決意と貴族
抜けている場面があったので書き直してます。
誤字などあったらお知らせください…
私たちの体はベルトリアの魂と、涼香の魂で陣取り合戦のようなものが行われている状態だ。場面場面で有用な方を取り立てるようにはしているが、互いの魔力の質の違いにより活躍の場が変わってしまうのは仕方ない。
「旦那様、どうしましょう。私たちの娘が死んでしまうかもしれない危険を、私たちが生み出してしまった。」
お母様は思慮に耽っていたと思いきや、顔色を悪くしお父様に問いかける。その表情は色を失うように焦り始めている。
「お母様、大丈夫です。私とベルトリアは再び一つになることを望んでいます」
お母様を落ち着けようと声を掛けるが、私の声は届かず焦りの声だけが響き始める。
お母様の周りで小さく風が舞いはじめ、美しい白銀色の髪を揺らし始める。
小さくとも大きいとも取れる魔力の揺れを感じる。お母様の中の魔力が空間に顕在化し始めているのだ。魔力の暴走に近い何かが起きる可能性がある。
だがそれは杞憂のようで、どうやらわざと魔力の暴走を起こしているように見せかけているように見えた。
「落ち着きなさい」お父様の一声で、お母様の魔力が一瞬大きく膨れ上がり、爆発するかのように感じたが、次の瞬間には小さく縮んで落ち着く。
浅く深い呼吸がお母様を落ち着けていく。
「お母様、わざと私達を煽るような真似はお辞め下さい。」
私はお母様を無視し、静かに声を掛ける。
途端に少し荒いお母様の呼吸がスッと消え、離れていくのを聞いた。
「あら、今のが演技だと分かったの?」
お母様は微笑みを浮かべ私を見つめてくる。
心配していることは嘘ではないだろうし、事実危惧している事なのだろう。だけどお母様は普段恐ろしく無表情なのだ。微笑み程度しか表情に出さない人が、大袈裟に感情を表に出したら流石に演技を疑う。
私達が自分の娘であることを、大切な存在であることを印象付けようとしているのか。
「違います。お母様の心配もありがたいですが、それを私達に理解させようとするのをお辞め下さい。私達も理解していることですし、なにより私の無表情はお母様譲りであることに気付いていながら、何をおっしゃるのでしょう」
口角を吊り上げるようにお母様は嫌らしく笑う。
「やだわ、私の娘は私に似すぎてしまったようよ」
「やめてくれよ、私に似て表情豊かになったと言っていたじゃないか」
お父様も口角を上げながらお母様に反論する。
ただし、二人の目線は互いでもなく、私にだけ向けられたものだった。
「ねえ、トリア。私嫌な予感がするわ」
『奇遇ね、リョウカ。私もよ』
私達は心の中で抱き合う。両親の見たことのない姿に恐怖を抱くのと同時に、自分もこうなりたいと憧れが胸を過ぎる。
私の美しく優しい両親は私たちが思っているより、腹黒く裏をうまく使い生きてきたのかもしれない。二人で話し合い、裏を突かれないように立ち回ってきたつもりだが、それでも五歳。私たちは大人たちから見たら只のカモなのだろう。
「ベルトリア、最後に確認だ。君たちは争わず、再び一つになる努力をする。それで間違いないかい?」
お父様が私たちに問う。私は静かにお父様に応える。
「少なくとも私はベルトリアとして生きるため、彼女の絶望に満ちた人生を幸せなものにして喜びを分かち合うために生きていくの。その時期がいつになるかは分からない。だけど少なくとも私は、精霊王が敵に回ってしまっても、冒険者として戦いに出たとしても、国を敵に回しても、自分たちで未来を選んでいくことを覚悟しています。」
私はお父様の目を真っすぐ見つめ返す。しばらく見詰め合った後、お父様が先に目を反らした。私はその隙に立ち上がり扉へ向かう。
お父様の視線が面白い玩具を見付けた子供のように光り、私を目で追うのが分かる。
私は少なくとも玩具になる気は全くないし、この家に閉じ込められる気もないのだから。私は自分を奮い立たせ、深々とカーテシーをした。
このサンティスのタウンハウスは脱走ができない様に作られている。
昔からこの血筋を狙う者も多く、またその不自由さから逃げようとする者も多かったからだ。両親は私にそれを改めて突き付けようとしていることを察した。
ここは先制しておくべきだろうか。
「お父様、お母様。私は例え己が立場を脅かされようと、この家が落ちぶれようと逃げることはないでしょう。」
私は逃げはしない。だからこそ怖いこともあるのだが。
「だからどうか、娘の幸せを願ってくださいな。」
私は寂しげに笑いながら、貴族の秩序を表に出している両親を見据えた。この両親に愛されている自覚はあるが、それよりも先にこの国の貴族なのだ。打算をしていたのが分かってしまった。
「お母様、私達はまだ死ぬつもりもありませんし不調もありません。どうかご安心くださいね」
最後にそう言い残し、私は自室へ戻った。