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武術大会14




「シリウス!!」

私が大きな声を掛けると客席にいたシリウスとロイス、アリアが肩を跳ねらせて驚きの声を上げる。

「ど、どうしたの…」

シリウスが震える声でこちらを窺う。視線を舞台へやると、喧嘩が一層激しさを増して先生が二人を止めている。このままじゃ危ない…。私はシリウスにもう一度視線を運んで、もう一度ダニエルの兄へと視線を移す。

「…!!」

流石にそれで気が付いたらしいシリウスは、慌てた顔で私を見つめる。

「どうすればいい?」

「防御の結界みたいなのって張れない?」

私がダメもとで彼にそう聞くと、彼は不思議そうな顔をして頷いた。

「魔法じゃなくて、聖なる力の方でなら使えるよ」

私は彼の言葉に驚いて、目を見開く。シリウスはしてやったかのような笑顔を一瞬浮かべるが、時間がないのは変わらない。

彼は左手をさらりと振ると、客席と闘技場の間に見えない壁を張った。一瞬虹色に輝いたそれは、瞬く間に見えなくなってしまう。客席はざわついたが気にする者も少なく、次第に収まっていくだろう。

「ありがとう、何かが起きたら避難指示をお願い」

私はロイスとアリアに言うと、二人は大きく頷いた。私は彼らを尻目にお兄様の元に向かった。






「トリア!」

「お兄様!」

私が選手の控えの場に戻ると、そこには既に知らせを受けたお兄様と緑の妖精王が待っていた。全員で舞台に目を配れる場に戻れば、そこでは既に一触即発の状態になっている。止めるはずの先生も、心なしか諦めの色が見えて試合を始めようとしているのが分かる。

「リンドブルムのエリオットか…」

お兄様がそう呟くと、眉を顰めるのが見て取れた。

「彼は弟に対して劣等感の塊だ。対して弟は兄に優越感も何も抱いておらず、まさに眼中にないといった状態。だからあそこは仲が悪い」

お兄様のその呟きに合わせたかのように、試合が始まる。まずは普通に剣で戦うようだ。いきなり事が起こらずに安心して息を吐く。

「ほう、あいつは自分が闇に魅入られている事に気が付いておるな」

妖精王がそう言って、楽し気に顎に手を添える。何もいい事はないんですが?それを止めるの私なんですけど。


試合が激しさを増していく。どんどんダニエルにエリオットが押され始め、場内の空気は比例するように重々しいものに変わっていく。

「魔が、来たな」

妖精王がそう呟くと同時に、試合の流れが変わる。エリオットがダニエルの剣を大きく弾いたのだ。剣を弾かれたダニエルは慌てて魔法を使うため、手を翳して動きを止めた。視線の先でエリオットが、何かに磔にされていたのだ。黒い闇を模したような蜘蛛の巣に、絡みつかれるようにエリオットはそこにいた。

「な…なんだこれ…」

エリオットはそう呟くと、目の前にいる弟に目をやる。何が起きているのか信じきれない様子の弟は、目を見開いたまま動かない。

私は精眼を使い、目の前の光景に注意を払う。そしてエリオットの中から魔の力を感じ、そして抗おうとするエリオット自身の魔力を感じた。

堪らず舞台に飛び出すと、私のすぐ横にお兄様と妖精王も付いてきた。

「ダニエル先輩!離れて!」

私はそう言って彼を引き離そうとした。でも彼は動かない。

「…兄貴?何してんだよ、そこから離れろよ…」

ダニエルはそう呟くとエリオットに向かって駆けだす。慌ててそれをお兄様が羽交い締めにして止める。

「離せよ!兄貴!」

ダニエルはお兄様に食って掛かりながらも、視線は自分の兄から離すことはない。エリオットは目の前の光景が信じられないように、目を瞬くと嬉しそうに笑う。

「まだ、俺はお前の兄貴でいられたんだな」

彼はそう呟いた後、私達に視線を向けた。ああ、いけない。もう彼の中から孵化してしまう。

「退避!!!」

先生の誰かが叫んだ。しかし客席に居た生徒や来賓は、既にアルやロイス達によって外に誘導が開始されていたのか阿鼻叫喚には陥らずに済んでいるようだ。



私は風の魔法を纏い、闇に絡まれたエリオットに向かい急ぐ。それを見付けた先生が止めようとするが、妖精王によって阻まれる。私は無事にエリオットに辿り着くと、彼の中に巣食う闇に目を凝らす。

「お前は、妖精の花姫か?」

「そう呼ばれているけど、私は魔と戦うことになっているの。さっさと魔と手を切りなさい」

エリオットが苦しそうに私に問い、私は投げやりに答える。彼はクスクス笑うと首を横に振る。

「もう無理だ。俺の事は俺が分かる」

私は彼の言葉が嘘ではないけど、真実ではないことに気が付く。まだ彼の本質的部分、いわゆる魂の部分までは魔に侵食されていないのだ。

「いいえ、まだ大丈夫よ。ギリギリね。助からなくても恨まないでね」

私はエリオットにそう言って、両手から魔法を練り上げる。私のその言葉を受け彼は驚いた顔をした後、悔しそうな顔を浮かべる。

「…どんな顔を合わせればいいんだよ…。闇に手を貸したんだぞ?」

「それでもよ。彼らは人の心の弱い部分に付け入る」

私はそう答えながら浄化の魔法と、闇払いの魔法を両手にそれぞれ作り上げた。

「悔いるなら生きて悔いなさい。ちゃんと可愛い弟に向き合ってね、先輩」

私は彼の返事を待たずに、作り上げた魔法を彼に打ち込んだ。今作った即興の魔法ではあるけど、効果に間違いはないはずだ。


眩い光が視界を覆い、何も見えなくなった。





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