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秘密のお話




まだ昼前の陽気の中、私達はサロンの椅子に座る。まあ、私はお父様の膝の上ですが。大きく作られた窓からは、精霊の樹を見えげることが出来る。水の妖精王は窓からそれを見上げると、少し嬉しそうに笑う。


「さて、本題に入らせてもらおう。エルドー伯爵家令息のアレン殿」

お父様がにこやかにそう言うと、恐ろしく美しいその顔のせいで迫力が増す。アレンは一瞬息を飲んで空気に飲まれかけたが、お父様をくっと真っすぐ見上げて頷いた。

「どこまで、知っているのかな?」

「…詳しくは知らないんです。私には雷の妖精の血が入っていると聞いています。我が家の家系魔法は元々雷で、より強化する為に父が何かをしたのだという事までは教えられました。そして、私自身が家族から距離を取らされている為、詳しい事は知りませんが」

アレンはそう言うと、じっと水の妖精王を見つめた。彼もまたアレンを見つめている。

「はあ、実を言うとね。僕らもまだ確信は無かったんだ。王達は知っていたみたいだけど、サンティスとしては妖精や精霊を使って怪しい研究をしているという事実しか、掴めなかったんだ」

お父様はそう言うと悔しそうに顔を歪める。妖精や精霊を使った実験、それは禁忌だ。研究熱心な狂った奴らがたまに手を出して、私達やファウスト、妖精王達に痛い目に合わされている。でも、今回それが起きていないのだ。



「水の妖精王様、教えてくれますか?」

私はそう言って、王に視線を送る。彼は頷いてじっとアレンを見つめながら口を開いた。

「こいつの父親は野心家だ。魔力が弱いのがコンプレックスで、どうにか研究で魔力を増やせないか考えていた。彼の子供も魔力は並程度、それがさらに彼の劣等感を刺激した」

妖精王はそこまで言うと、じっとアレンの顔色を窺う。アレンはこの内容を否定せず、少し頷いて話を促した。

「こいつの父親はある日妻の周囲に妖精を一体見付ける。その妻は出産間近で、それに興味を惹かれた雷の妖精だった。彼はその妖精を捕まえ、実験に使う事を思い付いた。そしてその時に産まれたのがこのアレンだ。父親は妖精を逃げられないように魔力を使えない籠に入れ、妖精の血を抜いて息子に入れた」

この話は初耳だったようで、アレンは大きく目を見開く。

「血を引くって…、そんな…実験のせいだなんて…」

アレンがそう呟くと、水の妖精王は鼻で笑う。

「まさか妖精の腹から産まれたとは思っていまいな?」

「…わかりません。母とも、兄弟とも違う別邸で育てられたので」

彼はそう言って俯いた。まさか普段明るいアレンからは、想像できない話だ。彼は家族と離され、一人で育ってきたのだろうか。


「…続きを話すぞ。妖精の血なんて少量でも、人間には害になる。幸い属性が同じだったからすぐ死ぬ事はなかったが、こいつの身体は実験後段々衰弱していった。そしてお前は死に瀕して、父親の興味が削がれた。その間妖精は生きていたし、逃げ出すのを手伝う事も出来た。籠から出した妖精は、お前を助ける為にその体に飛び込んだ」

水の妖精王はそこまで話すと、息を吐いた。つまり実験は失敗して死にかけた息子を、父親は放置したんだ。そして助けられた妖精が、アレンを助けるために体に飛び込んだ。実験は失敗して、成功したのだ。

「…なん、で」

アレンは驚きで固まっている。お父様は小さく溜息を吐くと、じっと彼を見つめた。


「きっと、産まれる前から気に入られていたんだ。そのまま行けば君は妖精憑きとなっていたはずだ。でも妖精の血が体に流され、安定させる為に妖精自ら君に飛び込んだ。これは妖精憑きとは表現できないね」

お父様がそう言うと、水の妖精王も深く頷いた。

「呼称に拘りはない。だがこいつはかなり妖精に近い。人間の形をとった妖精だと思って構わないくらいに、こちらに近付いている。これは生き残らせる為に、融合した妖精がした事だろう」

妖精王はそう言って私に視線を向ける。その目が宝石のように輝いて精眼を使っているのが見えた。ああ、私も使えってことですね。

改めて精眼を使ってアレンを見つめる。私の暁色の瞳がきらりと不思議な輝きを放ったのか、アレンがギョッとした顔でこちらを見る。それを無視してじっと彼の内側の魔力に目を凝らす。


―――あった。




「アレン先輩、闇の魔力も持っているんですね」

私がそう呟くと、アレンは顔を引きつらせて小さく苦笑いを浮かべる。

「…やっぱりか」

彼はそう言うと、自分の両手を見つめる。

「たまに思うんだ。この手で家族に仕返しが出来たらって…」

彼のその呟きに、深く根付いた孤独を感じる。水の妖精王も溜息を吐いてしまう。

「こいつのこれは、環境のせいだ。産まれた頃からの孤独に身を置いて、構われるといったら父親からの実験と称した何かだ。元々妖精は悪戯が好きで加減を間違う。さっきも言った通り妖精に近すぎるんだ、こいつは」

妖精王はそこまで言うと、瞳に憐れみを浮かべてアレンを見た。

「もっと早くに助けてやれればよかったが、俺はその手段を選べなかった。妖精憑きになるのは、妖精の意思だ。その後に干渉はしない事になっている」

「妖精憑きになったのを我らに知らせても良かったのでは?」

お父様が妖精王に問うと、彼は首を横に振った。どうやらそれもダメらしい。彼らは妖精の目を通して全部を見ていた。だから一度は囚われた妖精を助けられた。だけど人間には積極的には干渉しない決まりがある。

「だがともかく、今の状態じゃ彼はどちらにも転ぶだろう。保護するなら任せる」

妖精王はそれだけ言うと、ふわりと水に包まれて消えてしまった。




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