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武術大会18




アルとリンドブルムの四年生の試合が始まった。互いを試すように剣を小さく交え、段々と粗大な動きが重なる。相手が剣と水の魔法を同時に放ってきたことで均衡が崩れた。アルは素早く左に飛び退いて攻撃を上手く躱すと、楽しそうに笑顔を浮かべる。


あの笑顔は、さっき浮かべていた奴だ。これ、何かが始まる気がする。


私の予感は外れなかった。もはや先見のレベルだった。そこからは一方的な蹂躙の始まりだった。

アルが手を翳すと瞬時に風が吹き荒れ、かまいたちの様に相手に襲い掛かった。相手も上手くそれを躱すが、舞台の隅に段々と運ばれていく。そして焦った瞬間に、中央に戻る道が攻撃の間に用意されている。相手は罠と分かっていながらもそこに戻るしか、勝ち目がないから戻っていく。それが恐ろしく的確に素早く、何度も繰り返された。

アルは風の刃、小さなつむじ風を舞台に残った土や石を巻き上げながら攻撃を繰り返す。絶対痛い。相手の先輩は上手く水の魔法で避けながら、勢いを殺しながらも氷魔法までは扱えないようで苦戦を強いられている。

というよりも怒り出す一歩手前という感じだ。試合が始まってしばらく経つけど、これは試合というより嫌がらせと実験を兼ねた何かだ。


「我に道を、波よ!」

ついに怒れる先輩が舞台を洗い流すように、大きな波を魔法で作り上げた。流石にこれは流されると思ったのか、アルは足に風を纏って宙に飛ぶ。そして不敵に笑うと、舞台を洗い流す波に向かって大きな風の渦を放る。風の渦は水を巻き込んで吸い上げ、大きな渦潮へと変わっていく。そして波を全てのみ込んで舞台上に水の渦を作り上げた。

「な、なんてことを!!」

相手が驚いて言葉を失っている隙に、アルは高らかに手を挙げる。

「相手の攻撃も利用してこその、勝利というもんだろ?」

彼はそう宣言すると挙げた手を大きく振った。その瞬間に渦は相手の先輩を飲み込まんとうねりを上げる。

「ま、まま、参ったあああ!!」

相手の先輩の声が会場に響き渡った瞬間、水の渦は霧散するように消える。散った水滴が風に巻き上げられ火の光に照らされ虹を作り出した。幻想的な光景の中、先生の審判が下りアルが勝利を収めた。






まあ、絶句だよね…。これって有りなのかな、試合だったのかな。一方的蹂躙で虐めに近い何かを感じたよ?

会場は熱気をもって歓声を彼らに送っている。私の違和感は私の中に留めておくしかできないようだ。

「いやあ、あれは遊んでた」

アレンは楽しそうにクスクスと小声で笑いながら私の肩に手を置いた。良かった、ここに同士がいるようだ。私が顔を上げると、そこには楽しげな顔をしている人と、何とも言えない顔をしている面々が居た。あのハリス殿下ですら引いた顔してる。やっぱりあれは、心折れるよね…。


舞台に目を向けると、何故か興奮した面持ちのリンドブルムの先輩は嬉しそうにアルと握手している。逆にアルがドン引きした様子で、及び腰のまま握手を交わしているんだから笑ってしまう。

「相手の奴は魔法を上手く使った罠好きな奴なんだ。その仕掛けを悉くアルベルトに奪われ利用されたから、心打たれたみたいだね」

アレンはとうとう笑いを堪えきれなくなったのか、声を上げて笑い出した。舞台を見るとアルが逃げるように袖に降りてきている。耐えきれなかったようだ。その姿を見ていよいよ私達も笑いを堪えることが出来なくなった。






舞台は今の試合でハチャメチャになってしまった。ずぶ濡れであり、抉られてもあり、試合が継続できる状態ではなくなってしまっている。そこで小休止を挟み、土魔法の使える人達で修復をするらしい。

それが終わると、いよいよ私と殿下の試合だ。


「やあ、ベルトリア嬢」

「どうも、殿下」

控えの間で入念にストレッチをしていると、そこに殿下がやって来た。殿下は私の少し離れた場所に腰を掛けると、そのまま会話を始めた。

「以前君の友人のシリウスに、発破をかけられた時僕は怒りに体が震えた。何故王族の僕に指図をするのかと…」

私は頬が引くつくのを感じながら殿下の言葉に耳を傾ける。シリウスが殿下に言ったのは私達の常識の一部であり、この国の王子の彼がまだ知る所ではない事実だ。

「陛下に不満を零すとまさに私が愚かであると、そう言われてしまってね。僕は自分を顧みることにしたんだ。今までの行動は王族であることを笠に着た傲慢な行いもあり、為政者となる者の発言ではなかったね…。今まで済まない」

彼は私に頭を下げると、それだけだからと立ち上がろうとした。私は思わず彼を引き留める。

「殿下、殿下はサンティスとファウスト、そしてこの国の関係をお聞きになりましたか?」

殿下はキョトンとした顔をすると、僅かに笑い首を横に振った。

「監視と守護をされているとだけ、知らされている」

なるほど、と私は独り言ちる。彼は僅かな情報からここまで自分の状態を顧みることができた。凄いと感心せざるを得ない。

「では、私から独り言を」

私はそう言うと、首を傾げる殿下に小さく笑った。


「光の王に酷く愛された青年は、清い心を持ち正義に溢れる人物だった。彼らは妖精と精霊に愛された土地に住み、同じ土地に住むそれぞれの一族と互いに助け合って守り合って暮らしていたその土地は、酷く肥えた土地であり周囲の敵国に常に狙われていた。青年は正義感を振りかざし、困った精霊王達は何かをした」


私はそこまで言うと、口を噤んだ。遠くからお兄様の鋭い視線を感じたからというのもあるが、これ以上のヒントは与えられないからだ。

「それは、建国神話の一部を抜粋したものかな?」

殿下はそう私に問うてくるけど、笑顔を浮かべるだけでその問いには答えない。

「殿下、私が話せるのはここまでです。殿下ならば事実に辿り着くでしょう。もしくは王太子として認められれば、陛下がお話しくださるはずです」

私は視線を軽くお兄様に向ける。私の離した範囲はセーフライン内だったようで、恐ろしい笑顔ではあるが頷いて肯定してくれている。

殿下は何かを考え込むような仕草を見せるが、すぐに頭を振って表情を変える。


「今は止そう。これから試合だ、是非とも全力で相手してくれ」

「わかりました、殿下。逃げないでくださいね?」

私は殿下とそう言い握手を交わし、笑い合った。久しぶりに殿下とまともに会話をしたなあ。ここ最近は互いに避けた状態だったし、色々内心身構えてはいたけど一先ず安心して良さそうだ。

今は、次の試合に集中しよう。




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