武術大会13
試合は次々に進む。拮抗した実力のいい試合が繰り広げられる中、圧倒的な戦力差を見せつけられる試合も多々あった。そしてそういう試合に限って、負けた方の選手に支給された魔道具は身に付けられてはいないのだ。
「負けた奴らは大抵、自分の家格や金に物を言わせた奴らだ。そう言うからには馴れ合いのような、揃いの魔道具何てつけたいと思わないんだろう」
アルがそう言いながら、襟元に付けている紐飾りを撫でる。今は動きやすい服装になっており、普段ローブに付けたような飾り方とは違ってシャツに飾っている。私は髪を結い上げるのにバンダナを使った。女子生徒は私と同じように髪に付けている人が多い。
「無駄なプライドね。実力で選ばれてないから恥を晒すだけ晒しているし、本当に何がしたかったのかな」
「さあな」
私達が小声で話していると、後ろから肩に手を置かれた。
「そう言ってやるな」
「ダニエル先輩」
そこに居たのはダニエルだ。苦笑交じりの彼の顔を見上げると、顎である方向を指し示される。そちらに視線をやると先程負けた不甲斐ない選手がこちらを睨んでいるのが見えた。
「バッチリ聞こえたみたいだぞ」
「うわあ…」
「…面倒くさい」
私達は小さく息を吐くが、自業自得なので視線を反らして話題を変える。
「次の試合って、誰でしたっけ」
「俺だよ、お前ら…」
どうやら次の試合はダニエルの番らしく、苦い顔をしながらも楽し気に腕を振っている。そんな彼を見ながら私とアルは小さく笑う。
「先輩、頑張って下さいね」
「おうよ、負ける気はない」
私が微笑んでダニエルを見つめると、彼は目線を反らして目元を赤く染めてそう言った。目が痒いのだろうか。
ダニエルはそのまま剣を片手に、袖から舞台に上がる道へと歩き出していった。
彼の試合の相手はリンドブルムの生徒だ。何だか舞台の上で会話をしているけど、その様子から気遣いに満ちた会話ではないのは明らかだ。
「何だか喧嘩してない?」
「そんな風に見えるな…」
私とアルは訝し気に視線を舞台に向ける。そこに居るのは少し背の高いダニエルそっくりの男性だ。
「相手、ダニエルに似ているわ」
「…本当だ」
「あれ?君ら知らないの?相手はダニエルの兄のエリオットだよ」
私の隣にアレンがやってきて、にこりと笑って答える。ダニエルにクラスの違う兄が居たことが驚きだ。
「そもそも彼らは恐ろしく仲が悪い」
アレンの楽し気な声を聞きながら、不穏な気配が漂ってくるのを肌で感じる。嫌な予感が胸を過る中、一瞬目の前が霞んで視界と重なるように壊れた舞台が見えた気がした。瞬きをすると元の視界に戻り、何事も無かったかのように目の前の光景を只見せてくる。
「…だめ」
私は無意識に口から言葉が零れていたようで、横に居るアルとアレンから不思議そうな視線が向けられる。
「…危ないわ、だめよ…」
一瞬見えた光景に心が持って行かれる。私のその様子に何かを感じたアルが、私の視界を隠すように目の前に立ちはだかる。
「何が見えた?」
先見が起きたことを疑わないその言葉に、私は声を詰まらる。私の肩をアルがしっかりと掴んで、安心させるように名前を呼ばれた。私は弾かれたように顔を上げて真っすぐにアルを見つめる。
「すぐに王達を…。この試合で事が起きるわ」
私がそう断言すると、アルが弾かれたように足に風を纏い目の前から消えた。アレンは驚きに目を瞬きながら、理由を話すようこちらに視線を向ける。
「これは私達の問題でもあり、この国の問題でもあります。理由は言えませんがこれだけは言えます。今この瞬間を逃せば、この場所は危険な状況になる」
私が真顔でそう言うと、いつものへらへらした様子を消し去ったアレンが私を真っすぐに見つめた。
「確実に?」
「ええ」
「何故そう断言できる?」
「だって私、妖精ですから」
私がそう言ってニヤリと笑うと、アレンもニヤリと笑ってこちらを見た。
「先見ってやつかな?」
「家系魔法は秘匿ですよ、先輩」
「これは手厳しい」
「それじゃあ、動かなくてはいけないので失礼します」
私はそう言うと、踵を返して早歩きで歩を進める。右手を翳して魔法を使って精霊を呼ぶと、彼に光の精霊王と妖精王に言付けを頼む。
『魔が動き出す』
私はそう言うと、ポケットから飴球を取り出して精霊に託した。精霊はふわりと笑うと、魔法陣の中に帰って行った。さて、アルは緑の妖精王に声を掛けに言っているだろう。私は光の方に働きかけた。あとはシリウスとお兄様を呼ぶ必要がある。
「時間が惜しいわ」
私はアルがしたように、風を足に纏わせると急いでシリウスの元に向かった。