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魔道具開発の束の間の平穏





「でも何故、善良な魔力が餌となるのでしょうか…」


ここは魔法省の職員が日々研究に勤しむ研究棟だ。私はお兄様について来て、お父様に訪問という名の研究進んでいるかなという視察に来ています。自分の手にある内は他の事が手に付かない程忙しいのに、いざ自分の手を離れてしまうと不安で不安で仕様がなくなるダメな子、ベルトリアです。

そして今この純粋な疑問を零したのは、魔法省でお兄様の補佐兼お目付け役兼従者のケイである。


「単純な話さ、妖精は悪戯が好きだ。白を黒くして汚したくなる衝動というモノだろう」

お兄様は簡潔にそれだけ言うと自分の研究に集中する。

白を黒に塗り替える、これは後でどのようにしても白には戻らない…。何とも背徳感のある行為ですね。この行動に興味を惹かれないと言ったら嘘になる。妖精皆、同じ感情のはずだ。でもそれを実行する気はない。絵に悪戯をするのと違うのだ、白い心に色を塗るともう二度と白には戻れない。私達の起こす騒ぎは戻せる範囲だからこそ、悪戯で済むのだ。それを超えるとただの悪事でしかない。この加減がなくなるから魔に堕ちるというのだけれどもね。



「子供が狙われやすいのは?」

「大人は擦れている。既に白ではないから、純粋無垢な子供に標的が絞られやすいと僕は詠んでいるよ」

「なるほど…」

ケイとお兄様が互いに目を合わせる事無く、自分の手元にある書類や研究結果に手を伸ばしている。お兄様についてお父様の元に向かうはずが、ケイに声を掛けられたが最後、木乃伊取りが木乃伊になるとはこの事だ。

「お兄様、お父様に会いに行きましょう?」

私がそう声を掛けると、お兄様は弾かれたように顔を上げて右斜め後ろにある扉を指差した。

「あの中に居るよ!」

「案内してはくれないのね…」

私は一つ溜息を零すと、すぐ後ろで苦笑いを零すアニーを連れてその戸をノックした。




少し間をおいて、お父様の「入れ」という返事がある。

「お父様、ベルトリアです」

私はそう言いながら戸を開けると、そこは見るも無残に足の踏み場もなく書類という書類が散らばったお兄様の研究室を彷彿とさせる場所があった。ああ、この二人は間違いなく親子だわ、なんて遠い目になりそうな感想しか浮かばない。

「ああ、トリア!ごめん散らかっているよ、あの妖精王からの短い講義で様々な分野の研究が多岐に広がったんだ…。もうその書類が机に乗らなくなってしまって、しばらく家に帰れてないんだよ…」

お父様は書類の山に埋もれながらも私に向かって優しく微笑む。そしてふわりと手を振って書類の間に道を作り、私の元に歩いてきてくれた。

「私もここまで皆が忙しくなるとは思ってなかったもの…。お父様大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。…それで、あの、お母様は怒っていなかったかい…?」

お父様に抱きしめられた私はくすくす笑いながら、お父様を見つめる。彼はお母様によく似た私を見て視線を左右に落ち着きなく揺らしている。

「お母様は笑っていましたよ?」

私はここに来る直前に寄ったサンティスのタウンハウスでの様子を思い返した。



お母様はにこやかに執務室で、領地の書類を片付けていた。笑顔でただひたすらに書類を捌くお母様は、後ろには鬼のような影が見え隠れしていてとても近寄れなかったのを思い出す。ウィルが横でいつものさり気無さを極限まで消して、空気の様に控えているのが唯々怖かった。




「…笑って、いたのかい?」

お父様は頬を引きつらせながらそう呟くと、私を抱きしめる手に少しだけ力が加わったような感じがした。

「ええ、笑って書類を捌いていらしたわ」

私はお母様直伝の微笑を顔に浮かべ、お父様を真っすぐ見て目元を細める。段々と顔色の消えていくお父様を見て、お母様の意趣返しが出来たのだと内心ほくそ笑む。

「僕が研究等に籠って、まだ三日程度だよね?」

お父様はそう言ってすっかり白く染まった顔を引きつらせる。

「何を言っているの?今日で一週間と五日は経っているわ、お父様」

私は輝かんばかりの笑顔を向ける。お父様はもはや死んでしまうのではないかという程、顔色を失くしている。それほど研究にのめり込み、時間と寝食を忘れてしまっているのだ。つまりお母様はご立腹である。一声あれば、絶対許してくれるのに毎度それを忘れるからなあ…。


魔道具の開発が始まってまだ二週目。

すっかりサンティス家に不和が起きましたが、いつもの事です。お父様がお母様に許してもらうために、私と一緒に屋敷に帰ったのは言うまでもなく代わりにお兄様が帰ってこない状態になった。お兄様は授業だけすると研究をしに魔法省に飛んで戻るという日々を送り、緑の妖精王と精霊王に『妹を守る気があるのか』とコンコンと説教をされていた。


そうして魔道具の研究が始まり一ヶ月。

魔物捕獲装置、通称『魔物ホイホイ』は試作品を完成させた。でもそれが一つの騒ぎの始まりになるのを、私とお兄様、お父様は未来視で薄々と感じとる。

「お父様、これ実験必要よね?」

「そうだね、実用化には早いよね」

「二人の言う通り、まずは実験を…」

完成させた魔道具に湧きたつ面々を抑えて、私達は嫌な予感のする未来に足を踏み出した。





更新再開するとか言いつつ、遅れて申し訳ありません!!

コロナ落ち着いてきたら後回しにされた仕事が復活してきた…。

また毎日出来るように頑張ります…。

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