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監視者として 2



部屋に入る直前、お父様が私の手を少し触る。

「ところでトリア、本当に殿下の婚約者になる気はないかい?」

「全くないわ、お父様。その立場になる事だけは絶対に嫌だわ」

私達にしか聞こえない程度の声量で呟くお父様に、同じようにそう答える。お父様はくすくすと満足げに笑うと、部屋の中に一歩を踏み出した。



扉の中に待っていたのは、国王陛下とハリス殿下だった。私達はお父様の後ろに並び、この国の主を眺める。陛下はハリス殿下を大人にして冷徹な仮面を被らせたらこうなるっていうくらいに似ている。その横で殿下は私達親子の登場に驚きが隠せないようだ。


「サンティス侯爵…、いや、監視者よ。私の代になって初めてであるな」

陛下はお父様に向かって尊大な態度でそう言うと、私達兄妹にも視線をやる。まるで試すような、見定めるようなそのような視線だ。正直言って不快な視線だった。

「貴殿の子息らか」

「いかにも」

お父様は陛下の不躾な視線に不快感を隠すことなく、真っ向から見つめ返す。

「これから語るはこの国の侯爵としてでなく、監視者として。貴殿が愚かでない事を祈ろう」

お父様は陛下に続けてそう言うと、静かに睨みつけた。陛下は面白いものを見るような目でお父様を見た。そして楽しそうにクツクツと笑うと右手を左胸に当て軽く礼をとる。殿下もそれに倣って同じ姿勢をとる。



お父様は彼らを一瞥すると、ふわりと優雅に手を振る。その手から魔法陣が流れ出るように浮かび上がり、陛下と殿下へと飛んで行った。

「面を上げ、目を瞑られよ」

お父様の言葉に従い、陛下と殿下が頭を上げる。するとそれを待っていたかのように魔法陣が二人の額にぶつかる。二人はその瞬間に目を見開いてこちらを凝視する。

「…魔が、動いておるのは気付いておったが、まさか…」

陛下は小さくそう呟いて私を凝視する。私はその視線に負けないよう、無表情の仮面を顔に貼り付ける。決してその視線は逸らさない。

「ああ、我が娘が白の乙女だ。こちらはこちらで既に動いている。貴殿の子息の婚約者選びなどの戯言に動く時間が惜しい。この国はこの国の人間の手で守るのが良かろう。私達が下手に手を出すと、この国が目を付けられる危険が増す。すでにその片鱗はあるだろう?」

お父様がそう言うと、陛下は小さく頷いた。

「このような貴重な情報の共有、感謝する。我が息子の婚約者を選ぶなど、この有事にして些末な戯言であるのは理解した。しかし我らの知識では魔と相対することは不可能だ…」

陛下の横で殿下は目を瞬かせながら、理解が追い付いていない様子で父親の応酬を見ている。その瞳と顔が疑問を隠せていないが、口を挟むのを堪えている。

「その点だが、現在魔法学校がサンティス家に魔道具の開発を押し付けてきたのは知っておろう」

お父様が悪戯を思い付いたような気持のいい笑顔を浮かべる。その後ろでお兄様も似たような顔になる。



「ああ、知っている。魔道具や研究にかけては妖精や精霊が一番だと、我が一任した面もある」

陛下は少し気まずげにそう言うと、お父様はさらに笑みを深める。

「既に私達が関わる範囲を大きく超え、国が巻き込まれる範囲にきたと判断し魔法省に事案は預けている。しかし、私の子供達は非常に優秀でな。この研究に有用な魔術式を見付けることが出来た」

「ほう、それは誠か!」

「ああ、真実だとも。私達はその魔術式をこの国を担う次代の若者に託すことにした」

お父様はそう言い切ると、横に混乱した面持ちで立っている殿下に視線を向けた。殿下はビクッと一瞬震えたがすぐに切り替え、真っすぐにお父様を見つめた。

「国の未来は己の手で守れ。エルフや妖精、精霊はあくまで第三者だという事を、今一度思い出せ。この国の王たる責を、理解してくれると期待しているよ」

お父様は最後に侯爵らしい人好きのする良い笑顔を向けた。そして私の方をちらりと見ると、そっと手を差し出してくる。私はお父様に用意しておいた魔術式を記した紙を渡す。お父様はそれを受け取ると、魔法でそれを浮かび上がらせ宙に並べる。

そこに記されたのは、何の説明もない魔術式だけ。うん、意地悪だな。

これじゃあ、何の魔法かもわからない。



お父様とお兄様を見ると、非常ににこやかな笑顔を向けていらっしゃる。

陛下と殿下を見ると、引き攣った笑顔を浮かべていらっしゃる。



「さあ、魔術式を提供をしたよ。これが何を示す魔法なのか調べ、活用するがいいさ。まあ、古代魔法だけどね」

お兄様は楽しさを隠そうともしないで、ニヤニヤと彼らを見つめる。

「…これを、研究せよと?」

殿下が掠れた声でそう呟くと、お兄様が嬉しそうに笑う。

「知識欲がそそられるだろう?ああ、学校で僕に答えを求める質問をしに来てもいけないよ。それじゃあ、意味がない」

殿下は溜息を吐いた。冷静王子の仮面などすっかりどこかに落としてしまったようだ。

「己の手で成さねばならん、という事か。しかしいつまでも研究するわけにもいかないだろう?」

陛下はお父様に向けてではなく、私達全員に向けて問いかけた。お父様はそれには答えず私に促す。

「魔が正面から来ると予想されるのは、遅くても私達が高等部に上がる頃。早まる可能性も、勿論あるわ」

私は抑揚なくそれだけ答えると、殿下に視線を向ける。

「その頃まで私達が王都にいる可能性は低い。だから、頑張ってね」

小さく私は微笑むと、お父様に目を向ける。お父様はすぐさま右手を上げ、役目を果たしたと魔法を展開しようと陣を描く。するとその陣を遮るように緑の妖精王が現れ、王達を一瞥した後私達を魔法で包み込む。

お父様は驚いた顔を見せたが、クスクスと笑ってその魔法を受け入れる。


「この国の王よ、光の精霊王に愛されたのは初代のみという事を忘れるな」


妖精王はその言葉を残し、私達と共に転移魔法で姿を消した。




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