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武術大会12

昨日は更新できず、すみません…

今日もよろしくお願いします。




クレア先輩が袖に戻ってきたのを笑顔で向かえる。先輩は清々しい笑顔で、少し悔しそうに笑って私達に手を合わせて笑う。

「ごめん、勝てなかった」

そのお茶目な笑顔に自然とこちらの笑みも零れる。でもその時先輩の口元が少し引くついているのが目に見えた。

「クレア先輩、お疲れさまでした。先輩の試合、舞うように見えてとても綺麗でした。お疲れさまでした」

私はそれだけ言うと、先輩の手をそっと握り俯く。先輩はいつもよりワンテンポ遅く私の頭を撫でると、私に声を掛けてきた。

「引き分けって悔しいね。そう言ってもらえて嬉しいわ」

私はクレア先輩にそう言った言葉を言わせてしまったことが悔しい。彼女は勝てなかったことが悔しいのだ、後輩たちは勝ち上がって自分は勝てなかった。そしてその後輩に試合でない部分を称賛される。

「月並みな言葉しかかけられず、申し訳ないです…。でも私、お姉さまの戦い方が本当にきれいだと思ったんです。周囲の状況にさりげなく目を張らせながら、網目の様に攻撃と魔法を操るなんて…。私にはとても出来ません」

私はクレア先輩に言葉を続けてかける。私の言葉が意外だったのか、先輩は目を開いて驚かれる。

「ベルトリアさんは私より優秀でしょう」

「そうじゃないんです。私の視野はまだまだ狭い。経験も浅い…。先輩の様に優雅には戦えません」

私がそう言って落ち込むと、クレア先輩はくすくすと笑って私の頭を撫でた。

「貴女は凄いわ。私も負けてられない。敗者復活戦で返り咲いて見せるわ!」

先輩はそう言って、吹っ切れたように笑うとその場を去った。私はその背中を見送ると、再び舞台に視線を戻した。そこにいるのはアレン先輩と、ハリス殿下だった。



「いやあ、殿下。お手柔らかに」

アレン先輩がそう言うと殿下は訝し気に首を傾げる。

「剣術の家門である君が、僕に遠慮する必要はない。僕は本気の君たちに勝たねばならない。こちらも事情があるのさ」

「そうですか。それはまあ何とも楽しめそうな言葉ですね」

アレン先輩がそう呟くと同時に、先生が右手を振って合図をする。いよいよ試合が始まるようだ。



先生の声と共に試合が始まる。激しくぶつかり合うのではなく、互いに攻撃を弾いて流すように、淀みなく動き続けている様は圧巻だ。

「すごいわ、殿下ってこんなに動けたのね」

思わず口をついて出たのは失礼な言葉だったが、私の横でお兄様も同じような視線を彼に向けているので気にしない事にする。

「殿下も鍛錬をしっかり積んでいるけど、アレン君だっけ。彼、凄いよ」

「どういう事?」

「きちんと殿下と対等な試合をしているように見せてる。というよりギリギリで躱して遊んでるみたいだ」

お兄様がそう言いながら試合から目を離さない。改めて二人の様子を見ると、真剣な表情で剣を振る殿下と、楽し気に踊るように剣を振るアレン先輩が見えた。

「あれ?」

私はあることが気になって、首を傾げる。お兄様はニヤリと笑うと、私の方を見る。

「どうしたんだい?」

「アレン先輩、一歩も動いてない…?」

「お、気が付いたね」

アレン先輩は試合が始まって、実はほとんど位置を変えていない。動かずにハリス殿下の剣を流しているのだ。殿下は攻撃の手を緩める事無く、様々な角度から仕掛けているけど先輩は背中に目がついてるのかっていうくらい動かずに往なす。


「殿下も強い。でもアレン君は末恐ろしいね」

お兄様はそう言って楽しそうに椅子に座り直した。私は剣の事はよく分からない。でもこの試合がハイレベルなのだけは分かる。

試合は続いていく。とうとう殿下のスタミナが切れ始めたのか、少し肩で息をしているのが分かる。その時アレン先輩が一歩前に出た。

「ところで殿下、何をそんなに焦っていらっしゃるのかな」

アレン先輩が殿下に声を掛ける。殿下は訝し気に先輩を見ながら剣を構え直す。

「剣は焦った方が負けるのです。常に冷静たれ、視野は広く持つ。これが基本です。殿下は今冷静であることが出来ていない」

「…自覚しているさ」

「ならば一度、落ち着きなさったら?」

「手を緩めても負ける気がするのでね」

二人は言葉を交わしながら、隙を狙ってゆっくりと動く。その瞬間、アレン先輩が消えた。

「試合終了!サラマンダーの勝利!」

次の瞬間には先生の声が聞こえ、そして漸く殿下の喉元にアレン先輩が剣を添えているのに気が付いた。


「…くそっ」

「焦るからですよ」

アレン先輩は剣を下げ、殿下に向かって手を差し出した。

「いい線行ってましたよ、殿下。少し気合を入れるくらいには」

「…次は勝たせてもらう」

「恐ろしいですね。でも負けません」

殿下は差し出された手を握って、握手を交わす。盛大な歓声が響きわたる中試合が終了した。



「やあやあ、お疲れ様。勝ったよ」

アレン先輩はにこやかにそう言うと、サラマンダーの生徒にハイタッチを求めていく。私と手を合わせ、アルとも手を合わせ、最後にクレア先輩と手を合わせる。

「おめでとう」

「ありがとう」

二人はそれだけ声を交わすと、こちらを振り返って笑う。

「さあ、僕らの勝利の為に頑張ろう!!」

アレン先輩の気の抜けるような声掛けに、私達は笑い合って気合を入れるのだった。






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