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悲しみは突然

遅くなりました…。

今日からまた少しずつ投稿していこうと思います。

皆様、体調には気を付けてコロナに掛からないよう気を付けましょうね!





亡くなったのはお父様のお婆様だった。サンティス先々代当主夫人である曾祖母様は、妖精の里で悠々と老後の生活を送っている方だった。見掛けはまだ五十代のそれだけど、年齢はげふんげふん…。以前家族で里に帰った時に、お婆様と一緒に可愛がってくれたのを覚えている。

寮にいる私にお父様からの手紙が届いて、葬式の準備の為に屋敷に帰ってくるように通達があった。夜にお兄様が寮を訪ねてきて、アニーと私を連れて馬車でタウンハウスに帰ることになった。


家の中は恐ろしいほど静かで、奥からお父様とお母様の慌ただしい準備の音が聞こえてきていた。しばらく休む旨はお兄様から学校に提出済みで、担任のターニャ先生からもお声掛けをもらっている。玄関先でお兄さまと手を繋いで俯いていると、お母様が駆け寄ってきた。

「二人とも、お帰りなさい。すぐに里に向かうからこちらにいらっしゃい」

お母様は涙で滲んだ美しい顔を隠すでもなく、気丈に私達を迎えてくれた。

「お母様、何が起きたの?」

「分からないわ…。でも里の森の入り口まで緑の妖精王様が送ってくれるから、早く着替えていらっしゃい」

お母様のその声で私はアニーに、お兄様はケイにそれぞれの自室へと連れていかれた。そこで着替えさせられたのは見た事の無い光沢を放った、黒色の喪服だ。サリーのような一枚布を体に巻き、郷に行った時に着用したズボンのグレーを履いた。全身が黒に包まれるにつれ、曾祖母様が亡くなったのだと突き付けられる。

急いで下に降りると全員が同じ喪服にいた。お父様が歯を食いしばった表情で私を待っていた。急いで降り立った私をそっと抱きしめると、どこからともなく緑の妖精王が現れ私達を転移させた。




すっかり星空の浮かんだ森の手前で妖精王に案内され、水の郷への近道を抜ける。これは妖精王達の通り道らしく、今日は特別に通らせてもらえている。前回来たような神秘的な雰囲気ではなく、森全体が悲しみに暮れているような感じがした。そして時折咽び泣くような声が響く。あっと言う間に精なる湖に辿り着いた私達は、妖精王に礼を言って水に飛び込んだ。水の中の町は、悲しみに暮れていた。

「イアン…」

お爺様がこちらに向かってくる。それに気が付いたお父様が私達を連れ立って歩み寄る。

「父上、何が起きた?」

お父様はお爺様の肩を掴むと小声で尋ねる。お爺様はこちらにいる私達にちらりと目をやると、首を横に振った。どうやら私に聞かせたくないらしい。

「…母上が亡くなったのだ」

お爺様はそれだけ言うと、お兄様とお父様を連れて郷の屋敷の一室へと入っていった。私とお母様はお婆様に連れられ、曾祖母の眠る部屋へと案内された。そこには石の台に静かに横たえてある、物言わぬ姿があった。ケラケラと楽し気に笑う笑顔をどこかに置き忘れてきたように、無表情に只そこに眠っているのが見えた。今にも動き出しそうでもあり、血の気の失せた人形のようでもあり、とても信じられなかった。


「ひいおばあさま…」


私の呟きは冷え切った空間に吸い込まれるように消えていく。溢れる涙を抑える為に目に力を入れた時、視界が精眼のそれに変わる。視界に見えた曾祖母の遺体は、先程見えた傷一つない姿ではなかった。胸元に確かに残る修復の魔法の痕。ああ、この場所にも異変が始まっている。

立ち尽くす私の肩を、そっとお母様が包んでくれたのだけが温かかった。



曾祖母様の葬儀は翌日すぐに行われた。

妖精の葬儀は、簡単に言えば体を聖なる樹に返す儀式だ。樹の前に曾祖母は運ばれ、曾祖父が彼女の亡骸の額に口づけを落とす。そして魔法によって体の端から光の粒に変わり段々と樹に吸い込まれていく。蛍の様に舞い上がる光は何とも神秘的な光景であり、愛しく悲しい光景だった。関わりの無かった曾孫である私を、可愛いと遊んでくれたのがありありと思い出せる。もっとお話をすればよかった…、妖精の寿命は長いと高を括っていつでも会えると思い込んでいた。

誰からともなく咽び泣く声が上がった。悲鳴のような悲しい鳴き声が青々とした空に吸い込まれていく。私は目の前に広がる非現実的な現実に、目を奪われながらも曾祖母の冥福を祈った。

光となった曾祖母は、最後にこぶし大の大きな光になりふわふわと私達の周りを飛ぶ。そして曾祖父の頬を撫でるように舞うと、そのまま樹に吸い込まれていった。

「愛しているよ、ユリア…」

曾祖父は小さく何かを呟くと、天を仰いで涙を流していた。






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