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古代魔法

遅くなりました…

楽しんでくれると幸いです!



よし、頭の中がこんがらがっているベルトリアこと、涼香です。

私がベルトリアの中に入ってしまって早五年。まだたったの五年。

それなのに既に両親からは魂が二つあることに気付かれてしまっている。バレるの速すぎるし、展開急すぎやしませんかね。



冷静に状況を整理して、落ち着きを取り戻そう。

まず私は前世で事故に巻き込まれて死んだ時、光るぼやっとした何かに導かれて気付いたらベルトリアとなっていた。

一方その頃ベルトリアは産まれる前より既に感じ取っていた、己の行く末に絶望していた。そんな時、こんにちはと私がやってきた。それを受け入れた彼女は私の前世の記憶を読み取り、二人で生き残るために画策してきた。


ところがどっこい、私たちの事は昔から両親に気付かれていて観察されてきたのだという。二人で会話していたのを人形遊びのふりをして誤魔化してきたのが、両親にはさぞかし滑稽だっただろう。

無性に恥ずかしい気持ちが胸を占める。

そんな両親が言うには【産まれる前のお腹にいる子供に、別の魂を憑依させる古代魔法】が存在するらしい。そんな都合のいい話があるのか。さすがファンタジー。



「それでは私がベルトリアの中に入ったのは、誰かしらがその魔法を行使したからということですか」

私は冷静を偽りながら両親の説明に返事を返す。

お父様はソファに座り直し、長い足を組みなおす。その横でお母様は相変わらずの無表情で私たちのやり取りを見つめている。

「そういうことだ。そして行使したのはベルトリアできっと間違いないだろう」

お父様が頷く。お父様の考えではベルトリアがお腹の中で私を呼んで、受け入れたと。

彼女の受けたショックのあまり、無意識のうちに起こした魔法の事故のようなものだというのだ。


「この魔法には代償が必須とされている。その代償とは妖精の生き血。その為禁忌とされている術の一つだし、失われた魔法の古代魔法だ。」

古代魔法―――

それはかつて栄華を極めた精霊や妖精、エルフたちの魔法の研究の証。研究を突き詰める余り、とうとう命を代償に使うような取り返しのつかない魔法を数沢山編み出してしまったとされている。それが≪魔法の黄金期であり、暗黒期≫とも後に称されるようになった時代である。この時代に作られ記されたのが古代魔法だ。

これらの魔法の記された魔導書は後の世で、エルフたちが破棄したとされている。今残っているのはどんな魔法があった、という只の記録に他ならない。

ゲームの世界でも分岐の中では軽く触れることのあった内容だから覚えている。


だからこそ私は息を飲む。お腹の中にいたのにベルトリアにそんなもの用意できるはずがないし、方法なんて知るはずもないのだから――

――いや、代償こそはベルトリアだから用意ができたのだろうが。


何かに気付いた様子の私の顔を見て、お父様はニヤリと笑う。

「妖精の魔法というのは書物ではなく、血に記されるとされている。そもそも未来予知、未来観測という能力は妖精の持つ能力だが、これも血に記された魔法の一つだ。私の先祖のバンシーはその力を持っていたらしい。先祖返りの私も何となくの雰囲気程度の未来は感じ取ることができる。ただ、古代魔法を一人で使える程の魔力を妖精は持たない。」

私はお父様の言わんとすることに気付き、眉をひそめる。

つまり妖精は魔法を行使するのに呪文を使う必要はなく、媒体としては己の血を使うからスムーズに実行できる。だが古代魔法の行使では魔力がそれに伴わず、実行できるに至らないという。


「そんな事ができるのはエルフの膨大な魔力だけだ。」

お父様の視線が私を通してベルトリアを射抜く。

ああ、なるほど?


「ベルトリアが、エルフ譲りの膨大な魔力を持ってして血の中に記された古代魔法を無意識に使用し、自分の血を代償にと使った。」

私の答えに両親は頷いて、肯定を示す。

きっとこれは一種の魔力暴走であり、ある意味の奇跡だ。もし魔法が失敗していたら私たちはどうなっていたのだろうか。



私は頭の中で問いかける。

――魔法を使ったのはベルトリアだって言われているけど、覚えていたりする?

『使った気もするし、わかんないの。一人は嫌だと思ったら貴方が来ただけだから』


なるほど、やはり無意識。血で魔法を使うという事はこういう事なのだろう。

「ベルトリアちゃんは私と同じ髪色で、エルフの血が強いと思っていたから魔力の量には納得よ。でもどうやら身体の中は妖精の血もかなり強いみたいね」

お母様が何かを考えながら独り言のように語る。

ソファで視線を下に下げながら何やら思案に耽っている様子だ。

「血で魔法を使うのは妖精の特徴の一つ。膨大な魔力はエルフの特徴。貴女は本当に私たちの血を足したまま産まれてきたのね」

お母様は私の顔を見つめ直す。美人にじっと顔を見られると、迫力が物凄いことになるんだと明後日方向に思考を飛ばす。


「貴女達は非常に危ういわ。古代魔法を行使できるほどの魔力を持ち、無詠唱で魔法を行使できる血を引き、魂を二つ持った状態で、未来を知っている」

危ういわと、お母様は繰り返す。

そんなお母様の肩をそっと、お父様が優しく抱き寄せる。

「そういえば、今朝より魂の結びつきが離れているね。どうしてだい?」


そういえばベルトリアも似たようなこと言ってたな。


「私たちが別々の個々であることを思い出してしまったからです。思い出したらすぐに離れてしまいました」

私はお父様をまっすぐ見つめて答える。

お父様は驚いた顔をして、すぐに真剣な表情に戻る。

「それは危ないね。この魔法は混じり合うことで完成する。上手く混じることができなければ二つの魂が譲り合うのではなく、体を奪い合うことになる。」

「私たちのせいね、一つになろうとしていたこの子たちを剥がしてしまった」

両親はまた思案顔に戻り、ぶつぶつと何か相談されている。


私はそれを横目にベルトリアと会話を始める。

『いま私達はこの状態が嬉しいけど、このままじゃダメなのよね』

「そうね、分かってはいたけど共存はできないみたいね」

『うん。表には貴女に出て欲しい。私だときっとこの世界の流れに引きずられるから』

「わかったわ。じゃあ表に出るのは私。でも、貴女が居なくなるのは嫌」

『大丈夫、また上手に混ざればいいのよ。また内側から貴女を助けるわ』

『「私たちの人生ですもの」』

ベルトリアの寂しい決意の声が頭に響き、ダイレクトに感情が伝わってくる。共有した記憶と感情。これを忘れてはいけない。

私も決意新たに、これからの事に頭を巡らした。






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