武術大会 22 決勝戦
アレンはこちらに剣を向けながらも楽しそうに笑っている。
彼は手に持った剣に雷を纏わせ、バチバチと弾けんばかりに光と音をまき散らしている。
「君との試合は本当に楽しめそうだ」
彼はそう言うと軽くジャンプするように、トントンと足を踏み鳴らし始めた。私はとっさに風を足に纏って後方に飛んだ。その瞬間私が居た位置にアレンが居た。
「あ、逃げれたんだ。やっぱり楽しめそう」
彼はそう言うとニヤリと笑った。そしてまた、トントンと足を打ち鳴らす。彼の足元を精眼で見ると、微弱な電気が足の内部に送られているのが見えた。
脳から全身に送られる神経の刺激は、所謂電気刺激だ。前世では電気を筋肉に流して収縮させたり、刺激の入力をする物理療法の機械が沢山あった。アレンが使っているのは、この技術だ。ふくらはぎの筋肉、腓腹筋は地面を蹴る力が強い筋肉だ。そこに強制的に電気刺激を加えて、更に魔法の力で恐ろしいくらい早く動いているのだ。
でもそれなら、私も出来る。しかし実行はできないだろうな。だって絶対痛いし、翌日の筋肉痛とか半端ない。
普段から鍛えていて、雷の魔力を持つ彼だからできることなんだろう。
アレンの足に電気が集中する流れが見えた瞬間、私は今度は左へと飛んだ。そしてそのまま後方に飛び、すぐに右に移動して前方に魔法で作った投げナイフを投げた。案の定私を少し追って体勢を立て直すために後方に引いたアレンに向かってナイフが飛んでいく。そのナイフには風魔法が付与してあって、速いスピードで飛んでいく。私のへっぽこスローでもそこそこの攻撃力だ。
カキン―――
鋭い音がしてナイフが叩き落とされ、やはり視線の先でアレンが楽しそうにしている。
「やっぱりすごいね、ベルトリア」
アレンはいつも浮かべている優し気な笑顔と打って変わって、好戦的な少年の顔をしている。
「君が魔法以外も使い始めたらと思うと、楽しくてしようがないよ」
彼はそう言うと再びトントンと足を鳴らす。ああ、次はもうないのだと一瞬にして悟る。これがきっと彼の最後の攻撃。私は右手の炎、左手に氷を纏って足元に電気を走らせる。右手の炎を振り上げ壁のように走らせ、左手の氷は火でも溶けないようにコーティングした上で地面に押し付けた。次の瞬間足元から氷柱が次から次へと飛び出し、アレンを襲った。アレンはそれを楽し気に、事もなさげに避ける。そしてそのまま私の懐に飛び込んできた。私もダメ元でアレンと同じように、足に電気を走らせいつもより勢いよく高く飛んで風を纏った。
見下ろした舞台の上で、アレンはひらひらと舞うように氷柱の間を駆け抜けこちらを見上げた。
ああああ、しまった。これじゃあいい的だ。
「我が義よ、雷撃の矢を」
アレンの悪戯成功を確信した妖精のような笑みに、私は溜息を吐いた。その瞬間私は氷を全部溶かした。そして自分も舞台に落ちる。そして私を狙った雷が私に当たる瞬間に、足元の水にも触れた。
「んんんん!!!!」
戸輝もない衝撃と共に、思ったよりも体が痺れる感覚がする。自分の魔力を上手く使って感電死なんてことは防いだけど、体の自由は効かないようだ。だがしかし視界の端で溶けた表中の水に濡れたアレンが、私に巻き込まれ感電したのはしっかりと確認済だぜ。
「いてて…。まさか自分の雷を食らわせられるとは思わなかったなぁ」
アレンは流石自分の魔力で起こした雷だからか、殆どダメージはなかったようであっさりと立ち上がられてしまう。
「ええ、もう立てちゃうんですか…。こっちは無理だっていうのに…」
私が不貞腐れたように声を上げると、アレンは声を上げて笑う。
「それはそうだよ、自分の魔法の練習で何回雷浴びたと思ってるの」
「それには絶対勝てませんね。はあ、参りました」
「勝者、アレン!」
先生が私の声を聞いて勝敗を告げた。その瞬間この大会で一番の歓声が響き渡る。そして私は恥ずかしながらも体が痺れているので、アレン先輩が抱え上げて袖に降ろしてくれる。
「ベルトリア!!!」
アルが物凄い速さで私をアレンの腕から掻っ攫う。ふわりと私の白銀の髪が揺れ、視界が真っ暗になる。どうやらアルに抱きこまれているみたいだ。
「何だよあの無茶の仕方!心配かけやがって!」
アルの怒鳴り声が少し震えているのが分かる。どうやら私はやり過ぎてしまったらしい。
「そうだね、トリア。お兄様は心臓がいくつあっても足りない気がしたよ」
ふわりと私を撫でる手が増え、心配そうなお兄様の声が聞こえた。でもその声は心配というよりも怒っていらっしゃいますね。あとでお説教ですね。
「心配掛けてごめんなさい。でもどこまでやっていいのか分からなかったし、コントロール出来る気がしなかったの…」
私はそう言うと、アルの胸元から解放され明るくなった視界に瞬きする。
訝し気な周囲の視線と、楽し気なアレンの視線、そして私のセリフの訳を知るお兄様とアルの呆れた目に思わず笑う。
「ベルトリアが何も考えずに魔法を使ったら、厄災そのものだろうね…」
お兄様がそう言って冷たい視線をこちらに向けてきた。
「あら、お兄様も似たようなものでしょう」
私も冷たい視線を返す。そのやり取りにアルが溜息を吐いて、もう一度私を抱きしめた。
「流石に感電するのは予想外だ。死んだかと思った」
「私も危ないと思った!魔力で上手く自分を包んだつもりだったけど、それでもこれだもの」
そう言うと今度はぎょっとした様子で皆に見つめられた。そしてその視線はそのままアレンに移り、彼は楽し気にクツクツ笑うと人差し指を唇に当てコテンと首を傾げた。
何者だよ、先輩。
武術大会ようやく終わりました…。
途中で対戦相手に修正を入れたりしたので、名前が違っている場所とかあると思います。見つけ次第修正をしていくのでご容赦ください!