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実験にご注意を



王都の道は昨夜降った雪に覆われ、静かな様相を呈している。そんな日の早朝から、私達はある実験へと向かっている。この実験に対して嫌な予感しかないけど、この実験の結果でこの魔道具の進捗が変わるのだから受け入れるほかない。

私とお兄様は深い溜息を吐いて前方ではしゃいでいる研究員たちを見つめる。私はこの実験に対して、何か悪い事が起こる感覚しか抱かなかったけどお兄様は違うようだ。

「ああ、僕は今すぐに帰りたい。この先の悲劇を知っているからこそ帰りたい」

さっきからこんな風にブツブツと呟きながら、王都から出る東門までたどり着いてしまった。

「さて、今回の実験だが妖精の先見としては悪い予感しかしない。誰かが死ぬとか、そういった類の予感とは違うが気を抜かないでほしい」

お父様はそう言うと研究員たちに慎重に進めるように促した。




門から外に繋がる道では騎士からの補助を得て、研究員たちが魔道具の設置を始める。お父様の後ろにそっと近づき、服の裾を掴む。

「どうしたんだい、トリア」

「念のために、皆の無事を思い描きたいと思って…」

私は不安な顔のままお父様を見つめる。彼は微笑んで小さく頷いた。私達サンティス家はバンシーの血を引く一族だ。近しい者の死を逸早く察知することが出来、それに伴い簡単な未来を感じ取ることが出来る。そして望んだ未来に近付くことも出来る。

でも望んだ未来に導くなんて大層な事は出来ない。あくまで近付けることだ。簡単なことは思い描いたとおりに出来るけど、『誰も死なない未来』なんて創造できないようなことは無理なんだ。


「大丈夫、誰かが怪我をする予感はするけど死にはしない」

お父様が爽やかに私に笑顔でそう告げる。いや、それ無事ではないよね。怪我してるもん。顔を上げても爽やかな笑顔は変わらない。ああ、きっとこれ以上は願えないというか願った後なのだろう。私は速やかにお兄様の後ろに避難する。

そんな私を仕方なさそうに優しく撫でながら、お兄様がお父様に声を掛けた。

「父様、そろそろ始めましょう」

「ああ、覚悟を決めよう」

お父様がそう言うと、周囲に控えていた研究員の方々が前方に合図を送り『魔物ホイホイ』の設置が始まった。






結論から言おう、予想していた以上の惨劇に見舞われてしまった。

『魔物ホイホイ』は結論から言うと、あまり魔物をホイホイしなかった。罠を監視しながらワクワクを隠し切れない研究員達が、集まって来た小動物を見つめ溜息を吐く。しかしその小動物を追い掛けたのか弱い魔物が集まり始めた。小動物たちはあっという間に魔物に食べられてしまう。しかしその後魔物はその場を離れず、罠である魔道具の傍でうろつき始めていた。

まるで花に集まるミツバチの様に、魔道具に吸い寄せられていく魔物。皆感動に顔を輝かせてその光景を見つめている。

ちなみに私とお父様とお兄様は、このタイミングで防御魔法を展開した。


周囲の雪を踏み鳴らしながら、低い草木を踏みしめて歩く音がする。なかなかな大きな足音に、研究員達の表情が固まる。振り返るとそこにいたのは、冬眠しているはずの大きな野生のクマだった。防御魔法の目晦ましのお陰で私達は発見されてはいないけど、クマは鼻を鳴らしながら獲物を狙っているようだ。

『魔物ホイホイ』は魔物ではなく、動物ホイホイだったみたいだ。小動物につられて集まった魔物は、大きなクマを見てそそくさと逃げ去るモノと牙をむくモノに分かれた。クマはそれをものともせずにあっと言う間に蹴散らしていく。


ううん、獰猛である。


すっかり魔物を追い払った(及び食べた)クマは、魔道具の横にドシンと陣取り横になる。何とも恐ろしい光景だ。私達は悲鳴を上げてバラバラに逃げたら、それこそ死んじゃうから動けない。

そんなこんなしている間に、二体目のクマが現れ、さらに増え、四体のクマを冬眠から起こしてしまったという事を悟った。

「これは改良すれば、猟師に売れるかも…」

なんて現実逃避の呟きが聞こえる中、お父様が閃光の魔法を使った。その隙に私達は逃げ出し、転んだりした怪我人を抱えながらも東門まで戻ってこれた。ちなみに設置した魔道具は気を利かせた妖精が満面の笑みで、運んできてくれた。


起動したまま。


魔道具を振り回しながら妖精が持ってきたため、さらに増えた野生動物と魔物達を騎士団とお兄様が倒すことになった。門に居た騎士団が研究員で戦闘が得意でないお荷物達を逃がしてくれた。おかげで戦いやすいと、お兄様が爽やかな笑顔でクマを殲滅したのはトラウマになりそうだった。

ちなみに森でそうしなかったのは生態系を壊すから、とのことだった。確かにクマを倒した街道は降り積もった雪が解け、焦げた地面と地面から突き出た氷柱が点在するカオスな空間になっていた。

氷柱に突き刺さったままのクマに、私はそっと手を合わせた。





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