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新しい依頼

前半少し残酷表記あります。





雪が深まってきた頃、とうとう魔物の出現では済まない事件が起きた。王都の子供が魔物に殺されてしまったのだ。その知らせは王都を駆け抜け、学校にも新聞や親からの手紙で知らされた。騎士団や警備の手をすり抜け、起きてしまった今回の事件は実に残酷なものだった。

殺されたのは王都に住む商人の息子で、行商から帰ってくる予定の家族を待っていたらしい。彼が襲われたのは騎士の交代の時間、監視の目が緩んだすきに街道に出てしまった少年はあっという間に森に引き摺り込まれ殺された。

襲ったのはオオカミの姿を模した魔物で、異変に気が付いた騎士によって早々に討伐されたが少年は既に事切れていた。



そんな凄惨な知らせを朝一番に持ってきたのはアリアだった。悲痛な面持ちで私の方をちらりと見る。私を気遣っているのが分かって申し訳ない気持ちになる。曾祖母様を失ってから人死にが出たという話は初めてだった。でも、人が襲われたという事件は数を増しているのが現状だ。

「…魔の動き始めが予想よりも早い…」

シリウスがそう呟いて肩に座っている緑の精霊を見つめる。その様子を見ながらアルも溜息を吐く。

「トリアから聞いていた話では、あと数年は先だったはずだ。どうなっているんだ?」

アルのその言葉に私は頷く。この状況は、早すぎる。まだ何にも準備が出来ていないんだ。魔が攻めてくるのは私達が高等部に上がる時、という予想だった。事実ゲームのベルトリアは高等部に進級しているのだから。ここまで急激に話が進むと、私達は中等部の内に戦いに挑まなくてはいけなくなる。

「私も分からないわ。でももしかしたら、魔道具とかを作ったりしているからその影響かもしれないわ」

私は考えられる一つの可能性を答える。皆不安げな顔を隠さず、俯いてしまう。なんだかんだ言って私達やっと九歳になるのだ。この世界では高等部を卒業すると大人と認められる。十五歳で大人と見られる私達は、もうこの年でそれなりの行動が求められる。それにこの世界は成熟が早いと思う。全体的に見ても子供期間が短いから、あっという間に大人になってしまうのだろう。

小難しい話をしながらも私達のお腹は素直で、ぐうっと小さな音を鳴らす。

「とりあえず、朝食にしよう」

どこか疲れた顔でロイスが笑いかけた。




「今朝報じられた事件から、国として魔除けのお守りを持つことを義務付けられました。皆さん、とりあえずは武術大会の時のバンダナか飾り紐を身に付けていくようにしてください」

朝礼ではターニャ先生がそれだけ言って、連絡事項を話す。とうとう国を挙げて魔に対策を講じることになったみたいだ。でも、これ嫌な予感するな…。

「放課後、ベルトリア嬢は兄上のルーファスと共に初等部校長の部屋へ行きなさい」

案の定名指しで連絡を言い渡された。これはもう新しい魔道具の依頼についてな気がする。

私は返事を返すと、先生にバレない様に小さく深い溜息を吐いた。


授業は滞りなく進んでいく。あっと言う間に放課後になり、お兄様の研究室へと向かう。

「お兄様?」

ノックした部屋からは返事はなく、不審に思った私は戸を開ける。すると突然空気が雪崩の様に私を部屋から押し出した。

「トリア!ごめん、実験失敗した!」

お兄様の声が空気が絶え間なく押し出される部屋の奥から聞こえてくる。風の様に吹き荒れるわけでもない、不思議な感覚を伴った魔道具の暴走に抗いながら私は部屋に押し入る。その瞬間に息が出来なくなって、慌てて自分の周りに空気の幕を張る。

「お兄様、これ何!」

「水中でも息が出来るようにする道具を開発していたら、無限に空気が出るようになってしまったんだよ。このままじゃ普通に息もできない!」

「やりたいことと結果が真逆よ!」

「その通りだよ、まったく…」

私は手を振って魔道具の魔法を打ち消すように魔法を展開する。お兄様は書類の雪崩の中で空気に圧迫されて身動きが取れなくなっていた。

「何してるの…、早く初等部校長のところに行こうよ…」

私が呆れた目でお兄様を見ると、空気の圧から無事に解放されたお兄様が書類から顔を上げた。

「もうそんな時間か…。待たせてごめんね」

お兄様の苦笑いを浮かべてすくっと立ち上がる。そのまま右手を振って魔法で書類を整理してしまう。優秀なのに、どこか残念なイケメンを見ながら私は今日何度目か分からない溜息を吐くのだった。




初等部校長の要件はやっぱり、新しい魔道具の開発だった。

「今回は前回ほどややこしいものではないさ。前回は魔に陥るのを防ぐ道具だったけど、今回は本当に魔除けさ」

簡単そうにそう言って笑うエルフこと初等部校長。彼女は簡単そうに言ってくれるけど、実は簡単じゃない。

「すでに魔になっている者を弾くのを目的に据えるのでよろしいので?」

お兄様がそう聞くと、彼女は意地悪そうに笑う。この笑顔は否定だ。

「それも必要だ。しかし本当に作ってもらいたいのはそうじゃない。魔を呼び込む道具だ」

私とお兄様は驚いて目を見合わせる。今まで防ぐ事、守る事に全力投球してきたのにいきなり正反対の事を求められたのだ。

「おびき寄せる罠を張りたい。勿論知能の高い奴は連れんだろうが、魔物くらいは釣れるだろうからね」

ほほう、つまりはこうですね。



魔物ホイホイを作りたいってことですね!!





すっかり遅くなりました。

GWも仕事でしたが、皆さん体調崩していませんか?

作者は盛大に転んで全身痣だらけです…。この時期怪我も増えてきていますから、皆さんもお気をつけて!

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