武術大会16
さて、武術大会はそもそも二日にわたって行われる大会です。今日は準決勝と決勝戦のみと予定されていたけど、昨日の残り試合も一緒に行われることになった。今日行われる試合の主なトーナメントとしては、アレン先輩とナーガの最終学年の先輩。敗者復活枠で戦っていたハリス殿下とクレア先輩の試合。そしてリンドブルムの先輩とアルの試合。そして私とダニエル先輩の試合だ。敗者復活枠は三位以上に行けない決まりになっていて、トーナメントの枠が足りないと思いきやシード枠というモノがあったりする。二年前の大会で優勝したのが、ナーガの当時の二年生だったらしい。現在の四年生で生徒の人数の関係から出場することになったらしい。
今年はサラマンダーが多く残っているからか、応援の熱が凄い。
「ううう、緊張してきた」
私がそう呻くとアレン先輩がクスクス笑う。その横でハリス殿下も鼻で笑ってこちらを見ているから気まずい。
「トリア、君でも緊張するのだね」
ハリス殿下が私にそう声を掛けてくる。勿論だと深く頷いてアレンの方へと視線を移す。彼は意地悪そうに笑うが、私の頭を撫でて落ち着かせてくれる。
「なにやってんすか先輩」
その手はあっという間にアルに払われてしまって、尚の事悪戯めいた視線に変わる。
「第一試合目はアレン先輩です。頑張ってきてください」
「負けないから、任せて」
彼らはそういうやり取りをすると不敵に笑って、この場の緊張が高まってしまうのが肌で感じる。
「私と殿下の試合も同時進行であるわ。頑張りましょう?」
クレア先輩はそんな空気何て気にせず、目の前の殿下に声を掛けて笑う。彼も笑顔で頷いてそれに応える。さあ、いよいよ二日目が始まる。
アレンとナーガの先輩の試合は、驚くほどにあっと言う間に終わってしまった。アレン先輩の圧勝で。まさに一閃で試合が決まったのだ。怖かった。実況する間の無い数秒で終わる圧倒的戦力差のある試合だった。
こちらを見て笑っている先輩は、視線をアルに向けてさらに笑みを深めた。何してんだこの二人は。次の試合は私とダニエルの試合になる。
「いやあ、アレン先輩化け物か」
アルがそう呟いて楽しそうに笑う。私からしてみたら彼もかなりの化け物である。そうしてきっと私もその仲間なのだろう。
「戦うのは楽しそうね」
私はそう呟いて、自分の準備をする。今回も武器は持たずに舞台に向かうため気合を入れる。
「大丈夫、トリアは勝てる。相手がダニエル先輩だけどな」
アルは悪戯に笑うと私の背中を軽く叩いた。私は一つ頷いて一歩踏み出した。別にダニエルに勝てないとかを不安に思っている訳ではない。昨日の今日で、自分の行動がぶれないか不安なのだ。
ゆっくりと舞台に上がる。その先には既にダニエルが立っていて、気まずそうに笑っている。
「昨日はあんな事になったし、手を合わせ辛いとも思うが本気で掛かってきて欲しい。俺らのけじめだ」
ダニエルは私に爽やかに笑いかけながらそう言うと、スッと剣を構えた。私もそこまで言われては引き下がるわけにはいかない。昨日の夜騎士として礼をとってくれた先輩に対して、私が出来る礼儀とは侮らず本気で相手をする事だ。
私は小さく息を吸って、彼の視線を真っ向から受けて頷いた。
「試合、始め!!」
その瞬間、先生の声が響いた。
先に駆けだしたのはダニエルだった。練習場でアルに相手をしていたような速さではなかった。それよりもとても速い。私はふっと息を吐く。その吐息が目の前に風の柱となって湧き上がる。ダニエルは右に弾かれたように方向を変え、スピードを緩めずこちらに向かう。
私は左手を振って床を濡らす。そして右手を振って床を凍らせる。ダニエルは滑った床に剣を突き立て、足場を固定する。
ニヤリと笑った彼は右手を翳し火の魔法を使って床の氷を解かす。
「小賢しい手ばかりで、攻撃はしないのか花姫様よ」
ダニエル先輩がこちらを煽るように見上げた瞬間、私は風の魔法で床を蹴り上げ一瞬で彼の目の前に迫った。そのまま氷を造形し剣を作り上げると、ダニエルに向かって突き付けた。
何も持っていなかった右手に突然現れた剣に対して、ダニエルは直感的に対応する。キンっといい音がして弾かれたそれを、私は水に変えて散らして距離をとる。
そのまま風の刃を起こしてダニエルに向かって投げつける。ダニエルはそれをうまくかわして私に駆けようとして足を止めた。だってそこに私はいないから。
「勝者、ベルトリア!!」
審判の声が聞こえてからようやく、彼は私に背後をとられている事に気が付いた。私の左手には土魔法で作ったナイフ、右手には雷を纏って首筋に当てているのだ。
「俺の負けだ」
ダニエルはそう言って剣を下ろす。私もその言葉で魔法を解いて手を自由にする。
「ダニエル先輩、楽しかったです」
「俺も楽しかった。変則的過ぎて先読みしにくかったぜ」
私とダニエルは握手を交わし、互いに笑い合う。会場は歓声に包まれ、適度な疲労感と高揚感が私達を包んでいた。