細で優しい味付けが多い。勿論スパイスの効いた食事もあるが、それは割と庶民的な物として扱われている。質の悪さを香辛料で誤魔化しているようだ。我が家の料理は基本貴族の料理だけど、たまに庶民的なスパイシーな料理が振舞われることもある。私はそれがとても気に入っていて、楽しみにしている。

今日の食事はバターの香りが少ししてくるから、優し目の味付けの何かなのだろう。


そんなこんな、考え込んでいる間に再び部屋がノックされお母様が顔を出す。

「おかえりなさい、トリアちゃん」

「ただいま、お母様!」

お母様は優しく微笑み、私に声を掛ける。

メイドがお辞儀をして部屋から出ていく。配膳の用意が四人分されてた。

ん?四人?お母様と私の二人ではなく、お父様もいるの?あと一人分は?

疑問が次から次に頭に浮かぶ。やっぱり今日秘密にされていることに関係がありそうだ。

「今日は貴女に会わせたい人がいるのよ。」

お母様の笑顔が意地悪に変わる。この顔知ってるよ、イタズラする時の私の顔にそっくり。

「会わせたい人?」

私は少し顔が引きつる。何だか怖いぞ。

「そうよ、とても素敵な人よ」

お母様の微笑みが、さらにイタズラめいたものに変わる。

その時廊下の方からお父様と別の男性の話声がする。なんだかとても親しげで、私が感じている不安は杞憂なんじゃないかと思える。

「あら、いらしたようね」

お母様の声とほぼ同じタイミングで扉が開いて、お父様が顔をのぞかせる。

「やあお帰り、ベルトリア」

「ただいま、お父様」

お父様がとても優しく私を見つめる。うん、この笑顔すんごく胡散臭いわ。


「―え?」

お父様の後ろで困惑した声が聞こえてくる。どうやら若い男性のようだ。お父様は彼の腕をひょいと引くと、部屋の中に引き込む。

薄金色の髪がまず初めに見え、スラリとした長身のイケメンがバランスを崩しながら入ってきた。

「紹介するわ、二人ともに。」お母様の笑いがこらえきれないと言わんばかりの声。

「ベルトリア、君の兄だよ。ルーファス、君の妹だよ」

お父様の雑な説明で目の前の若い男性と私は目を合わせる。


「「えええっ!?」」

私達は二人揃って驚きの声を上げる。

きっと彼は妹の存在に驚いて。でも私はそうじゃない。

いや、確かに兄がいるのには驚いたよ?だってゲームでは伏せられていたのだから。でもそれ以上に驚きなのは。


この見目麗しい薄金髪の菫色をした瞳の彼は、私の記憶が正しければこのゲームの攻略対象――

魔法基礎理論の講師であるルーファス先生だったからだ。




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