ぶん投げましょう
お約束展開過ぎて笑いが禁じ得ない。
転生して他にも転生者がいる、そして私と同じ立場で過去に転生していたとなればお約束展開だ。ネット小説で見た事ある。
それでも、彼女が情報を残してくれていたのはありがたい。そして過去ではエルフと私達妖精や精霊との仲は良いものではなかったみたいだ。今はそれが多少改善されているのだから状況が違う。前は中の悪さから手を取り合うことが遅れた。その為犠牲者が増えたのは否めないだろう。でも今回は私達サンティス家とファウスト家がいがみ合うことなく手を取っている。
そして私が古代魔法を使えるという点で、有用とされているのもエルフからしてみたら表立って対立するのがまずい点なのだ。それに私は見掛けがエルフの特徴を多く引いているから、彼らからの嫌悪も少ない。
「すっかり黙り込んだね、可愛い天使」
お兄様が私を抱き上げて頬にキスをする。最後のページを読み上げた後に睨みつけたまま動かない私を心配した様子で窺っている。
「ごめんなさい。このノートを書いた人は私と同じ世界の同じ国の出身の人で、私の事を知っている人だったのにびっくりして…」
私はそう言うとノートを閉じた。彼女はどんな生き様だったのだろうか、精霊とエルフの子供ならだれかが知っているだろう。それこそ王達だ。
水の郷での一幕を思い出す。
―――――
「以前白の乙女が現れたのは、二百年前だ」
二百年前ならば曾お爺様も覚えているかもしれない。彼女は苦しい立場だったのだろうしあの戦いの苦しい記憶を思い起こさせるのは忍びない。
「その時は精霊とエルフの間に産まれた子供が選ばれた。彼女は水の精霊の子だったから、自分を水に包み魔から身を守っていた」
水の精霊の子供。彼女の両親は生きているのだろうか。
「前回はたしか、引き分けのような形になったわ。魔と私達の消耗戦になったのよ。多くの命が失われて、サンティスとファウストの里から人がかなり減ってしまったのを覚えてる」
このノートの中で彼女は何とか勝利したと挙げているけど、実際は引き分けのような幕引き。でも勝利以外で魔が手を引くわけではないから、実質勝利なのだろう。
―――――
あの頃と今、何が違う?魔との本格的な戦いに入る前にこんなに沢山のヒントが降ってきている。これは勝機になる。でも足元を掬われる原因にもなる。
「お父様、これをこの国の言葉に直したと思ったけどやめておきます」
「それはどうしてだい?」
「これは勝機になる。同時に私達の隠し通すべきものにもなる。分かり易くしておくのは危ないわ」
私はそう言うとノートをぎゅっと抱きしめた。そんな私を二人は優しく見つめ笑う。
「でもこの魔法の使い道はこの国には必須だ。どうするつもりだい?」
お父様は意地悪な笑顔をこちらに向けながら、私を試すように手を差し出す。私はその手を取りながら溜息を吐いた。
「安全なのはサンティスとファウストが手を出す事だと思う。でもそれじゃ魔に探ってくださいって言わんばかりよ」
私がそう言うとお兄様も深く頷く。
「だからこれ、学校の生徒で研究してもらってはどうかしら」
そう言いながら私はお父様を意識して表情を真似る。意地悪な笑顔は様になるはずだ。だって悪役だもの。
お父様は小さく頷いてこちらを見た。
「及第点、と言いたいところだけどもまだ甘い」
お父様はそう言ってお兄様を見やる。お兄様はお父様そっくりの笑顔のまま私に向き直る。
「これをどこの誰に研究させるつもりだった?」
「え?それは私のお友達じゃ目立つからマークを考えていたけど…」
私がそう言うとお兄様は笑顔を深くして尚笑う。
「それが及第点の理由だね」
私は頬を膨らませて拗ねて見る。しかしそれと同時に頭も働かせる。でもいい考えは浮かばない。どうしてもうこんなに面倒くさいんだ。私は今度こそ幸せになるんだ。その為に魔に負けてなんていられない。
「ううう、優秀な殿下のオトモダチの皆さんにでも丸投げしてしまいたい…」
私は頭から煙が出そうになって思わずそう呟いた。彼らはリーゼロッテに私が頼んで恋愛一辺倒になってもらっているのだ。字頭が優秀でも恋に現を抜かす人達には投げたくない。
「うん、合格点かな」
お父様が私の頭を撫でながらそう言って笑った。
「え?」
「だって、今王室と僕らは距離をとっている。殿下も最近はトリアに執着していないし、良い兆候じゃないか。ここらで彼らに次代の王の候補として側近として真面目になってもらおうじゃないか」
お父様がウィンクをこちらに投げ、私は小さく溜息を零す。相変わらず色気がやばいんだが。