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少し気まずい朝


私は暖かい布団の温もりに包まれながら自室のベッドの上で目が覚めた。ふかふかのマットレスにお気に入りのクッションに囲まれ、私は再び眠りに誘われる。

―――待てよ。いつの間にか部屋に戻っている。

戻った記憶がない…。私は勢いよく飛び起きると周囲を見渡す。窓からは爽やかな朝の光が差し込み、小鳥の囀りが響き渡る。間違いなく朝ですね。


「どうやって部屋に戻ったの?」

『わからないわ』

「貴女も寝てたのね」

『あなたと一緒にあのソファで』


ベルトリアは頭の中で返事を返してきた。相変わらず柔らかでふかふかなクッションが私を包んでくれている。この際何も気にせず行こうか。

そんなことを考えているとすぐにアニーが私を起こしに部屋に来る。

「お嬢様、お早いですね。朝食の準備が整っていますよ、向かいましょう」

私はアニーに手伝ってもらいながら、真新しい制服に袖を通す。制服の白いシャツは赤のラインが入った襟元の可愛いもの。グレーの胸元の広いジャンバースカートは膝下丈で魔法の練習や、動くことに邪魔にならない丈になっている。腰のあたりにベルトがついていて、バックル部分は錆色に着色してある金属が使われている。そしてリボンネクタイはやはり赤色。サラマンダーの色味を意識した物になっているのがよく分かる。


「お嬢様、凄くお似合いです!!」

アニーの感激した声が部屋に響く。

「旦那様方にもお見せしなくてはいけませんね。さあ、食堂に参りましょう」

アニーに背中を軽く押されゆっくりと歩きだしてはみたが、両親に会うのは少し気まずく思う。


あの後だ。対応がどう変わっていようが、気にしない方向で行こう。

幸せになる為に今は耐えよう。そのうち分かってくれると嬉しいな。なんてことを考えながら階段を下りる。食堂にたどり着くとアニーが戸を開いて誘導してくれる。


中をのぞくと両親は既に待っているようだ。二人とも落ち着かない様子でこちらを窺ているようだ。私は思い切って声を掛ける。

「おはようございます」

「おはよう、トリア…」

「トリアちゃん、おはよ……まああああああ!!!」

両親は気まずげに顔を上げ私を見つめ挨拶をしようとして、お母様が大きく美しい目を開く。そしてそのままお母様の黄色い悲鳴に変わる。

「なんて可愛いの!!もう天使よ!貴方、ここに天使がいるわ!!」

お母様はものすごい勢いで私に駆け寄り、思いっきり抱きしめてきた。

「お母様苦しい!!」驚きと衝撃で、悲鳴を上げる暇もなかったが、背骨がミシミシと嫌な音を立てそうなくらい締めあげられている。

「ごめんなさい、あまりの可愛さに…」

お母様が私から離れると、乱れた制服をアニーが素早く整える。お父様は目をキラキラさせて椅子から立ち上がり、両手を広げて私が飛び込むのを待っている様子だ。


え、飛び込むの?

昨日あんな感じで終わったのに?


私は戸惑いながらもとりあえず抱き着きに行く。

すっかり両親に嫌われてしまったと思い込んでいたが、杞憂だったみたいだ。私の両親はやっぱり私の両親だ。抱きしめられる腕の温もりに触れながら、ベルトリアのくすぐったいような喜んでいるような、そんな感情が私にも流れてくる。嫌われていなくて本当に安心した。

お父様は私を抱きしめ、ゆっくり離れながら私の頭を撫でる。


「昨日はあんな言い方してごめんね。」

お父様が私に囁く。私は驚いてその顔を見上げる。

「君を追い詰めるつもりはなかったんだよ。ただ、君が今後魔法を使っていくために必要な確認だったんだ。でも方法が悪かった。」

お父様は落ち込んだ様子で私を見つめる。私は思わずお父様の頭に手を乗せて、仕返しとばかりにゆっくり撫でる。

「大丈夫ですよ、嫌われたかと思ったけど。嫌われていなくて安心しました。誰よりも、ベルトリアが喜んでいます」

「君は喜んでくれないのかい?」

「もちろん私も嬉しいですよ。」

お父様はほっとした表情で笑う。後ろからお母様の優しい手が私の肩を掴む。

「でも昨日は廊下のあんな所で寝ているから、私達も焦ったのよ。あそこは庭が綺麗だけど、とてもよく冷えるから」

お母様が心配そうに声を掛けてくれる。どうやら二人が私を運んでくれたようだ。

「ありがとうございます、お母様。おかげで冷えずにぐっすり眠れました!」

その時朝食が運ばれてきて、私達は食事を始めた。


家を出る刻限が近づき、アニーが私に鞄とローブを手渡す。外では馬車が既に待っている。少なくとも遅刻はしないか程度で、大変慌ただしく家を追い立てられる。

「いってきます!」私は玄関先で大きく手を振ると馬車へと駆け寄る。御者のダンディなおじさまが私を抱えて馬車に乗せられる。


「いってらっしゃい!今日は早めに帰ってくるんだよ」

「楽しんでくるのよ」

お父様のにこやかな笑顔と、お母様に見送られ私は初めての学校に胸を躍らせ馬車の行く先を見つめた。


学校につくと急いで私は降ろされる。

校門のところではたくさんの生徒が馬車から降りてくるところだ。混雑しているし歩きにくい。そんな中ロイスとアリアが私を待ってくれていた。

「「おはようトリア」」

「おはよう二人とも」

私達は三人並んで教室へ向かって、歩き出した。







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