武術大会19
ちょっとネタっぽくなりました…。
いよいよ私と殿下の試合が始まる。王族は光魔法の使い手が多く、ハリス殿下も試合の流れを見る限りそのようだ。光魔法は闇属性の魔法に対して効果が高い特性があり、使い手がかなり少ない事も挙げられる。
これは初代の王が光の王達に愛された青年であったことが起因する。狙われたこの王国となる前の土地を守るために、その青年は国としてこの土地をまとめ上げた。実際にはサンティスとファウストに頭を下げて、それぞれの一族やエルフ、王達に直談判して認めてもらったのだという。
「俺は今の王子は好まんな」
舞台の袖に立った時に、ふわりと光の妖精王が隣に立った。他の人には見えないように、姿晦ましの魔法をかけているらしい。
「どうして?彼は貴方達が愛した初代の子孫でしょう」
「それでもだ。彼の本質は光になく、血統を引いているだけだ」
「そういうもの?」
「そういうものだ。愛し子の血脈だからと可愛がるのはせいぜい子供の代までだな。俺は精々楽しめればそれでいいのさ」
子供の代までは気にかけてくれるなんて、逆に意外だった。そう言えば緑の妖精王はお父様を愛し子と呼んでいるけど、私たちの事も可愛がってくれてはいるな。私は顔を上げて妖精王の視線をたどると、どこか厳しく悲しげな視線をハリス殿下に向けていた。好まないなどと口で言っても、どうやっても気になってしまうのだろう。
うだうだ考えている私の頭をわしっと雑に妖精王に捉まれる。驚いて目線だけそちらに向けると、ニヤリと楽しげに笑っている顔が見えた。
「負けるなよ、白の乙女」
なんだかその笑顔に触発されたのか、私の中の何かのスイッチが入った気がする。これは完膚なきまでにやってしまってもいいのだろうか。
「勝ってくるね」
とりあえず私は、悪戯を仕掛ける事に決めた。
「ベルトリア嬢、この試合では約束通り本気でやろう」
「ええ、殿下」
私と殿下は舞台の上で睨み合う、もとい笑い合っています。あまりの黒い微笑みの応酬に、先生も冷や汗を浮かべて試合を始めていいのか悩んでいるのが手に取るようにわかります。
「一瞬で、決着を付けましょう」
私がそう提案すると、殿下はポカンと口を開けて驚いてしまった。何かおかしなことを言っただろうか。
「一瞬…と。まさか僕を一瞬で倒せると?」
「その一瞬に本気をぶつけてしまえば、です。というより多分私が本気で手段を選らばなかったりしたら、この会場は崩れ落ちますね」
「…君はそう言えば全属性持ちだったね。そして魔力も無尽蔵と」
「はい」
「では僕も躊躇っていると一瞬で終わらせてしまうと?」
「ふふふ、私妖精の血が滾って仕方ないんです」
「セリフが怖すぎるな」
殿下はそう言うと溜息を吐いて視線を落とす。
「殿下、私は儚げに見えるでしょう?でも実際は魔法だけで言えば、ここに居る生徒の誰よりも潜在能力が高いんです。人は見掛けに寄らず、ですよ」
私が微笑んでそう言うと、殿下は一瞬頬を染めて視線を逸らす。おっと、無意識にあざとい行動をやってしまったようだ。気を取り直して私は言葉を続ける。
「だから、正解を教えてくれない私への仕返しをしてきてくださいな。私は真っ向から迎え撃ちますので」
そう言い切って顔を上げると、ポカンと口を開けた殿下が段々と口を縛って堪らず吹き出してしまうのが見えた。一通り笑い終えた殿下は真面目な顔でこちらを見る。
「豪胆な事を言うね。実は僕は君との試合に勝てれば、先んじてサンティス家に婚約の申し込みが出来るよう父上に許可を頂いている」
「…え?」
「だから負ける気はない。君はやはり面白いよ、どうしても手に入れたくなる。でもそれではダメな何かがある。僕はその為の第一歩として君に勝ちたい」
殿下がそう言ったところで先生がいい加減始めるぞと、手を振ってこちらに示してきた。
私達が位置に着くと、先生が手を挙げ声を上げた。
「試合、始め!」
その合図と同時に殿下が剣に光を纏わせて、こちらに駆けてきた。あまりの速さに目を見張るがそれも一瞬。私は手を広げポケットから粒を取り出した。これは花の種。武器としての持ち込みを許された、正真正銘バラの花が咲く種らしい。詳しくは知らない、緑の妖精王に渡された奴だし。私はそれを投げ、下準備を終える。そして投げる仕草と同時に風を操って殿下に向ける。殿下はひらりと躱そうとして目を見開く。だってその先で私が大きな火の弾を投げたからだ。火は勢いよく殿下に向かいながら、鳥の形をとる。これはただフェニックスをイメージしました。
火の鳥は殿下に向かいながら先程投げた風に煽らあれ、勢いを増して殿下に襲い掛かった。
「なんだこれ!」
殿下が慌てた様子で後方に飛び去って、体勢を立て直そうとする。でもその足を植物の蔦が絡めとる。はい、先程投げた種が成長してます。
「殿下、ご存じですか?植物の生長って光属性の範囲なんですよ。殿下の魔力のお陰で大きく育ちました!」
私はそう言って笑うと、すっかり手足を蔦に絡まれて動けなくなってしまった殿下に近付いた。引き攣った笑顔で殿下は笑いながらこちらを見る。蔦はまだ成長を止めず、仕舞には本当に白いバラの花が咲いてしまった。
思わずその花に触れると、白色は赤色に変化した。そしてほんのり火花を散らしながら、火の属性の花へと変化してしまった。これは知らない、ナニコレ。妖精王は何を仕込ませたの。
「…参った…。これじゃあ、勝てる気もしない…」
殿下がそう呟いたことにより、試合は終了した。でも何だかこの勝ち方はよく分からないの。微妙な雰囲気の私を他所に、会場は大いに盛り上がっていた。