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武術大会10

兄妹回です。




袖に引っ込んだ後も、他の選手からの激励の言葉と畏怖の感情が露わな視線に晒された。そして、化け物を見るような視線にも。

私は花姫として可憐な儚げな庇護欲をそそる少女として、認識されていたのだと笑えるくらい理解した。どうだ、本当の私は最強チートだぞ。


不躾な視線を躱しつつ、奥で待ってるアルに声を掛けた。

「おっ、盛大に魔法を使ってきたお姫様だ」

アルは揶揄いを多分に含んだ目で私を見て、そのまま私をぎゅっと抱きしめた。私は驚きのあまり動けなかった。それに、その腕の優しさから離れたくなかった。

「…大丈夫か」

「うん…」

アルはそれだけ聞くと、私は小さく頷いた。きっと私の顔色が悪かったのだろう。そして周囲の私を見る目線に気が付いたのだろう。だって私もそう思う。自分は規格外の化け物なのかもしれないって。

「大丈夫だ、お前はお前だ。他の何でもない」

「…うん」

私はそれだけ呟くのが精一杯で、自分の胸に湧いたこの感情が何なのか分からなかった。強くあるのは望んでいたんだ。魔と戦うためにも、強くなりたかったんだ。守りたいから、恐れられるのは厭わなかった。でもいざ、この視線に晒されると訳の分からない孤独が胸を覆いつくしていく。

私の胸を黒が塗り上げていくのを感じ、こうやって魔が心に付け入るのだと自覚した。大丈夫だ、私には仲間がいる。でも彼らにも怖がられたら、どうすればいいんだろう?

考え込んだ私からアルがそっと離れる。温もりが遠くなったことに不安を感じ、顔を上げるとこちらを心配そうに見つめながらも、苦笑する優しい顔が見えた。


「安心しろ、お前はいつも通り馬鹿みたいにすげえよ」

「…何それ」

「通常運行で規格外なんだ。今更俺らがそれに対して何も思うところはない」

「……」

「…それじゃあ、まだ足りないか?」

「ううん…、ありがとう」

私とアルの間で交わされた会話は、ほんの数言だ。でもその言葉に少し安心する。アルはくしゃりと破顔して、私の頭を撫でた。

「ルーファス先生呼んでくる」

彼はそう言って私から離れた。走り去っていく後姿を見ながら、自分の背中に背負う荷を彼らにも背負わせていいのか、その疑問が再び私の心を曇らせていった。





トーナメントは進んでいく。私の次の試合はまだ先らしく、その間にアルがお兄様を呼んできてくれた。

「ベルトリア」

「お兄様…」

私はお兄様の腕に飛びついた。お兄様は何も言わずにそっと、私の事を抱きしめてくれた。妖精でありエルフであり、人間である。そんな混ざり者の私達は他に類を見ないのだ。この世で立った二人だけの、私達が感じている孤独。

「お兄様も、この事で悩んだりした?」

「ああ、勿論。強すぎる魔力、深すぎる魔法の知識、一時期は友人からも距離をとったことがある。というよりもその頃のせいで、友人と呼べる存在はかなり少ないんだ」

お兄様はそう言うと、私の頭をそっと撫でてくれた。控えの席からも試合が観戦できるように椅子が置いてあり、私とお兄様はその端の席でゆっくりと会話をする事にした。

「僕はトリアほど魔法の扱いが得意じゃない。けれどエルフ譲りの魔力もそれなりに持ち合わせているし、妖精の血を使って魔法も使う。流石に全属性を一度に使う事は出来ないけど、三属性までなら同時に簡単に使いこなしていた」

お兄様はそう言いながら、視線は試合に向けている。上級生たちが剣戟を繰り広げているその光景を、どこか懐かし気に眺めている。


「…お兄様も選手になっていたの?」

「ああ、中等部の間はね」

私はお兄様を見上げる。中等部の間という事は、高等部では選手にならなかったという事だ。

「僕は魔法も得意だけど、実は剣も結構得意なんだ。そのお陰で善戦連勝。あっと言う間に僕に勝てる生徒が殆どいない事を理由に、選手から外されるようになってしまったんだ」

私は目を見開いてお兄様を見つめる。魔法の指導は受けたけど、剣の指導はお兄様からは受けてない。その技術が如何ほどか、私は知らないけど素晴らしいもののようだ。その爽やかな美しい顔で、流れるように氷の剣を使うのを想像する。なるほどけしからん。

「お兄様、私にも剣を教えて?」

「うーん、もう少し大きくなってからね」

「私も剣が上手になったら、魔法をあまり使わずに皆と同じ土台で戦ってみたいの」

私がそう言うと、お兄様は目を見開いて驚いている。きっとこれはお兄様も昔抱いた願いなのかもしれない。

“皆と同じになりたい”という希望を。そもそも長寿であることで浮く私達は、その美しい相貌で視線を更に集める。私達は産まれながら、平穏から遠い存在になってしまっているんだ。


「そうだね、そうありたいね。でも出来ない事もあるんだ。自分を受け入れなさい、ベルトリア。お前の孤独はお兄様の孤独だ。乗り越えられないものではないよ」

お兄様はそう言って、私に微笑みかけた。その笑顔がとても優しくて、寂しくて、現実を認識させてくれるには十分だった。そして、お兄様ともこの感情を共有できていることが何より胸に刺さった。


「お兄様、私はお兄様の理解者に慣れてるかな」

「たった二人の兄妹じゃないか、ベルトリアは何時だって僕の天使だ」

私はお兄様の手を握ると、そっと光魔法の浄化をその手に流した。私の孤独は、まだ心にある程度だ。でもお兄様の孤独は、私の比じゃないはず。きっと心のどこかに闇が燻って、それがお兄様にこんな顔をさせているんだ。

お兄様は突然の浄化の魔法に驚いた顔を見せたが、小さく笑うと「ありがとう」と呟いてくれた。

心なしか晴れやかなお兄様の笑顔に、小さく私は安堵する。

「僕等にしか分かり合えない物がある。それを互いに分かり合って、支えようと思う気持ちが本当に嬉しいよ。流石自慢の妹だ」

お兄様はそう言って、私のこめかみに優しく唇を落とした。






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